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私自身は無宗教で別に神様なんて
信じてはいないけれど、
恩他の行為は絶対許せないと思った。
人が神様を心の支えにして何が悪い。
「お前に、人の信仰心を踏みにじる
権利など無いぞ。
神様を信じて何が悪いんだ、
信仰のある人達の心は美しい。
死んでもきっと光の満ち溢れた
世界に行くさ。
お前は羨ましいんだろ、
その光の世界に行ける人達が。
でも、お前みたいな悪い心の者には
暗い闇の世界の方が似合っているんだよ」
吐き捨てるように言った私の言葉を
恩他はどう受け止めたのだろうか、
ズボンのポケットに両手をつっこんで、
目をパチパチとさせて私を見ている。
別に怒っている顔でもないし、
当たり前だが喜んでいる顔でもない。
相手の心が読めないと言う事ほど、
不安になるものはないのだ。
私は口を閉ざし、しばらくの間
恩他と睨み合いのような格好になった。
「君は神を信じないって言ったね」
恩他が真面目な顔で聞いてきた。
返事しようかすまいか一瞬迷ったが、
別に答えたところで何も無いだろうと思い、
「あぁ、でも信じないというよりも
そんなものは無いと思うね。
神は人間が造ったものだ。
もちろん悪魔もね」
神の存在を信じる者は悪魔の存在も信じる。
神を無いと言い切るのだから、
お前の存在も無いと言いたかったのだ。
恩他は右手だけポケットから出して
人差し指を一本立て、
「つまり、神が無いから・・・
悪魔も無い。
そう言いたいんだね」
念を押すような恩他の言い方に、
私の胸に一抹の不安が過ぎる。
安易に口を利くのはやめよう、
ここは黙って恩他の出方を見るべきだ。
私は返事をするのをやめた。
黙っている私を見て恩他はフンフンと
何やら納得したように首を振り、
「でも君は善と悪を分けている。
信仰心の厚い者がいく世界と、
私が行く世界を分けている。
と・・・言うことは?」
恩他はそこで言葉を切り、
私の顔を意味ありげに見た。
あっ・・・
私は恩他の言わんとしている事が分かった。
くそっ、そういうことなのか。
私は恩他を悪だと認めている。
だから恩他は私に付きまとっているのだ。
善があるから悪があるのよと
ママが言っていたっけ。
でも、こいつは自分の名前をアナグラム
にするほど魔王サタンに憧れている。
ただの悪霊と言われることが、
こいつにとってどれほど嫌なことかは、
もう実証済みだ。
「お前自分の事を魔王サタンだなんて
言ってるけど、そりゃただの
憧れなんではないの?
思い出しなよ、お前はただの悪霊だ。
単体では何にも出来ないから、
仲間を集めようと
しているだけなんだよ」
思った通りに私の言葉は、
恩他の自尊心を深く傷つけたようだ。
たちまち顔色が変わり、
カッと見開いた眼球に、怒りのあまりか
多量の毛細血管が浮き出ている。
何と単純な、分かりやすい男なんだと
私は噴出しそうになった。
「お前って、可哀相な奴だなあ」
とどめを刺してやるつもりでそう言うと、
恩他はとうとう脳の神経が
プチンと切れたのか、
唇をグニャリと曲げて
笑っているような顔になった。
「フヒヒ、正体がバレて頭に来たな」
私も負けじと意地悪く笑ってやる。
「お前だけは何があっても
許さないからな。覚悟しておけ、
今から地獄の苦しみを味わわせてやる」
どす黒く変色した顔を不気味に歪ませ、
恩他はそう言い残してサッと消えてしまった。
〜つづく
「ママの店16(前編)」
「ママの店16(後編)」
「怪談奇談」に
(幽霊屋敷)
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出版「ハレルヤ」「ひとでなしの倫理」
電子出版「短編集 闇の中の住人」