2007/9/27
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あれっ? この人
何処かで見た事が・・・
その時ハッと気がついた。
今手術台に横たわっているのは
「恩他・・・? 」
私は思わず隣に立っている
恩他の顔を見た。
しかし恩他は首を振り、
「私じゃない、これは父だ」
と能面のように白い顔をして、
抑揚の無い声でボソッと言った。
えっ、父?
それじゃこの若い恩他は
息子・・・?
私の驚きをよそに、
恩他が、いや、息子が喋り始めた。
「父はこの病院の院長だ。
専門は脳外科で、
メスを握った父の指は
神の指と言われている。
どんなやっかいな腫瘍でも、
父にかかれば
いとも簡単に取り除かれるんだ。
父のお陰で、どれほどの患者が
助かったか分からないよ。
父はこの世に無くてはならない神だ、
私は父の息子に生まれた事を
誇りに思っている。
それから父はある大規模宗教の
熱心な信者でもあるんだ。
だから本当に
神のような存在なんだよ」
熱心な信者?
あっ、そう言えば
最初この男がママの店に来た時、
宗教がどうとか言っていた。
その時、私達が入って来たのとは
違うもう一つの方向にあるドアから、
白衣の男が
ガラガラと音を立てて、
ストレッチャーを押して
中に入って来た。
男は手術台の側までやって来ると
そこでストレッチャーを止め、
腰をかがめてストッパーを掛けた。
そのストレッチャーには白い
シーツが掛けられており、
隣の台で横たわっている
恩他に比べて
随分小さな膨らみがあった。
中にはどんな人が
入っているのだろうと、
シーツが剥がされるのを
ドキドキしながら見守っていると、
中から現れたのは
顔にまだ幼さが残る全裸の少年だった。
白い裸身が痛々しい。
この子は今から
何をされるのだろうと思うと、
胸の中が嫌な予感で一杯になった。
その時ふと気がついた。
この子の顔にも覚えがある。
それはどう見ても、
今私の隣に立っている彼だ。
今の方が少し年をとっているが、
面影は変わらない。
「なあ、これは君だろ?
どう言う事なのか、
僕に分かるように説明して
くれないかな」
私が聞くと、
恩他の息子は暗い目をして
ニヤッと笑った。
「何がおかしいんだ」
私は息子の顔を睨みつけた。
「まあ、まあ、そう怒ってばかり
いると血圧が上がるよ。
もっとも、血があるだけ
君は幸せなんだけどね」
何と言う失礼な野郎だと、
私の怒りは沸騰しかけていたが、
血があるだけ幸せだと言う
その言葉に怒りが冷めてしまった。
〜つづく
「ママの店」(激闘編)をHPにUPしました。
「怪談奇談」に
(幽霊屋敷)
連載小説「ドタバタ 新米刑事とベテラン刑事」13話目
2007/9/23
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廊下に出ると、何となく
辺りが明るく感じた。
それはきっと建物が新しいからだ。
私は今、何年前かは分からないが、
さっきまでいた施設の
過去の世界に来ている。
恩他が最初ママの店に来た時
四十歳くらいに見えたけれど、
今はどう見ても二十歳前後、
いや、ひょっとしたら
私より若いかも知れない。
でも彼が医者だとしたら、
それっておかしいんじゃないか?
私は医者の事など全然分からないが、
インターンでも二十六は
いっているのでは・・・うーん、
年より若く見えるだけなのかな?
私が年齢にこだわっているのに
全く気がついていないらしく、
恩他は施設の説明をやりだした。
「これを右に行くと
エレベーターがあるんだ。
左に行くと君も知ってるだろうけど
手術室と処理・・室が・・・」
恩他は処理室と言う言葉で
詰まってしまった。
処理室とは、使用済みになった
遺体とか内臓を捨てる
あの鉄のゴミ箱がある部屋の事だ。
「何で声を詰まらすんだ。
何故はっきり処理室と言わない。
お前らは死体を切り刻み、
あの中に捨てているんだろうが」
精一杯の侮蔑を込めて
吐き捨てるように言った私の顔を、
恩他は暗い目をして
じっと見つめている。
「何だ、何か間違った事を言ったか?」
私がもう一度冷たく言ってやると、
恩他は顔をしかめ、
首を横に振りたくった。
「違う・・・」
「何が違うんだよ」
「私もあの鉄の箱の中に、
捨てられたんだ・・・・」
エッ?
私は一瞬声を失ったが、
すぐに考え直した。
騙されちゃいけない、
これも嘘に決まっている。
しかし、恩他の顔は真剣だった。
ひょっとしたら恩他も犠牲者?
