電子出版「短編集 闇の中の住人」
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(1〜24はFC2)
中田先生はコーヒーを一口すすり、
苦さを噛みしめるような顔をしている。
まだ完全にはショックから立ち直っていないのだろう。
「あの中は火がドロドロになって燃えていたんだ」
先生がボソッとつぶやいた。
体験したことを今から話そうとしているのだ。
私とママは黙って先生の顔を見た。
「ドロドロになった火なんて、
見たことがなかった。
地球の中心にあるマグマはきっとこんな
状態なんだろうなと思っていたら、
その中に人間がたくさん
ひしめき合っているのが見えたんだ。
普通の人間だったら、
近づいただけで骨まで溶けてしまう溶岩なのに、
その中にいる人達は
溶けないどころか、火傷も負わず、
ただ、苦しそうに顔を歪めて
立っているだけなんだ。
両手を上に上げて、もがいている人もいたけど、
皆熱いからではなくて、
何か別のことで苦しんで、
何とかしてその苦しみから逃れたいと
思っている人達ばかりなんだということに気がついた。
いつの間にか怪物はけいこちゃんに戻っていたよ。
けいこちゃんはシクシク泣いていた。
私はあの子を抱いてやろうとしたんだけど、
周りにいる人々が異常反応を示したんだ。
てっきり私に憎悪を向けたと思って、
もう何をされるのか想像しただけで怖かった。
その時、助けて、って
どこからか声が聞こえたんだ。
えっ、と思ってその声がした方を見ようとしたら、
周りにいる人達が一斉に私を見て、
助けてって言い出したんだ。
助けて、助けて、助けてって、もう大合唱だ。
そしていきなり誰かが私にしがみついた。
そうしたらそれが合図になったかのように、
一斉に皆が飛びついてきたんだ。
そりゃ物凄い圧迫だった。思わず、
どう助けろって言うんだっ ! て喚いたとたん、
私は物凄い勢いで上昇して、
気がついたらここに戻っていたというわけさ」
そこまで言ってから、
中田先生は肘をつき両手で顔を覆った。
先生を見つめるママの目が悲しい。
「それが全部けいこちゃんの心なのよ・・・
あの子、救いを求めているわ。
自分がしたことを後悔しているのよ。
大好きなお母さんに酷いことをしてしまったって
取り返しのつかないこと・・だと・・・」
ママの目から涙が溢れて、
それ以上喋るのは無理とばかりに、顔の前で手を振る。
依然と手で顔を覆ったままの、
中田先生の肩が微かに震えているのがわかる。
「何とか出来ないの、せめてここに戻してあげるとか」
言ってすぐ、さっきの大惨事を思い出す。
身の毛もよだつ化け物の姿、
引き裂かれた母親、
頭をつかまれ空中高く持ち上げられたこと、
などなど・・・
私は全身をブルッと震わせた。
「それは大丈夫、
おそらくもうあんなことにはならないと思うわよ」
ママが口元に薄い笑いを浮かべながら言った。
「もう、僕の心の中を読むのはやめて ! 」
私がプウーッと膨れると、中田先生もママも
クスクス笑い出した。
どうやら、私の肝っ玉が小さいせいで、
二人を明るくさせることが出来たみたいだ。
〜つづく
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