ファザコンぎぷす第41話
別れの儀式
シャワーを出しながら、六海は言った。
「こうしてシャワーを浴びるのは初めてね」
ブルッ・・・冷たい水が、2人に降りかかり、一瞬体を硬直させたが、2人はただ抱きしめあった。
「いそがないといけないよ」
川原は、降り注ぐシャワーのぬるくなってきたその水を、六海の髪の毛から拭い上げながら言った。
「いいの」
シャワーは構わずに温度を上げて、2人に降り注いだ。
「だって」
「いいの、こうしていたいの」
そういうと、左手をゴウチンに当てた。
「そんな時間はないんだよ」
「いいんだってば、知ってるわ。パパ、死んじゃったんでしょ」
川原はどきりとして、顔に降り注ぐシャワーを拭った。
「わかってたわ。もうパパは、あの交通事故のとき、死んでいたはずなのよ」
「ちゃんと歩き回ってたじゃないか」
「それは、ゴッド・ハンドと呼ばれる木村先生がいたからなの」
「ゴッド・ハンド?」
「もうパパは、六回の脳手術を受けていた。普通の先生なら見放すところだったのを、六度も生き返らせたのよ。六海の数だけは生きて見せるさ、それがパパの口癖だったわ」
「六度の脳手術・・・」
「もう、次はどんなにがんばっても無理です、と木村先生は言った。でもパパは・・・パパは」
そういうと、左手をゴウチンからはずすと、器用に左手だけでシャボンをその手のひらにつけ、またゴウチンにあてがい、包み込んだ。
「パパは、木村先生の5人の弟子たちに、木村先生の技術を見せて、覚えさせるためにがんばってたのよ」

六海はシャワーを止めると、しゃがんで、両手でゴウチンを洗った。
「ふふふ、あなたが最後のはずだったのにね、ごめんね」
「あ」
「私は、子供の頃からずっとこうしてパパと、パパのものを洗わされてきたわ。でももうできないから、ね、いいでしょ」
川原は、六海の髪の毛をいじった。
「どこの家の子も、自分のパパのものはこうして洗ってあげるものだと思って育ったの。おかしいね。それが当たり前だと思い続けたんだから」
六海は今までに覚えさせられたすべての洗い方でゴウチンにつくした。
彼女なりのパパとの別れのしかただったのだろう。
六海の肩が小刻みに震えていた。
それは、ゴウチンを洗う動きとは関係のない動きだった。
「六海・・・・」
「お湯を出してくれる」
六海は真っ赤になった目を向けそういうと、優しくゴウチンを両手で磨いた。
そして、降り注ぎ始めたシャワーを当てると、シャボンを洗い流されたゴウチンを口に含んだ。
川原は複雑な気持ちだった。
俺は・・・・なんだ。
なにをしていたんだ。
そして、何をしてきたんだ・・・・・シャワーが川原を頭から流していった。
川原は、ぐいとシャワーのノブをひねり、シャワー一番を強くした。
激しいお湯が、2人を叩いていた。
ファザコンぎぷす最終話に続く

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