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先生 、大丈夫 ? と
皆口々に叫びながら
中田先生に駆け寄ると、
先生は仰向けになったまま
大きく息を吐き、皆の顔を見回している。
どうやら意識が戻ったようだ。
「あぁ、大丈夫だ。
ちょっと背中が痛いがね」
「先生、あのまま吸い込まれて
しまうんじゃないかと思って
とっても心配したよ」
私が言うと先生は、
ゴメンな、と言って笑った。
犬山さんと私とで先生を支え、
上体を起こしてあげると、
先生はありがとうと言いながら、
首や腰を回している。
そのとき、肉壁がいきなり
ブルブルと激しく震えだしたので、
一同蒼然となったが、
肉壁は突き刺さった先生の剣を
ペッと吐き出すと、
すぐに静かになった。
返してきたよ、と先生が
苦笑いしながら剣を拾おうとした時、
「あなたたち・・・帰れない」
いきなりか細い声が耳に飛び込んで来た。
和美さんだ。
皆ギョッとして和美さんを見る。
中田先生はすぐに
剣を拾って握り締めた。
帰れないってどういうことなんだろう。
「私達はあなたを助けに来たのよ。
あなたもここから抜け出したいと
思っているんでしょ」
ママの声は冷静だがとても厳しかった。
和美さんは血管の間から、
哀しそうな目でママを見つめている。
「私は自分の欲のために、あの人を
殺してしまった・・・」
この人は自分のしたことを
悔やんでいるんだと
哀れに思った次の瞬間、
和美さんの目尻がつり上がった。
「あの女に取られるなんてまっぴらよ。
私はここを出て、
あの人とあの町で暮らしたいの。
ねえ、今すぐ私を助けて」
和美さんは目を血走らせて必死だ。
しかしママは首を横に振り、
「あなたは自分のしたことが
どれほど重いことだか
分かっていないのね。
自分はともかく、
一人の人間の人生を
あなたのエゴで
奪ってしまったのよ。
しかもその人はあなたの実の兄、
許されることじゃないわ。
あなたが心から
悪かったと思わない限り、
私達はあなたを
ここから助け出すことは
出来ないのよ」
ママは静かに和美さんを諭した。
「クソッお前も敵か」和美さんが唸る。
「お前達は皆殺しだ」
和美さんの
噛み締めた口の両端に亀裂が走り、
たちまち血が滴り落ちて来る。
「もうすぐだ、
もうすぐ私の体が出来る。
体さえ出来たら、
お前達の住んでいる町を
奪いに行ってやる」
その声はもう
和美さんのものではなかった。
耳のあたりまで裂けた口を大きく開けて、
太い男のような声でそいつは吼えた。
「そんなことをしても無駄だ、
いくら悪霊を集めて膨れ上がっても、
あんたは行くべき所に行くだけだ」
私の大切なあの町を何と心得る、
そう易々と
こんな奴に奪われてなるものか。
私の怒りが頂点に達し始めた時、
「血液が流れ始めたわ ! 」
涼子さんの叫び声で我に返った。
慌てて彼女が指差す方向を見ると、
今まで臭い風を
噴出す為にだけあった弁が全開になり、
そこからドクドクと夥しい量の
赤黒い血液が流れ込んで来ていた。
「他の内臓が出来上がって
血管が繋がったんだ」
犬山さんがつぶやいた。
中田先生の言った通りになってきた。
ぐずぐずしていると
私達のいる所に血液が充満してしまう。
「ママ、ここは一旦外へ出よう」
私は慌ててママを見た。
ママは目を閉じ呪文を唱え出したが
少し苦しそうに見えるのは気のせいか。
やがて周りの肉壁がグニャリと歪み、
我々は心臓の外へ出たのだが、
いきなりドーンドーンと
大音量の音が耳に飛び込んで来て、
自分自身の心臓が止まりそうになった。
キャッと叫んで涼子さんが
耳を押さえてうずくまる。
涼子さんだけではない、
ママも犬山さんも中田先生も
全員耳を手で塞いでいる。
これはいったい何の音なんだ・・・
「心配いらない、これは心臓の鼓動だ」
中田先生が大声で教えてくれたので、
私達はゆっくりと耳から手を離した。
何の音か分かってしまえば、
耐えられないほどの大きさでもない。
それにしてもあたりは真っ暗だ。
目が闇に慣れるのに
少し時間がかかったが、
やがて足元の肉壁から伸びる
四本の真っ黒い
太いチューブに気がついた。
その先は暗い空に飲み込まれていて
どこに繋がっているのか
分からない。
「心臓の上部に出たみたいだな」
中田先生が辺りを見回しながら言った。
先生は心臓の構造が完全に
把握出来ているから平気みたいだが、
知識の無い我々は、
自分が今何処にいて、どんな状況に
置かれているのか分からず不安だ。
ふと背後が気になり振り向くと、
ピンク色の不気味な壁が出現していた。
ありゃ何だろう、と私が言うと、
中田先生が「肺じゃないかな」と
教えてくれた。
ほう、人間の体内って
こんなふうになっているんだ・・・
って、感心している場合ではない。
「ミクロの決死圏だわね・・・」
ママが古い映画の題名を口にした。
〜つづく
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ブログに書き溜めたものをアレンジしておりますが、
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出版「ハレルヤ」「ひとでなしの倫理」
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