「ママの店15」 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
ふと店の中に、
和美さんがいないことに気がついた。
「ねえ、あの人いなくなってるよ」
私が誰ともなしに言うと、
皆キョロキョロとあちこちを見回す。
本当だ、いない・・・と涼子さんが言った。
「どうやら目が覚めて戻ったみたいね」
ママが溜息と一緒につぶやく。
「何か中途半端になっちゃいましたが、
本人がいなくなったってことは、
この件は
これで終わりってことなんでしょうかね」
犬山さんがボソッと言う。
「あの人夢を見ていただけですから、
そういうことでしょうねえ」
リリーさんがそう言って
眉を潜めて涼子さんの顔を見た。
涼子さんも同感と見えて頷いている。
「また来るわよ」
ママの声が店の中に響いた。
そんなに大きな声でもないのに
声がビリビリと振動して、
カウンターの後ろにある
棚に並んだ食器類がカタカタと音をたてた。
皆が驚いた顔でママを見ている。
恵子ちゃんは怖がって
涼子さんにまたしがみついてしまった。
良太君は子供とはいえやはり男の子、
実際の心の中までは分からないが
怯えた様子もなく、
真剣な顔でママを見ている。
「ママさん、どうして分かるんですか
彼女がまたやって来ると」
中田先生がママに聞くと、
「あの人は残していったじゃない。
アレを」
ママが指差す方向を見ると、
カウンターとドアの間にある隅に、
ぼんやりと黒い影が出来ている。
ウッありゃ何だ、
私を含めママ以外の全員が腰を引いた。
どうやらそれは、
さっき良太君に取り憑いた物らしい。
じっと様子を見ていたが、
そいつが動く気配はない。
誰か側に行って確かめるかと思ったが、
誰もその場を動こうとしない。
それどころか、何となく
皆チラチラと私の方を見ているではないか。
「はいはい、僕に行けってことですね」
まったくこの連中ときたら、
こういう時は絶対私を使うんだから・・・
ブツブツと心の中で愚痴りながら、
私は渋々その影に近づいて行った。
「豊、気をつけて」ママが小さく言う。
影は煤のように透けていて、
向こう側の壁が薄く見えている。
子供くらい、
そう良太君くらいの大きさの物が
うずくまっているといった感じだ。
ちっとも動かないし、
これが生きているという気も全然しない。
ただの煤としか思えないのだ。
触ってみようとしたら、
「触っちゃだめ ! 」
ママの鋭い声が飛んできたので
慌てて手を引っ込めた。
「取り込まれる恐れがあるわ、
さっきの良太君みたいにね」
ママがそう言うと、
「うえっ、おいらにあんなのが取り憑いたのか」
良太君が顔をしかめた。
〜つづく
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ブログに書き溜めたものをアレンジしておりますが、
暴力シーンやグロテスクな表現が含まれておりますので
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電子出版「短編集 闇の中の住人」
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