「飲茶・台湾料理「中国茶館」(池袋)/飲茶と台湾料理の話1」
おいしい話
20年来の親友ゆんきょんちゃんとは時々会って親交を深めている。何でも話せるし何でも話を聞ける大切なお友達だ。そして何よりおいしいものが大好きってところもとても気が合うのだ。今日はゆんきょんちゃんと楽しんだおいしい飲茶をご紹介しよう。
「中国茶館」というお店。池袋西口からエビス通りを入ったところにある。厳密には台湾料理の専門店だが、飲茶を楽しめる事を看板にしている。怪しい雑居ビルの2階にある真っ赤な内装のお店で、店内はお客さんからも店員さんからも中国語が飛び交い、ネィティヴ度が高くディープな雰囲気。もうご存知でしょう、あたしはこういうお店がもうほんとに血が沸き立つくらい大好きなんだ。味も日本人好みのアレンジなんて絶対しない、っつうかそういうのに関心がない、塩とスパイスがベースで、醤油と砂糖の甘辛い味が好きな日本人なら少し違和感があるかもしれないが、とびきり中華っぽくておいしいとあたしが思うような味。だから万人ウケするお店ではないと思うし、ディープな雰囲気については好みがあると思うが、ゆんきょんちゃんならこのお店の素晴らしさに対してあたしが抱く感動を分かち合ってくれると信じている。昼間はランチが各種あるが、夜なら点心を含めた全メニュー食べ放題の2625円コースがいい。別料金で何か中国茶をお願いするのがお約束。
っつうかそもそも飲茶(やむちゃ)とは点心(「菜(主菜、即ちメインになるようなおかず)」と「湯(スープ)」以外の食べ物)を食べつつお茶を飲む事である訳で、中国人は「お茶で身上をつぶす」という言い方があるくらいお茶を愛する人々であり、メインはむしろ料理よりもお茶なのだ。このお店は飲茶のお店であり、いろんな中国茶を味わう事ができるばかりでなく、お酒のボトルキープならぬお茶っ葉のキープまでできる。食べ放題というと「いい歳してガツンと食いたいのかよ」と言われそうだが(笑)、飲茶の本来のサーブ方法は調理法ごと(蒸すとか焼くとか)の料理をワゴンにのせて運んで客が好きなだけ指さして注文するというもの。あたしは行った事ないけど香港や台湾の飲茶のお店でそういう食べ方をした事がある方も多いのではないか。このお店ではワゴンは使わず注文ごとに調理をするという方式をとるが、台湾料理らしく小皿で少量ずつ供されるのでいろいろな種類の料理を楽しめる。飲茶のスピリットは十分伝わるだろう。
我々はプアール茶を注文。お茶については後で多少お話しよう。中国には日本語の感覚で言う厳密な茶道のようなものは存在しない。お茶の入れ方も地方や家庭や個々人の好みに拠るところが大きいのだが、それでも創意工夫によってある程度は定式化してもいて、「茶芸」と呼ばれるものは存在する。茶器をあたたかく保つよう工夫する事と、日本のお茶と違って中国のお茶は2回目以降からおいしくなるとされる事の故に、例えばこのお店では大きなボールに日本語で言う「一番茶」を注いでその中に急須を置き、急須をあたためながらお茶を蒸らす。「一番茶」は中国人にとっては茶葉の汚れやアクを洗い去るものであって、飲んで味わうべきものでは決してない。お店の人が手際良くお茶を注いでくれるのを見守るのは楽しいものだ。素朴ながら優雅な磁器の小さな器にお茶を注いでくれた後、テーブルにどーんとお湯が入った魔法瓶を置いていく辺りもこのお店っぽいラフなサービスである(笑)。
さて、最初に出てきた蒸し鶏の老酒ソース。あたしが2年前上京して間もなくの頃、初めてこのお店に入って初めて食べたのがこれである。思い出深い料理だ。ピリっと辛いきゅうりのあえものが添えてある。
初めてこれを食べた時に、全く日本人にはウケなさそうなおいしさに感心したものだ(笑)。柔らかく絶妙に蒸した鶏肉に老酒のゼリーがソースとしてかかっている。ソースのゼリーから老酒の香りが強く放たれており、日本人にはある意味意表を突くと思うのだが、老酒の強い香りの奥にぎゅっと濃縮された塩分の強い旨みが感じられて、ディープな中国の味を愛するあたしのような人間にとってはたまらなくうまい一品。このお店を訪れる人には真っ先にお勧めしたいおいしさである。
牛肉のクレープ包み。甘辛く味付けした牛肉ときゅうりと白髪ネギをクレープに巻いて食べる。これは日本人でも好きな人が多いよね。
