雲ひとつない晴天、まるで子どもたちの未来を祝福するかのような、五月五日「子供の日」の朝を迎えた。
今日は、久しぶりに黒田友美と郊外へデートすることになっていた。加藤吾郎は目覚めた早朝からワクワクしていた。午前十時に南海本線「難波駅」の改札口で待ち合わせをすることになっていた。
まだ午前七時過ぎだから、出るには早過ぎるなと思っていたら、携帯電話のバイブレーターが激しく震えた。慌てて画面を見ると、友美からのメールだった。
「おはよう吾郎さん、もう起きているの? 今日はお弁当作って持って行くからね」
メールを読むと加藤は嬉しくて、
「友ちゃんおはよう、もう起きてワクワクしているよ。ありがとうございます。お弁当めっさ楽しみにしています」
急いでお礼のメールを返信した。
加藤は手弁当の味を忘れかけていた。最後に食べたのは確か、母親が元気な頃の遠足の時だったから、もう八年も前になる。だから、友美がお弁当を作ってくれるということが無性に嬉しかった。
約束通り午前十時、加藤は友美と「難波駅」の改札口で落ち合った。そして、南海本線の特急に乗って「岬公園」へ向かった。今日は子供の日だから、車内は子ども連れの家族で賑やかだった。
子どもたちは両親と一緒に遊びに行けるのがたまらなく嬉しいのだろう、休む間もなく「キャー・キャー」と騒がしい。それがなおさら行楽気分を倍増してくれていた。
車中では、子ども連れの家族に気を使って二人はドア側に立っていた。時々、外の風景を見ながら言葉を交わしていた。時々、加藤は友美の胸元に視線が走らせていた。それは、友美が着ている淡いピンクのシャツの胸元の起伏がとても魅力的だったからだ。
「次は岬公園……、お忘れ物のないように……、特に小さなお子様のお忘れ物にはご注意くださーい」
車掌のアナウンスに車内から爆笑が起こった。
岬公園駅でほとんどの乗客が下車したので、特急電車はガラガラになって最終駅の和歌山へ寂しそうに走って行った。
加藤は子どもの頃からこの岬公園には何回も遊びに来ていたが、友美は初めてだったので興奮しているようだ。名前が岬公園というので、海が見える岬にある普通の公園だと思っていたようだ。
ジェットコースターや大きな観覧車など乗り物もたくさんある。子どもたちは、お父さんやお母さんと手をつなぎ大喜びして園内へ入場していた。
加藤と友美も自然と手をつなぎウキウキしながら入場した。二人は園内をゆっくり見学しながら歩いていると、突然、友美は大きな声で叫んだ。
「あっ、あれに乗りたいわ」
「さすが友ちゃん。あれに乗ったら岬公園の美しいロケーションが見えるよ」
と言いながら、友美と一緒に大観覧車に乗り込んだ。
風光明媚なロケーションを眺めながら、友美は「あぁー、へぇー、わぁー」と、訳のわからない歓声を上げながら騒いでいた。
観覧車のなかは二人きりの個室だから、友美は加藤の手をもて遊んだり、頭を肩にもたれかけたり、頬にキスしたり、「大好き」と叫んで抱きついたり、誰も見ていないのをいいことに安心していちゃいちゃしていた。
大観覧車を降りたら、もう昼の十二時になっていた。加藤はどこで昼食しようかと周囲をキョロキョロと見渡しながら、
「あの広場に行って、海を見ながら食べようか」
周囲が驚くような大きな声で叫んだ。
「それがいいわね」
友美は言うなり、ステップを踏みながら長い髪をなびかせて跳んで行った。加藤も真似してステップを踏みながら友美を追いかけた。
「わぁー、気持ちいい。海の香り大好き」
友美は海に向かって、大きく深呼吸してひとりごちた。
「この辺で食べようか?」
と、加藤もひとりごちて、芝生に脚を投げ出して坐った。そして、さざ波がキラキラ輝く雄大な海をじっと眺めていた。
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