「それは厄介やなぁ……」
「私、怖いわ」
友美の澄んだ瞳から涙が溢れて、大声で泣き出した。
友美は、悲しんだり、怒ったり、感激するとすぐ涙を流す。この涙は、友美の武器にもなっていた。加藤はその涙にいつも困っていた。
「もう泣くな、ぼくが守ってあげるから心配するな。それと、ストーカーも捕まえたる。だからお願いだから、もう泣くなよ」
「うん、吾郎さん。ありがとう」
友美は鼻をすすりながら言った。
二人は、ストーカーの話から一気に気が滅入った。メリーゴーランドやジェットコースターに乗っても心から楽しめないので、早めに帰宅することにした。
加藤と友美は夕方六時過ぎに放出駅に着いた。
陽が沈みかけていたがまだ上空は明るかった。二人は帰りの電車のなかで、ストーカーへの反転攻勢の作戦を練った通り行動に移した。
加藤は、友美より一足早く改札を出て、一人で友美のマンションへ向かって早足で歩き出した。友美は、加藤から一分ほど遅れて改札口を出てゆっくり歩き出した。早足の加藤との距離は離れる一方だった。
友美は緊張してちらっとうしろを振り向くと、いつのまにか黒い影がうしろを歩いていた。野球帽と黒いトレーナー姿は間違いなくいつものストーカーだ。尾行されて今日で七回目になる……四月中旬から計算すると、二日に一回は尾行されていことになるな。と、友美は考える余裕すらあった。
駅から五分も歩けば広い公園が見える。友美のマンションはこの公園の向こう側に面して建っていた。友美は、部屋の窓から公園の色鮮やかな花や樹木が見えるので、我が家には、大きな庭があると自慢していた。また、早朝は小鳥の美しいさえずりで目覚めていた。
友美は公園のなかを通り抜けて、マンションの前で立ち止まった。
(吾郎さんが見ていてくれているから安心……)と思いながら、ゆっくり振り向いた。
そして、
「あなた、私に何か用事があるんですか?」
勇気を振り絞って鋭く訊ねた。
男は顔を隠すように下を向いて無言で一歩退いた。そして、素早く振り返り逃げるように立ち去った。
そのストーカーをぴったり尾行している男がいた。その男は、ストーカーの正体を知るために作戦を練った加藤自身だった。ストーカーは早足で放出駅に向かっていた。加藤は気づかれないようにゆっくりジョギングをしているように見せかけて尾行した。ストーカーは放出駅には行かず、近くのパチンコ店の駐車場へ入った。
すぐ駐車場から出て来た五十CCのミニバイクには、ストーカーの男が乗っていた。
(しまった、ミニバイクか)と、加藤は思う間もなく、ミニバイクは逃げるように加速して猛スピードで走り去った。
加藤は自分の考えが甘いことを猛反省しながら、友美の待つマンションへ行った。
「お疲れ様、どうだった?」
「近くのパチンコ店の駐車場からミニバイクに乗って逃げられた」
加藤は残念そうに言った。
「ミニバイクで逃げたの……残念だったわね。あのストーカーどこかで会ったような気がするんだけど、顔がはっきり見えないから、誰なのか全然思いだせないの」
「そうか、次ぎはもっとしっかり作戦を練るから。絶対に正体を暴いてやるよ」
加藤は悔しそうな表情をして力強く言った。
二人は岬公園へ行くために早朝から起きていたのと、ストーカー作戦の失敗が重なりどっと疲れが出た。
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