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そうか、こいつは少年だったんだ。
しかし・・・
私は恩他が初めてママの店に
やって来た時の事を思い出していた。
あの時恩他は宗教の事で
頭を抱えて悩んでいた。
それで中田先生が現れた時に、
いきなり絡んだんだ。
それから私の家にまでやって来て、
息子が臓器移植の犠牲になって死んだ事とか、
中田先生がそれに関わっていたとか、
まあ、すべてこいつの嘘に決まっているけど、
何か妙に真剣だったなあ。
何でだろう、何で宗教が出て来たんだろう。
それに臓器移植の事も・・・
恩他はどうやって我々の個人情報を
調べあげたんだろう。
こいつは私と同じビジターだった。
夢を操る事が出来るだなんて、
そんな事は可能なんだろうか。
分からない・・・
私は恩他の顔を見ながら
今まであった出来事を思い出して
考え込んでいたが、
「静江さんに、聞かないと
どうすればいいか分かりませんね」
いきなり涼子さんの声が耳に飛び込んで来て、
はっと我に帰った。
「そうだわねえ、何か邪魔するみたいで
嫌なんだけど、聞かなくちゃいけないわ」
リリーさんが相槌を打ちながら
溜息をついている。
「だけど、何か聞き難い雰囲気だと
思わないかい?」
犬山さんがチラッと
ママと英二の方を見てそう言った。
そうだ、ママを忘れていた。
いくら心音が聞こえないからと言って、
この世界は死人ばかりなんだから
こいつがいつ目を覚ますか
分かったもんじゃない。
この際ラブロマンスは中断して頂こう。
「あっ、豊さん、ちょっと・・・」
犬山さんの止める声を背中で聞いて、
私は、ズカズカとママと英二の側まで
早足で歩いて行った。
ママと英二はいつの間にか
向かい合わせになってお互いの顔を
じっと見詰め合っている。
きっとテレパシィで話をしているのだろう。
「ゴホン、えー、ママ・・
お取り込み中で悪いんだけど・・・」
私は二人の前に立って話し掛けた。
ママは私を見てスゥーッと眉を潜めた。
何だこんな時に、
と言ったふうに見えたので、
私はムッとしたが、
「僕が邪魔なのは良く分かっているよ。
でも、恩他が動かないんだ、
あのままにして置くのも、どうかと
思うし、みんな、その・・・
ママ達の事を心配してるんだ」
気を取り直しそう言うと、ママは
「馬鹿ねえ・・・何が取り込み中よ」
と言ってフッと笑った。
「だって、ほらママは英二・・・さんと」
私が言い難そうに英二さんと言ったので、
ママはますます笑い出した。
英二もニコニコ笑っている。
「豊君だったね、その節はいろいろ
お世話になりました。
ずっと静江を守ってくれてありがとう。
どうか、これからも
側にいてやってください」
英二が私に向かって頭を下げている。
こう言う素直な態度に私は弱いのだ。
「いや、僕の方こそ、その節は君に
酷い事をしてしまって・・・
そのう、ごめんなさい」
私はペコリと頭を下げた。
別に悪い事をした覚えはないが、
思わず謝ってしまったのだ。
「ママはこれから、
英二さんと一緒に暮らすんだろう?」
私は自分でもビックリするほど
聞き難い事をすんなりと口に出していた。
ママは頷き、英二の顔を見る。
英二も例のあの美しい顔で、
ママをじっと見つめている。
何と言う美しさなんだろうと、
私はママを取られた嫉妬心よりも、
英二の美貌に憧憬の念を抱いていた。
その時、英二の姿が足下から徐々に
消え始めている事に気がつき、
私は思わず叫んでいた。
「ママ、英二さんが消えかかっているよ」
しかしママは私の顔を見て、
ニッコリ微笑んだだけで何も言わない。
「これでいいんですよ、静江を頼みます」
英二はそう言い残し、完全に姿を消した。
そして今まで英二が立っていた場所には、
あのペンダントが落ちている。
ママがそっとそれを拾い上げ、
手の平に載せた。
石が真っ赤に変わっている。
「ママ、これでいいのか?」
私は自分でもびっくりするほどの
衝撃を受け、ママに向かって吼えていた。
ママは私を見てコクリと頷いた。
「消えちゃうんだよ、
石の色が赤になったと言う事は、
もうすぐ透明になってしまうって事だ。
透明になったら、
二度と英二に会えなくなる。
永久にだ!」
私のほとんど絶叫に近い大声に
驚いたのか、犬山さん達が
急いで私達の所に集まって来た。
中田先生や良太君、恵子ちゃんもいて、
みんなママの手の平に載っている
ペンダントを見つめている。
「静江さん、本当にこれで
良かったんですか?」
涼子さんが、静かにママに問い掛けた。
「いいも悪いも、最初からこうなる事に
決まっていたからね、
この人はこの石の中にいたから、
魂が綺麗になっただけ。
もし石に封じ込めていなかったら・・・」
ママはそこで一旦言葉を止め、
「今でも悪い事をしていたはずよ」
と言切った。
〜つづく
「ママの店16(前編)」
「ママの店16(中編)」
「ママの店16(後編)」
「ママの店17前」
「ママの店17(中編)」をHPにUPしました。
「怪談奇談」に
(幽霊屋敷)
連載小説「ドタバタ 新米刑事とベテラン刑事」9話目
ブログに書き溜めたものをアレンジしておりますが、
暴力シーンやグロテスクな表現が含まれておりますので
ご注意ください。
出版「ハレルヤ」「ひとでなしの倫理」
電子出版「短編集 闇の中の住人」