
前回までのお話・・・
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―哀しみの殺人鬼―
『ママの店』にいった。店は大勢の客でいっぱい。
これを全部ママ一人でさばくのは大変だ。
手伝ってあげようと思いママの顔を見ると、
大丈夫よ座って待っていて、
と言うようにニッコリと笑い、ウインクを返してきた。
あ、言っておくけどこれは想像なんかじゃないからね、
ママは顔を見るだけで
私が何を考えているのかわかるのだ。
大丈夫だと言っているのに手伝おうとしたら
かえって怒られそう、手伝ってほしくなったら
ママの方から言ってくるだろうから、
とにかく今は座って待っていよう。
しかしまあ、こんなに大勢いたら
席なんて一つも空いちゃいないだろうと普通は思う。
私は軽く溜息をつきながら店の中を見回した。
カウンターは満席、テーブル席は・・・
こんな状態だから、今日もあの場所が
空いているとは限らない。
もし空いていなかったらどうしようなんて、
ほんのちょっぴり不安に・・・
あっ、あった! ポッカリと穴があいたみたいに
誰も座っていないソファーを発見。
そこは紛れもなく私の特等席。
ほうらやっぱりね、どんなに満席でも
私の席だけはいつも空いているのだ。
だからさっきの不安は嘘、
本当は今日も絶対空いているって
思っていたんだよ。
座席からはみ出ている客の尻の間を縫うように、
自分の席に座りにいった。
ソファーにもたれるように座って
ママの姿を目で追い始める。
今ママは銀の盆にコーヒーを載せて
客席の間を飛び回っており、
黒いレースの袖口がヒラヒラして、
まるでアゲハ蝶が飛んでいるみたいに見えている。
ママが動く度に、ふわふわと栗色の髪が揺れ、
細くしなやかな体に
黒のロングドレスがまとわりついては離れ、
まるで羽衣を着た天女が舞っているように美しい。
しばらくぼんやりとママの姿に見惚れていたが、
やがてハッと気がついた。
変だなあ、この店はカウンターに十席、
四人がけのテーブル席は
私が今座っている席も入れて
全部で五つしかなかったはず。
まあ、三十人がやっとの小さな店なのだ。
それがどう見ても今六十人以上は入っていて、
しかも全員ゆったりと座れている。
どうやって座れたのだろう?
あれ?そう言えば部屋自体が広くなっていないか、
ソファーの数も増えているぞ。
そうか、そう言うことか・・・
『ママの店』は、客の数によって
部屋の様子が変るんだ。
私が『ママの店』のカラクリに気がついて
一人頷いているとき、
やっとすべての客に注文の品を出し終わったらしく、
ママが側にやってきた。
「今日はまたすごい人だね」
〜つづく
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