2009/5/18
ヨーロッパ旅(13) アルハンブラ宮殿にて ヨーロッパでの日々

美しき庭園、穏やかな陽気、木漏れ日の中コーヒーを楽しむ老齢のカップル、仲良く腕を組んで幸せそうに歩いているバケーションカップル・・。ここはスペインはグラナダ、世界遺産のアルハンブラ宮殿へとつづく門。
町中からつづく急な坂道は、観光客で賑わっているものの、アラブ商人の出店が軒を連ね、とてもエキゾチックで異国情緒たっぷりでした。そんな道を、私たちも腕を組んでのんびりと・・?いえ、どうしたことでしょう、イノシシのようにわき目も振らず坂道を駆け上がる私たちの間は、腕を組むどころか10メートル近く開き、笑顔のかけらもありません。
今の私たちの目的はただ一つ、アルハンブラのチケット売り場に一分でもはやくたどり着き、長蛇の列を潜り抜け、午後のチケットを手に入れること。
美しい噴水も、おいしそうなエスプレッソも、そしてお互いの存在すらも、二の次です。ものすごく足のはやいマーティンの後を、「もっと早く!」と叱られつつ、ぜいぜい息を切らせながら追いかけ、ちょっと立ち止まって門の写真(上の写真です)を撮っては「そんなの後でいいだろ!」と言われ、だんだんに私の不機嫌ボルテージは上がってきました。わざわざ休みを取って、飛行機に乗ってスペインまで来たのは、こんなふうに時間を過ごすためじゃないわい!
しかし、「長蛇の列」、と言われればディズニーランドや愛知万博の『待ち時間・3時間』などの光景が即、頭に浮かぶ我ら日本人にとっては、アルハンブラ宮殿のチケット売り場の「長蛇の列」は長い蛇どころか、しゃくとり虫くらいの可愛いものでした。もちろんオフシーズン、ということも大きいとは思いますが、覚悟していた私は拍子抜け、なーんだ。
念願のアルハンブラ宮殿のチケットが無事手にいはいり、マーティンはご機嫌、ポケットに手を突っ込むと、「行こうよ〜」と足取り軽く先に歩き始めました。「俺が急がせたおかげでチケットが手に入ったのさ。良かったでしょ?」
でも私はご機嫌とは正反対のふくれっつらです。
「違います。君は長蛇の列って聞いた瞬間に諦めてたもんね。それを説得してチケット売り場に行くだけ行ってみようと押したのは私です。」
おっと、なんて醜い口げんかでしょう。互いにアルハンブラ宮殿のチケットが手に入ったのは自分の手柄だと信じております(笑)。もはやバケーション中のカップルに漂っているはずの、ロマンチックさやラブラブ光線のかけらもございません。
兄弟かただの友達かのような距離感と気安さで、ふん、と互いに歩き出しました。
いやいやいや、ちょーーーーっと待った!
「あのさ!こんなはずじゃないんだけど。絶対間違っているんだけど。こんなことのためにわざわざ遠いカナダからスペインまで来たんじゃないんだけど。」
これがマンガだったら、マーティンの顔の横に、「キョトン」という文字が書き込まれうことでしょう。
「何のこと?」
「もっとリラックスしてのんびり楽しく行きたいんだけど。」
「まぁまぁ、とにかくチケット手に入って良かったじゃん。入る時間までまだけっこうあるから、町に戻って何か美味しいものでも食べようよ。コーヒー飲む?」
もおーーー、この男、女心ってやつが全然分かっちゃいないんだ!
「違うよ!全然分かってないよ!うちらバケーション中のカップルじゃないの!?ロマンチックの欠片もないよ。本来ならさ、にこにこ仲良く腕を組んでラブラブに通りを歩いているはずじゃないの?それに比べればアルハンブラなんか、どうでもいいよ、私は。あ〜もぉ〜〜〜、こんなの全然楽しくないーー、絶対間違ってるーー!!」
・・一体誰でしょうこれは。駄々っ子の分らず屋・・?
