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男はナイフとフォークを巧みに操り、
テーブルの真ん中に置かれた
ステンレスの大皿の上にある、
黄金色に焼きあがった丸ごと一羽の
ローストチキンの肉を切り分けると、
取り皿に載せ私の前に置いた。
「さあ、食べてください。
美味しいですよ。
そこいらのブロイラーと違います」
男が言うようにその鶏肉は、
とても美味しそうだった。
オレンジソースの香りが鼻腔をくすぐり、
パリッと焼けた皮が食欲をそそる。
しかし、何者か分からないこんな男と
一緒に食事をする気はない。
この料理だって
毒が入っているかも知れないのだ。
私の思っていることが伝わったのか、
男は苦笑いを浮かべた。
「今あなたは毒が入っているかも
知れないと思いましたね。
毒なんて入ってませんよ。
私にはあなたを殺す理由がない。
じゃあ私からお先に頂きます」
男はさっさと自分の分の肉を切り取ると
皿に載せて一口食べた。
「じつに美味いです・・・」
男が満足そうに頷く。
「あんたはいったい誰だ。
何の目的で僕に近づく」
私は男の顔を睨みつけた。
すると男は笑いながら、
「さっき中田先生と言い争いをしたから
警戒なさっているんですね、
ご安心ください。
私は先生の知り合いです」
知り合い ?
たとえ知り合いだとしても、
どうせろくなモンじゃないはずだ。
「あんたはさっき先生を
攻撃していたな、
知り合いであろうがなかろうが、
先生を悪く言う奴と食事を一緒に
する気はないね」
私の言葉に、男は泣きそうな顔をして、
激しく首を横に振った。
「あなたは誤解なさっている。
私は先生を攻撃するつもりは
さらさらありませんでした。
ただ一言説明がほしかったんです。
どうして私の息子が死ななければ
ならなかったのかと言うことのね。
私の息子は先生の勤めていらした
病院に入院していたんですよ」
この男の息子が先生の患者だった・・・?
さっきまで笑みを浮かべていた男の顔が
いつの間にか真剣になっている。
「どうもあんたは
先生を憎んでいるみたいだが、
どんな理由があるにせよ、
僕は先生を信頼している。
その先生を憎んでいるあんたを
信用することは出来ないね」
男は片手で私の怒りを静めるような
仕草をして、
「あなたも先生から、臓器移植の話を
聞かれたことがおありでしょう?
実は中田先生もその移植に
関わっていらしたんですよ。
私の息子は臓器移植の犠牲になりました。
先生はそれを黙認なさったんです。
いえいえ、お待ちください、私は何も
先生を恨んでどうこうしようと
思った訳じゃないんです。
まあ、あのときは息子のことを思い出し、
多少感情的にはなりましたがね」
確かに私は何度か先生に、
臓器移植の話を聞いていた。
先生が自殺した原因も、良太君が
臓器移植のために
殺されたからだと聞いている。
でも、それなら
この男の言っていることと
ちょっと違うではないか、
少なくても先生は
臓器移植に反対していたはずだ。
「先生は臓器移植に反対していたんだ。
でも、小児科専門の若い医師の意見など
大きな組織の中で聞いてもらえる訳など
なかったんだ。
しかし、あんたはママの店で、
宗教がどうたらこうたら、
最初はそのことを悩んでいたみたいだけど、
結局は信仰していた神様に
裏切られたって嘆いていたんじゃないのか
それが先生が現れたとたん、
憎しみを先生に向けたんだ。
そんなの逆恨みもいいとこじゃないか。
息子さんが亡くなったのは
気の毒だと思うよ。
でも、神様が命を助けてくれるだなんて、
あんた本当に信じていたの ?」
「あなたには信仰というものが
お分かりではないから、
私達信者の気持ちが
分からないのは当然だと思います。
でも、あの時は本当に神にしか
すがるものがなかったんですよ。
今じゃあなたと同じように、
神なんて存在しないと分かっておりますがね」
〜つづく
="#CC0000">「ママの店16(前編)」
「ママの店16(後編)」
「怪談奇談」に
(幽霊屋敷)
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出版「ハレルヤ」「ひとでなしの倫理」
電子出版「短編集 闇の中の住人」