私の頭は混乱していた。
「手術室に行こう」
恩他が左方向に早足で歩き始めた。
手術室に何があると言うのか、
この野郎には今まで散々嘘をつかれ
翻弄されて来た。
今更何を信じよと言うのか。
やがて真ん中から両側に
大きく開くようになっている
薄いブルーの扉の前に来た。
手術室と書かれた
表示灯が点灯しているのを見ると、
今手術の真っ最中らしい。
恩他は私の存在など
忘れてしまったかのように
さっさと中に入ってしまった。
「あっ、おい、ちょっと待て」
私も慌てて中に飛び込んだ。
恩他は扉の所に立っていた。
中央では手術台を挟んで
執刀医が二人黙々と、
メスや鉗子を動かしており、
五人いる助手が、
モニターを監視しながら
執刀医に器具を渡したりしている。
恩他はしばらく
ぼんやりとその光景を眺めていたが、
やがてツカツカと手術台の所まで
歩いて行った。
私ももちろん恩他の後について行く。
患者と言っていいのだろうか、
手術されている人は
口に差し込まれた太いチューブと
頭に被せられた手術帽で
性別までは分からないが、
かなりの老人みたいだ。
執刀医も顔の半分を
マスクで覆っている為、
これまた顔が分からないが、
その一人の目元に見覚えがあった。
〜つづく
「ママの店」(激闘編)をHPにUPしました。
「怪談奇談」に
(幽霊屋敷)
連載小説「ドタバタ 新米刑事とベテラン刑事」13話目
2007/9/12
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ママの声に一瞬ハッとしたものの、
腕を突き出し、真剣な目をして
私の顔を睨みつけている
恩他を見ていたら、
もう一度だけこいつの話しを
聞いてやろうと言う気持ちに
なって来た。
それがママの言う、
恩他のペースに乗せられている
と言う事なのかも知れないが、
こうなったら話しの中から、
矛盾を見つけて追い詰めてやるのも
おもしろい。
嘘で固めたこの男のすへてを剥ぎ取り、
本当の姿を曝け出してやりたい。
私はまたソファーに
ドカッと腰を下ろした。
恩他は突き出していた腕を引っ込め、
膝の上で両手を組んでいる。
「どうやら私の話しを
聞いてくれる気になったみたいだね」
気のせいか、恩他は少し
疲れたような顔をしている。
左腕の傷が痛々しい。
腕、痛いだろう・・・
あんたがいきなり突き出すから、
いけないんだぞと心の中で思ったが、
声には出さなかった。
戦いとはそう言うものだ。
私が黙ったままでいると、
何を思ったのか、
恩他がいきなり立ち上がった。
話しを聞けと言うから
聞こうとしてやっているのに、
何でこの男は立ち上がるんだ。
たちまち怒りに火がついた。
私もすぐに腰を上げ、
テーブルを挟んで
睨み合いの状態になった。
「おいっ、
いきなり立ち上がったりして、
こりゃいったい何の真似だ」
私が怒気を含んだ声を出すと、
恩他は笑ったような目になった。
「何がおかしい・・・」
もはやここまでと思った私が、
声を落とし背中の剣に手をやるのを見て
恩他は顔をしかめて首を振った。
「違う、そうじゃない。
君が今いるこの世界は、
私の過去だと言ったろう?
だから、歩きながら
話しをしようと思うんだよ」
そうか、ここは過去の世界なんだ。
恩他は今からこの施設の秘密を
私に見せるべしなんだ・・・
「いきなり立ち上がるから、
また騙されたのかと思ったよ」
私の言葉に恩他は苦笑いをして、
顔の前でゆっくり手を振って見せた。
絶対信用出来ない奴だと知りながら、
私は恩他の後に
ついて行こうとしている。
ドアから向こうは嘘の世界で、
一歩足を踏み出したら最期、
二度とママ達に会えなくなって
しまうかも知れない。
でもここで恩他と一騎打ちをする事が
果たして正しい選択なのかと考えると、
それもまた疑問に思えるのだ。
たとえ私が勝ったとしても、
たくさんの疑問が残る。
もし万が一恩他を取り逃がしたら、
昭日町を取り返す日が遠ざかるだろう。
「分かったよ。
じゃあ案内してもらおうか」
私は恩他の後についてドアから
外に出た。
〜つづく
「ママの店」(激闘編)をHPにUPしました。
「怪談奇談」に
(幽霊屋敷)
連載小説「ドタバタ 新米刑事とベテラン刑事」13話目
2007/9/7
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いきなり恩他の顔から笑いが消えた。
ソファーの背もたれにドンと
背中を持たれかけさせ、
恩他は平然とした顔で
私の顔をまじまじと見ている。
「君が今いるのは、私がこの病院の
研修医をしていた頃の時代だ」
私は恩他の過去に来ているのか・・・
「医大に行く者は大抵親も医者、
かなり家庭が裕福でなけりゃ、
行く事が出来ないもんだ。
私の家は貧しくは無いが、
ごく普通のサラリーマンの
父親で・・・」
恩他は何を言おうとしているんだろう。
自分の生い立ちを話したいようだが、
こいつには今までさんざん騙されて来た。
「そんな話しはもう止めろよ、
僕はあんたの生い立ちなんて
聞きたくないよ。
あんたの言う事は嘘ばかりだからね、
ママの店に初めて来た時から
あんたは嘘をつき続けている」
私が、もううんざりなんだよと
言わんばかりにそう言うと、
恩他は一瞬とても哀しい目をした。
えっ、と思ったが、
騙されるもんか、これも演技だ。
「そうか・・・
聞きたくないか。
でも君は私に何者だと聞いたね、
君達に何を要求しているのか、
とも 聞いて来た。
それを今から説明しようと
思っていたんだがね」
恩他は意地悪い笑みを
口元に浮かべた。
「ああ、だからさあ・・・
カヤクはいらないんだ、
要点だけを話せよ。
あんたの話しには嘘が多すぎる。
そんなお涙頂戴を話してくれても
僕はあんたに同情なんて
しないからね」
私がそう言うと、
恩他は薄い唇を歪ませ、
「言いたい事を言ってくれるじゃないか」
と言ってゲラゲラ笑い出した。
「それじゃ、信用出来ないんだけど
一応質問したって事か?