そう、ガハハガテン系かつ野人の私にも、ばっちり存在するのです、複雑な(?)いや単純明確な女心ってやつが・・。
振り返ったマーティンの表情は、まるで地球外生命体にでも出会ったかのようでした・・。
* * *
・・え〜っと、これ、一体何の話だっけ??バンフの冬だの春だのは、どこにいっちゃったんだ?
すいません、みなさん大変にお待たせいたしました。3月4月と中断してしまっていた、2月のヨーロッパ旅のブログ連載、遅筆でなまけものの私に、ついに続きを書く時間と気力が戻ってまいりました。なにせせっかくの休日なのに、外は大雪ですので。
きっとどんな展開になっていたか、ほとんどの方が忘れてしまったことでしょう。何を隠そう、私もです(笑)。
時間のある方は、前回の(12)に戻ってじっくり読んでいただくとして、そうでない方と私自身のために、これまでの経緯をかいつまんでご説明しますと・・、
2009年2月、チェコのプラハにマーティンを訪ねて初のローロッパ旅行に踏み切った私は、プラハで数日過ごした後、彼と1週間のスペイン旅に出かけたのでした。そして真夏の陽気の中、数日のロッククライミングを楽しんだ後、世界遺産のアルハンブラ宮殿をこの目で見るべく、グラナダまで足を伸ばしてきたのです。しかし予約なしで当日の入館チケットを手に入れるには、長蛇の列に並ばねばならず、しかも並んでも手に入るか分からないことを知った私たちは、わずかな望みを胸に、町からアルハンブラ宮殿のチケット売り場へと急いだのでした・・。
それでは、お待ちかねのドタバタヨーロッパ旅紀行、どうぞお楽しみください。
* * *
「腕を組んで、休暇中のカップルらしく、ラブラブに一緒に歩かんかい!」
絶句。呆気。
女、この最大最高に難関で理解できない生き物。
私の雄たけび(?)にマーティンは心からびっくりしたようでした。
そして次の瞬間、大爆笑。
「Oh my god, you are sooooo girly!!! (そんなに女の子だったとは知らなかったよ!!)」
そしてげらげら笑いながら「ごめんごめん」と誤ると、
「よし、これからは俺たちはバケーションカップルだ。お互いのことしか目に入っていないような感じで、甘い言葉をささやき合いながら、ラブラブオーラを発しまくるのだ、それでいい?」
「うん、それでいい。」
てなわけで、午後は究極のバカップル状態(笑)。舞台は世界遺産のアルハンブラ宮殿ときたもんだから、文句ありません。

アルハンブラ宮殿は、広大の丘を覆いつくしているような規模の大きなもので、歴代の支配者やそのときの宗教の色を反映した、色々なスタイルの建築物が並んでいるちょっと変わった建造物です。庭園や新しい神殿などはチケットがなくても自由に歩くことができるのですが、一番の見所の宮殿に入るにはチケットを手に入れなくてはなりません。入場制限があり、決まった時間にしか入れないようになっているのです。上の写真が、私たちの入場時間の列に並んで待っているところです。
クライミングに行くときも、電車の駅での警備のものものしさに驚かされましたが、ここアルハンブラ宮殿も世界的に有名な観光地というわけで、ごついアミーゴがあちらこちらに仁王立ちしています。けれども、どうも納得いかないのがバックパックの肩のストラップを片方だけはずして、一本がけにさせられたこと。一体なんのため??
北米ではテロ防止のために、映画館にバックパックの持ち込みを禁止することはよくありますし、それは納得できます。でもアルハンブラ宮殿では、別に持込みすることには問題なく、列に並んで入り口を通るときだけストラップを片方外して待つように指示されたのでした。わけわからん!
