拙著コラムより。食って大切なんですよ。
2月15日産経新聞大阪夕刊
デンマークは現在、キリスト教・プロテスタントの福音ルーテル派を国教としています。しかし、17世紀ごろには、イギリス、オランダから広がった清教徒(ピューリタン)の影響も受けました。清教徒は、勤労こそが神へ通じる道として、華美・豪奢なことを禁じ、1642年に清教徒・クロムウェルが革命を起こしたイギリスでは、しばらくの間、当時はぜいたく品であった香辛料の使用を禁じ、調理には塩しか使えなかったといいます。
その影響が残っているのかどうかは定かではありませんが、デンマークの料理は、食の国・日本から来た身には、お世辞にもほめられたものではありません。ジャガイモと黒パンを主食に肉料理がほとんどで、一般的に塩辛くて脂っこく、調理法も単純なものが多いです。
デンマークを代表する伝統料理、「フレスケスタイ」という豚肉のローストでは、オーブンで肉の表面をほどほどにカリカリに焼くことがもっとも大事とされ、その出来具合で料理人の腕前が問われます。しかし、「舌を使わない」技術が競われる段階で、この国の味覚に寂しさを感じます。
そんな北国の食に少々飽きていた先日、所用でパリに行ってきました。さすが世界の都・パリ。芸術はもとより、食には久しぶりに満足しました。牛肉のワイン煮込み、鴨足のロースト、生カキ、エスカルゴ、最近アニメ映画で有名になった野菜煮込み「ラタトゥユ」などなど。
「料理もそうだけど、ここは野菜の国。野菜がおいしいんだ」とパリ在住の知人の誇らしげなこと。
さらに、パリには、和食、韓国、中華、ベトナム、北アフリカ、イタリア、ロシア料理など万国博覧会のごとく世界の料理店が軒を連ねています。誇れる自国の料理以外に、外国の料理をどれだけ自由に食べられるかが本物の食どころの指標と考える小生にとって桃源郷で遊んだ気分。このときばかりは、「生活大国」デンマークからその看板を引き下ろしたくなってしまいました。
料理とは、舌だけでもなく、五感すべてで味わうもの。上はパリ3区の有名フランス料理店の鴨料理。下はパリの原宿・バスチーユ地区のベトナム料理店の店内。肩寄せあう狭さと耳に迫る喧騒も味のひとつに感じました。