内閣府の公表する実質GDPの数字が実感から乖離している原因として、輸入物価の上昇が影響している。GDPは内需項目に輸出額から輸入額を差引いた純輸出額をプラスして算出する。昨年度は、名目の純輸出額が6兆3500億円と対前年度比で28.8%減少している。ところが実質値では純輸出額は16兆3800億円と18.9%の大幅な伸びになっている。
これは輸出価格が2.6%上昇したのに対して、原油高などによって輸入物価が11%も上昇したからである。つまり輸入品のデフレータが大くなったため、デフレータで割り返した実質輸入額が異常に小さくなったのである。そしてこれが実質GDPの控除項目である実質輸入額を異常に小さくし、結果として実質GDPを大きく押上げることになった。計算ではこれで2%くらい実質GDPを押上げている。昨年度の内閣府公表の実質GDPの成長率は3.2%であるから、輸出入品の物価上昇の影響を除けば、実質成長率は1.2%の低成長ということになる。
輸入物価が11%も上昇したのに、輸出価格が2.6%しか上昇していないということは、日本の交易条件がかなり悪くなったことをうかがわせる。つまり輸出品がコストのアップ分を転嫁できず、国内経済のどこかににしわ寄せしていることを意味する。このように
日本経済は原油代が上昇すれば、自然と実質経済成長率だけが上昇するという仕組みになっている。
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以下は丹羽教授の「内閣府推計のGDP速報値を読み解く」と題する論文である。
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1.丹羽春喜
内閣府推計のGDP速報値を読み解く
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まず目につくこと
去る6月12日、内閣府は、昨年度(平成17年度、すなわち2005年度)のGDP速報値を公表した。それによると、昨年度(平成17年4月 ~ 平成18年3月)のわが国経済のGDPは、名目値では1.9パーセントの伸びにとどまったのであったが、実質値(平成12年価格評価)の伸びは3.2パーセント(対前年度比)に達したものとされた。 わが国経済の実質成長率が年率で3パーセントを上回ったのは、バブル期以来の実に15年ぶりのことである。
この数字だけを見たかぎりでは、わが国民こぞって慶賀すべきことだということになろうが、しかし、このような内閣府のGDP速報値の諸数値をすこし仔細に見れば、幾つかの重大な疑問点ないし問題点が含まれていることがわかる。本稿では、以下、そのような疑問点・問題点を指摘し、考察しておくことにしたい。
まず、目につくことは、近年の諸年度についての内閣府推計GDPの通有性であるとはいえ、名目値ベースでの成長率がいぜんとして低迷を続けているにもかかわらず、それとの比較では、実質値ベースの成長率が相対的には不自然なほどに高いということであろう。
名目値ベースで1.9パーセントの成長率が、実質値ベースでは3.2パーセントの成長率になったと算定されているということは、GDPの名目値を割り引いて実質値に換算するときに用いる一般物価指数(いわゆる「GDPデフレーター」)の値が昨年度は1.3パーセントも低くなったと推計されたことを意味しているように見える(3.2 ―1.9= .3)。
昨年度から本年度にかけては、原油価格の高騰などの影響で、諸価格の値上がりがはじまっているというのに、一般物価が1.3パーセントも低下したかのごとき計算に見えるということは、いかにも非現実的な話であると言わねばなるまい。
もしも、このように大幅な一般物価の低落ということが本当であったとすれば、昨年度、わが国の企業は、身を切るような安売りをなさねばならなかったということを意味しているわけであり、わが国の企業を苦しめてきたデフレ圧力は、いぜんとして過酷なものであったということになるわけであって、「景気回復が定着し!」うんぬんというマスコミ論調は、ウソであったと言わねばならないことになろう。
「純輸出」(貿易収支)に潜むなぞ
━━名目値では大幅減、実質値では大幅増━━
実は、このような奇妙に見える結果が導き出された理由は、今回の内閣府GDP推計における「財貨・サービスの純輸出」(すなわち貿易収支)の欄をちょっと注意深く観察すれば、すぐに判明する。
まず、この「財貨・サービスの純輸出額」(貿易収支額)をGDPから控除した額である「国内需要額」を見てみると、名目値では対前年度比2.4パーセント増、実質値では対前年度比2.8パーセント増と推計されているから、昨年度のわが国の国内物価は0.4パーセントの低下(2.8 ― 2.4 = 0.4)であったという計算になる。この数字であれば、まずまあ、妥当なところであろう。
しかし、だとすれば、上記の実質GDP成長率3.2パーセント、そして、1.3パーセントもの大幅物価低落という数字との整合性はどうなっているのかという謎が生じてくる。本稿では、まずここで、この疑問を詳細に解明しておくことにしたい。
上記の内閣府が6月 12日に公表した推計によれば、名目値ベースでは、平成17年度のわが国の財貨・サービスの輸出額は対前年度比11.8パーセント増の74兆9562億円、同じく輸入額は18.1パーセント増の68兆6013億円、差し引きした貿易収支黒字(すなわち「純輸出」)の額は6兆3549億円であり、これは対前年度比28.8パーセントという大幅な減少であった。
ところが、実質ベース(平成12年価格評価)では、昨年度のわが国の財貨・サービスの輸出額は対前年度比9.2パーセント増の76兆397億円であったのに対して、輸入額は6.8パーセント増の59兆6555億円にとどまったとされており、貿易収支黒字(すなわち「純輸出」)の額は16兆3842億円となったとされている。
