ドッペルゲンガーのつづき。
去年の秋頃だったろうか。
私は主人と次女の三人で今はもう無いカラオケボックスに
自転車で出かけるときのことだった。
さほど暑くも寒くも無く、半袖のTシャツとGバンが
ちょうどいい涼しさだった気がする。
それは大通りを渡るべしで信号待ちをしているときのことだった。
ふと私の左後ろ側に立っている人に目が行った。
何かとても懐かしい感じがした。
それもそのはず、その人はまるきり私自身だったのだ。
鏡を見ているような錯覚を覚えた。
違うのは、全身がくすんだように茶色く見えていることだけ。
顔も髪も服もすべて茶色い色に包まれている。
その人が着ている服も今の私とは違った。
でも、それは確かに私が持っている服で、
夏に好んで来ている短めの黒いダボズホンと国防色(鶯色)のTシャツ。
髪は茶色に染めたソバージュで、これは今と同じ。
あまりしげしげと見ては失礼かと思ったが我を忘れて見入ってしまった。
その人も私が自分と似ていると感じた(のはどうかわからないが)
無表情な顔でじいっと私顔を見ている。
私が今いるところは車が行きかう大通りのある舗道の上。
でも、その人の周りは茶色い粉塵のようなものがあって、
何処か異国の世界にいるように感じるのだ。
やがて信号が青になり、自転車を漕ぎ出したとたん、娘と主人に
「ねえ、あの人私とそっくり!」と小声だが聞こえるように短く叫んだ。
二人はフィッと振り返ったが、そこには誰もいなかった。
もちろんあたりを見回してもそれらしき人は何処にもいない。
「世の中には三人自分に似た人がいるからなあ」
じゃ、なんで消えた? 私は確かに今までその人と見詰め合っていたのだ。