意味のないことや、理屈の通らないことを他人から説明なく強いられることは、頭にきます(笑)。どうでもいいや、と数分後に両方の肩にしょいなおして知らん顔していたら、無愛想アミーゴに「そこの君!」と注意されてしましました。だってー。
入り口でチケットのバーコードをピッとしてもらったら、後は中でどれだけ過ごそうと各自の自由。バックパックもすぐに普通にしょいなおし、納得のいかないままに宮殿散策が始まりました。

これは入り口をくぐってすぐに足を踏み入れる、宮殿内の吹き抜けです。入場制限をしているとはいえ、宮殿内は観光客でごったがえしていました。この写真は人の少ないときを狙って撮ったのですが、あっちもこっちも写真を撮る人、ビデオを撮る人で押し合いへし合い。
はるか昔に、この廊下を、白いローブを着てあごひげを生やした、アリストテレスやソクラテスのような哲学者や政治家とかが、一人物思いにふけりながら歩いたりしていたのだろうな、と思いつつも、人ごみの中、そんな光景を想像するのはちょっと努力がいります。
けれども、大きな宮殿の建物という建物が、びっしりと複雑な文様の彫刻で埋め尽くされていたのにはびっくり!


一体どれほどの時間と労力が費やされているのでしょう。
カナディアンロッキーで暮らしていると、自然の力や美しさ、人間には到底及ばない創造の力などに圧倒されますが、ヨーロッパではプラハの教会や塔、「白鳥の湖」のバレエ、そしてこのアルハンブラ宮殿と、人間のなせる技や忍耐、芸術の力というものに改めて気づかされた思いでした。
わぁ、すごいな、人間って・・・。
しかしここでもやっぱり納得のいかないアルハンブラ宮殿の観光の形。
バックパックのストラップに始まり、次に納得できない事実は、説明板が全くないことでした。
美しい建築の背景にあるはずの、意味や歴史や技法など、これじゃ全くもってわかりゃしません。そんなわけで、何を見ても、何に感動しても、バカみたいに「ほー」「はー」とため息をつくのみです・・。うむむ。歴史っ子マーティンもこれにはがっかり。「何も学べないじゃないか!」と憤慨しておりました。
説明書の看板がないということは、建物のありのままの景観を味わうことができていいじゃないか、と思われるかもしれません。でも私には、これだけ大勢の観光客が、アルハンブラ宮殿という美しい歴史的建築物の中で「その場・その時間」にピュアに浸ることなく、写真やビデオ撮りに狂ったように夢中になっていること、そしてトランシーバーもどきに一人で耳を傾けている様子は、かなり間違っているように感じてしまいます・・。
そう、このトランシーバーもどき。非常に目障りです(笑)。
説明板がない代わりに、チケット売り場でレンタル(もちろん有料)されている小型のラジオかトランシーバーのような外見のこの機械、大勢が手にぶらさげて歩いていて、あちらこちらでその場所の番号を押してはスピーカーを耳にあてて説明を聞いています。入場料を既に払っているのに、さらに金を払わないと何も学べない、という姿勢はいかがなものでしょう。知ってほしくないのか??