これから計算すると、控除項目である実質輸入額の伸びが低くとどまったことによって、昨年度におけるわが国の財貨・サービスの貿易収支黒字の実質額は、対前年度比18.9パーセントの大幅な「増加」ということになってしまっている。名目値では「大幅減」、実質値では「大幅増」というまことにユニーク算定となっているわけであり、ここに上記の謎を解く鍵が潜んでいるわけである。
実質成長率の高い数字の裏に潜む交易条件の悪化
実は、このような異常ともいうべき算定結果が示されるにいたったのは、昨年度における原油価格の高騰と、それにともなった国際市況商品の価格上昇によって、わが国の輸入物価がかなり大幅に上昇したことによったものであると考えることができるのである。
上記の内閣府のGDP推計では、昨年度、わが国の輸出物価も多少は上昇した(円だてで2.6パーセントの上昇と推計されている)のであるが、輸入物価の上昇率は、それよりも、はるかに大幅であった。すなわち、原油価格などの大幅高騰につれて輸入物価は総合値でも11パーセントも上昇した(同じく円だてで)ものと内閣府は見積もっているのである。
このような輸入価格の大幅上昇にともなって、上記のごとく、昨年度のわが国の実質輸入額の伸び率は実質輸出額の伸び率よりも「大きく下回る」ことになり、昨年度のわが国の財貨・サービスの貿易収支黒字(純輸出額)は、名目値では大幅減であったにもかかわらず、実質値では大幅な増加を記録するにいたったのである。
つまり、内閣府公表による上記の推計で、昨年度のわが国の実質GDPが対前年度比で3.2パーセントも伸びたとされたことについては、このように輸入物価の上昇で実質輸入額の伸びが抑えられて実質貿易収支黒字が大幅増となったという事情が、その大きな要因となっているわけである。
ここで見逃してはならないことは、昨年度のわが国経済において、輸出物価が2パーセント台の上昇にとどまったのに対して、輸入物価が11パーセントもの上昇であったということは、わが国にとっては、差し引きで対外交易条件が8 〜 9パーセントも悪化したということを意味しているということである。
このことは、わが国の産業にとっては、相当に苦しい事態であったはずであり、わが諸産業の海外への脱出(すなわちわが国の産業空洞化)が、ますます激しくならざるをえなくなったことを含意していたわけである。
危険きわまる跛行現象
最後に、重要なことをもう一つ指摘しておきたい。
内閣府による上記の昨年度GDP推計によると、民間設備投資額が名目値ベースでは対前年度比6.8パーセント、実質値ベースでは同じく対前年度比7.5パーセントという相当に大幅な増加率を記録しているにもかかわらず、すでに述べておいたように、GDPは名目値ベースで対前年度比 1.9パーセント、実質値でも3.2パーセントの伸びでしかなく、財貨・サービスの「純輸出」(貿易収支)を含めない「国内需要」でも、名目値ベースでは対前年度比で2.4パーセント、実質値でも2.8パーセントの伸びでしかなかったということである。
実は、このように、民間設備投資がかなり大幅に伸びているにもかかわらず、GDPや国内需要の伸び率がそれをはるかに下回っているという跛行現象 は、マスコミが「景気回復」ないし「好況の到来」をはやしはじめた平成15年ごろから現在にまでいたる近年のわが国経済の「悪い特徴」になっているのである(同じく内閣府の速報によれば、本年1〜3月期においても、この「悪い特徴」は顕著である)。
言うまでもなく、企業が設備投資を増やしているにもかかわらずGDPや国内需要が十分には伸びず、低迷を脱しえていないといった状態が続けば、その必然的な帰結として、国内投資についての「投資効率」の低下現象が生じ、企業の国内投資意欲の冷却化、ひいては、企業の国外脱出=産業空洞化の激化が不可避となろう。
周知のごとく、現在ならびに今後のわが国経済においては、中央政府ならびに地方自治体による社会保障関連支出をも含めた財政支出の削減が、相当な規模で行なわれつつあり、また、大幅な増税も断行されつつある(たとえば、市県民税の大幅な増税が、本年度当初よりすでに断行されている)。
したがって、わが国経済においては、今後も、国内需要やGDPの低迷は不可避であろう。だとすれば、過去3年間にようやく息をふき返した企業の設備投資も、間もなく失速状態に陥る危険性がきわめて濃いと考えねばならないのである。
丹羽春喜;前大阪学院大学教授 経済学博士
昭和五年(一九三〇年)兵庫県生まれ。
京都産業大学経済学部教授、大阪学院大学経済学部教授。
参考:
経済コラムマガジン
内閣府HP
http://www.esri.cao.go.jp/index.html
GDPについて補足
GDP統計は国の豊かさを示すものであるが、経済の活動レベルを正しく反映するものではない。たとえばGDP統計には農家の自家消費額の見積額が算入されている。つまり自家消費が増えればGDPは大きくなり、経済成長率が大きくなる。しかし農家がどれだけ自分達の作った作物の消費を増やしても、金銭での取引がないのであるから、経済全般に何の影響もない。
また家計最終消費支出には持ち家の帰属家賃と言うものが含まれている。一般の賃貸住宅では、家賃を借り主が貸し主に払っており、これは消費に含まれ、GDP統計に反映される。持ち家の帰属家賃はこれに見合うものであり、家賃を擬制的に算出している。つまり机上の計算値である。したがってもし持ち家の帰属家賃が増えれば、GDPは増えることになり、計算の上では経済が成長したことになる。
農家の自家消費や帰属家賃などの市場外取引の額は実に80兆円もある。つまり実際に金銭取引の対象となっているGDPは、500兆円から80兆円を差引いた420兆円である。ところが最近のGDP統計では、この帰属家賃が大きくなっているという話があり、消費の実態がもう一つ分らない。またマスコミが行なっているGDP統計関連の解説は、このような点まで踏込んでない。
日経コラムマガジン 実感なき経済成長
http://www.adpweb.com/eco/eco335.html
より抜粋