正月も過ぎ一月中旬になったある日の夜、加藤は専門学校を終えて帰宅した。
自宅の玄関ドアを開けると同時に、携帯電話の受信音が鳴った。あまりにもタイミングがいいので嬉しい予感がして電話に出た。
「もしもし加藤か、ビッグニュースがあるぞ!」
受話器から弾けるような声が耳に飛び込んだ。
「おお、菊池か。ビッグニュースって?」
「ええか、来週二十一日の水曜日午後七時に環状線の天満駅の改札口前へ行ってくれ」
「環状線の天満駅へ……なんで行くんや?」
「そこに行けば、会いたい人に会えるからや」
「まさか、黒田さんか?」
「そうや! そのまさかの黒田さんが待っとるから絶対に行けよ」
「えっ! ほんまか!」
「さっき、千恵と一緒に天満の商店街を歩いとったら、バッタリ黒田さんと出会ったんや。加藤が会いたがってるからって言ったら、めっさ喜んでたぞ!」
「ほんまか、菊池、サンキュー」
電話を切った加藤はカレンダーを見て、(今日は金曜日だからあと五日か、ああ待ち遠しいなぁ……)と、もうワクワクしていた。
黒田友美と大阪城で出会ったきり既に七ヶ月が経っていた。加藤は彼女を思えば思うほど心の中で恋が激しく成熟していた。
やっと、待ちに待った終業のベルが鳴り出した。
今日は宇宙のリズムが狂ったのかと思うほど時間が経つのが遅かった。時計を見ると間違いなく午後五時二十五分だ。
加藤はもうドキドキしながら作業服から私服に着替えた。今日はちょっとお洒落した。と、いっても安物のワインレッドのタートルネックにダークグレーのブレザー、スラックスはブラック。そして、いつも着ている一着だけのブラックのハーフコートだった。
JR阪和線・西田辺駅から天王寺駅で環状線の外回りに乗り換え、天満駅で下車した。待ち合わせ時間より三十分も早く着いたので、天満駅周辺の商店街をブラブラしながら時間を潰した。
この天神橋商店街は地下鉄の南森町駅、扇町駅、天神橋六丁目駅の三駅よりもまだ長い。大阪では商店街の長さと賑わっていることで有名だった。
加藤吾郎は午後七時前に天満駅の改札口の前に立った。心臓がドキドキ高鳴るのをどうするとこもできない、喉も渇いて仕方がない。
こんな気持ちは生まれて初めてだと思いながら……冷静を装っていると、目の前に黒田友美が颯爽と現れた。
「今晩は、お久しぶりです」
彼女はこぼれるような笑顔であいさつした。
加藤は七ヶ月ぶりに出会った彼女を見て驚いた。それは、すごく大人っぽく見えたからだ。薄い化粧と髪にパーマをあてているためだろうか、それにしても以前より一層美しくなっていた。身長百六十センチの均正のとれた全身から気高い気品が漂い、加藤の目にはまるで女神が現れたように映った。
「今晩は、元気そうだね」
加藤は心臓が高鳴り爆発しそうなのを必死に抑えて言った。
「この前、この商店街で菊池さんに偶然出会ったら、加藤さんが会いたがってるって聞いたから驚きました」
「えっ、 なぜ驚いたの?」
「だって……まさかって……」
黒田は頬をほんのり紅潮させて口ごもっているので、それ以上はあえて聞かなかった。
「ほんと、ぼくはすごく黒田さんに会いたかったんや」
「本当だったんですね」
「ほんま冗談違うよ、心からそう思っていたんやから」
「ありがとうございます。ところで加藤さんお腹、空いていませんか?」
「めっさ、空いてる」
黒田は笑みを浮かべて、
「じゃ、お好み焼き食べない? おいしいお店を知っているから」
加藤も笑顔で「いいね」と、答えた。
我を忘れて、改札口の前で棒立ちになっていたことに気づき、ゆっくり歩き出した。
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