クレープとは言うものの正確には「餅(ピン)」と称する、小麦粉を水でこねて焼いたシンプルな食べ物だ。名高い北京ダックを食べる時にはなくてはならないもので、「春餅(シュンピン)」と呼ばれる。実はこういうのは世界各地にある。それだけ素朴な食べ物って事だろう。例えばインドでチャパティとか南米でトルティーリャ(調理方法によってはブリトーとも。タコスの皮といえばおわかりか)とか呼ばれるものも要するに「春餅」と同様粉を水でこねて焼いたものだ。ただしインドでは全粒粉を用いて、南米ではとうもろこしの粉を用いてそれぞれの味わいを出しているし、かまどで焼くのでぱりっと香ばしい。それに対し「春餅」は中華鍋でしっとりと焼くし、食べる時は更にご覧のように蒸してあたためるので尚更しっとりする。それぞれのお国柄で好む食感になる訳である。うちでも簡単に作れますよ。小麦粉2に対し水1を混ぜてこねて広げて焼けばいい。丁寧に作ろうと思えば作る前に粉をふるうとか生地を冷蔵庫で30分以上寝かせてから成形するとかあるけど。こういう甘辛くて濃い味のものを巻くとよく合うが、それこそ野菜炒めでもスクランブルエッグでも何を巻いてもおいしいところが素晴らしい。具をサンドして焼くといわゆる「餡餅」いわゆるお焼きになります。日本でもお焼きをよく食べるけど、原型は中国の「餡餅」ではないかしら。
やっぱり点心といえばせいろで出てくると嬉しいよね。奥からカニシューマイ、フカヒレとえびの餃子、小龍包(ショーロンポー)。
ここのこういう点心はベースのひき肉の味が強くてやや単調な味わいになっているのが残念で、もっとカニとかフカヒレとかえびとか素材の味が強いといいと思う。もっともそれを差し引いてもとてもおいしい点心ではある。更にいえば皮が手打ちである事は間違いない。もっちもちの分厚い皮のおいしさを楽しむだけでも注文したい。ほんとにおいしい皮だから。小龍包はゼラチンで固めたスープを具として詰めてあるので蒸し揚げると中からじゅっと熱いスープが溶け出してくる。お好きな人は多いでしょう。あたしも大好き。中に熱々のスープがひそんでるから「小さな龍を包む」食べ物と名付けるって、中国人の想像力と言語感覚は素晴らしい。中国にもご存知のように様々な言語があるが、例えばワンタンは「雲呑」と表記する場合もある。雲を呑む、って壮大で雄大な詩的感性だよなぁ。
あたしの大好物、大根餅。「明日地球が滅亡するなら何をする?」と訊かれて「大根餅を食べる」と答えた事があるくらいだ。
素朴な姿とは裏腹に大根餅は手間のかかる点心である。大根を刻んでゆで、そこに粉を加えてこねる。粉は小麦粉の場合もあるし、弾力を出す為に片栗粉を使う場合もある。プロのシェフならもちもち感を追及して上新粉や浮き粉を独自の配合で混ぜ込む場合もある。また場合によっては焼き豚や干しえび、干ししいたけ、いかのすり身なんかを加えて風味を出す事もある。それを一度蒸す。更に食べる時にごま油でじゅっと焼くのだ。表面はかりっと香ばしく、中はふんわりと大根の優しい風味がして、食感はもちもちのおいしいおいしい大根餅。からし醤油か黒酢を少しつけて食べましょう。シンプルな味わいではあるが、いつまでもいくらでも食べていたい。しかもこのお店の大根餅はスパイスの香りが豊かで、通常あっさりした食べ物として把握される大根餅のイメージを良い意味でくつがえしてくれる。最近スーパーでも「五香粉(ウーシャンフェン)」という中華のスパイスが売ってますよね。フェンネル(ういきょう)、シナモン(桂皮)、スターアニス(八角)などをブレンドしたスパイスだが、うちで作る場合はあれを使うとこういう風味になるかも。とにかくうまいっ!大根餅っ!
ニラ饅頭。大根餅同様これも余りフォトジェニックな姿とは言い難いが、気取らず飾らず愛すべき点心だ。
青菜の炒め物。厳密には点心メニューではないが、野菜をたっぷり食べられるこういう一品があると嬉しいよね。
中華料理のプロにとっても青菜の炒め物は意外にむつかしいとされるそうだ。火力、炒め方、タイミング、味付け、シンプルなだけに技量の全てを試すのだろう。プロではないけれど青菜を炒めると水っぽくなってしまうとお悩みのあなたとあたしへ。火力と手早さが勝負です。火が出るかと思うくらいかんかんに熱くした中華鍋と油(火事に気をつけましょう!)の中に材料を放り込んだら火力を最強にして秒速の世界です。炒め始めてから数十秒後には皿にのってテーブルの上にあると思わねばなりません。しかし家庭のコンロでは火力に限界がある。そこでお勧めなのはあらかじめ青菜をさっとゆでておく事。ゆでるお湯の中に塩と油を入れておくと湯の温度が高くなっておいしくゆでられるし、ゆでた後素材がぱさつく事もない。素人が炒めても水っぽくならない。「たかが青菜の炒め物にゆでる鍋と中華鍋の二つを使って二度手間かよ」と思うあなたへ。強火でさっと炒めた後にさっと熱いスープをかけてからめてしまうのはいかが?水気が出てしまうとか気にしなくていいし、スープのお陰で旨みたっぷりに食べられる。ぞんざいな方法のようだがこれはプロでも使う方法で、例えばこの写真でもそうだ。ただしじっくり香ばしく香りを出したにんにくや中華ベーコンも入っていて味に深みを添えており、簡単なようで真似できなさそうなプロの味に仕上がっている。

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