そりゃ君ぃ、とっても矛盾しているよ」
うっ、確かにそうだ・・・
「そうか、そう言うのなら
今すぐ決着をつけるしか無いな」
私はソファーから飛びのき、
背中に縮めて隠してあった
神剣を引き抜き、
恩他の鼻元に突きつけた。
ちなみにこの神剣は、使わない時は
小さく縮んで背中に隠して置くように
なっているのだ。
「まあまあ、豊君待ちたまえ」
恩他は苦笑いを浮かべて
手で押し止める格好をした。
「何がまあまあだ、
それより、そんなに腕を
前に出したりしていいのかい、
僕が剣を振り下ろしたら、
スッ飛んじゃうよ」
私がそう言ってやると、
恩他はニヤリと笑い
「やってみたまえ」と言って
グイッと前に伸ばした為に腕を切り、
横に走った裂傷から
ポタポタと血が滴り落ちている。
私は切られる恐れがあると
忠告しただけだ。
戦う意志の無い者の腕を
さあ、切れと言われても
切れるはずが無い。
いくら悪人でも、
今目の前にいるのは人間だ。
生々しい傷を見て、
私が動揺しているのが分かったのか、
恩他はぎゅっと握りこぶしを作り、
「やると言った以上はやれ!
その根性もないのなら、
二度と口にするな」
と低い声で私を叱りつけた。
たちまち私は、
自分の愚かさを指摘されて
叱られているような気持ちになった。
手の中で用済みとなった剣が、
シュルシュルシュルと縮んで行く。
その時、頭の中にいきなり
ママの声が飛び込んで来た。
「豊、恩他のペースに乗せられちゃダメ!」
〜つづく
「ママの店」(激闘編)をHPにUPしました。
「怪談奇談」に
(幽霊屋敷)
連載小説「ドタバタ 新米刑事とベテラン刑事」12話目
2007/9/4
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な、何だ・・・
私の姿はこいつに見えていたのか?
頭から一気に
血の気が引いて行く。
男の押し殺した笑いが、
次第に大きくなって行き、
やがてそいつは
ゆっくりと顔を上げた。
あっ、こいつは・・・
「クッ・・・恩他・・・」
私は唸るようにそいつの名を呼んだ。
あの時、
ママと英二が一体となって
恩他と戦い、恩他は破れた。
しかし、こいつがそう易々と
消滅してしまうはずが無いと
思っていた。だから、
どう見ても中年だった恩他が、
少年のように若返ったあの時、
我々は恩他の復活を予感したのだ。
こいつはやはり、
ずっと我々の側にいた・・・
恩他は笑いながら、
「豊君、何を
ビックリしているのかな。
まさか私があのまま
消滅してしまうとは
思っていなかったんだろう?」
フン、私はお前が生きているから
ビックリしたのでは無い。
ママの店に初めて来た時と比べて
激しく若返っているのに
驚いているだけだ。
しかし、今はそんな事は
どうでも良い。
「なあ、あんたはいったい何者?
いったい僕らに
何をして欲しいんだ。
あっ、言っとくけど、
しもべになれだなんて
陳腐な返事は聞きたくないからね。
あんたがここまで僕達に
関わって来ると言うのは、
何か意味があるんだろう?」
〜つづく
「ママの店」(激闘編)をHPにUPしました。
「怪談奇談」に
(幽霊屋敷)
連載小説「ドタバタ 新米刑事とベテラン刑事」12話目
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