耳にあてないと聞こえないようなしくみなので、家族やカップルが一緒に同時に聞くことはできません。まぁそんな音量であちらこちらで大勢が機械を使っていたら、うるさくてたまらないでしょうけど、せっかく大切な人と来ていても、「へぇ、そうなんだ」「面白いね」と一緒にその知識を共有できないようなしくみは、いただけません。見るからにご夫婦なのに、互いの存在そっちのけで、それぞれが一人でトランシーバーに聞き入っていたり。あっちでもこっちでも、一人でトランシーバーもどきのささやきに没頭している人々・・。うざい!!それに比べたら説明書の板を要所要所に置いてくれたほうが、よっぽど自然だと思うのですが・・。ううむ、ううむ。
そして・・、みなさん、一体全体、写真とビデオを撮る以外にすることはないんですか・・。
日本人はよく「写真好き」と形容されますが、なんの、ここアルハンブラでは国籍など関係なく、観光客の80%近くが本物の光景よりも、ファインダーを通しての記録に没頭しております。ひたすらビデオをまわしながら歩き回っている人のなんと多いことか。それ、本当に帰ってから観るんですかね(笑)?あっちでこっちで「ハイチーズ」、数メートル歩いては、またポーズをとって「Hey, Picture, Picture!」うざい!!ろくに歩けやしません。
旅行から帰った友人にですね、自分の行ったこともない興味もない旅行先の、同じような背景や顔の何千枚という写真やビデオをエンドレスに見せられることほど苦痛なことはございません(笑)。
プラハにて、いくつかの教会で写真撮影が禁止されていたことが残念だった私ですが、ここにきて、バックパックを片方の肩がけにさせるよりなにより、まず「写真撮影、ビデオ撮影禁止」にしてほしいと思わずにいられませんでした。
世界遺産、アルハンブラ宮殿にて、私とマーティンは絶叫する寸前。
「Everyone, just turn off your crappy camera and video, that shilly talking stereo! Why don't you just enjoy this beauty with your own eyes and ears and heart!」
(みんな今すぐカメラとビデオ、そしてそのバカげたトランシーバーもどきのスイッチを切れい!自分の目で、耳で、生の心で、この美しさを味わったらどうなんだ!)
やれやれ・・。
けれど、広大な宮殿内、しばらくすると人々は散り始め、人ごみはまばらになってきました。
そして、ふと足をい踏み入れた天井の高い小さなホールで、私は息を飲みました。

わぁ、吸い込まれる!!
やっぱり説明書は何もないので、この美しい彫刻や、ホールの役割に関することは何一つ分かりませんでしたが、まるで宇宙空間にでも浮遊しているかのような錯覚に陥らせる造りでした。
ああ、本当に、すごいな人間って・・。何百年という時空を超えて、職人や芸術家の技は一瞬にして大勢の人間を圧倒させ、感動させてしまう。
世界遺産のアルハンブラ宮殿の観光形態は、正直あまり感心しないものでしたが、この建物や技には、確かに一見する価値のあるすごみと重み、迫力がありました。
でも私とマーティンの、アルハンブラ宮殿での一番のお気に入りは、最後の庭園だったのでした。
灼熱の夏を少しでも快適に過ごすために作られたであろう、小さな宮殿の中庭は、たくさんの緑と噴水に囲まれていて、ちょっと日本的な雰囲気。固く厚い常緑広葉樹の葉が、太陽の光を反射しながら、天然のスクリーンを提供していました。
石のベンチに仲良く肩を寄せて並んで、何を話すでもなく、ぼんやりのんびり。
移り行く時代。変わっていく世の中。たくさんの新しい技術。
でも、しあわせをもたらすもの、人々を感動させるもの、そういった根本的なものは何十年も何百年もきっと変わらないのだと思います・・。
それは匠の技。それは自然の恵みの中で、のんびりする時間。それは恋人や家族のぬくもり。
毎日何百人と訪れる観光客が、ここアルハンブラ宮殿から、膨大な写真とビデオ以上の何かを持ち帰っていることを、切に願わずにいられません。
* * *
「いい一日だったね!さあて、今晩の夕飯は何食べる?スペイン最後の夕飯だよ!スペインといえばパエリアでしょ!食べずに帰るわけにはいかんよね!」
「おっけーおっけー、バケーションカップルらしく、赤ワインとパエリアの夕飯だね。もう何でもお好きなようにしますよ。」
「むふふ」
「え、ご、50ドル・・・!?」
「えっと、じゃ、またケバブにしよっか。」
「・・今日すでに2回食べなかったっけ?」
「そうだっけ?」
「ていうか、たんにマーティンの好物なんだよね?」
「そうだっけ?」
こうしてグラナダでの一日が終わりました。