●西洋文明に潜む排他性の意味
一五二一年、アステカ文明を滅ぼしたスペインのエルナン=コルテスは、ヨーロッパ諸国に対してこういいわけをした。アステカ人は、人間を生け贄に捧げるような野蛮な民族だから、滅ぼされて当然であると。
勝手によその文明へやってきて野蛮呼ばわりし、しかも黄金のために文明ごと滅ぼしてしまったのだから、モラルを逸したどころではすまされない話しである。
ところが、この残忍で卑劣きわまりない行為も、金、銀をはじめ多くの財宝をもたらしたため、すべての悪行が正当化されてしまった。アステカでの悪行が、許されてしまったせいで、一五三四年、インカ文明にも同じ悲劇が訪れた。
アステカ人だけでなく、世界中の文明を野蛮呼ばわりした文明だったが、当のヨーロッパ人も魔女狩りによって、罪もない人々を虐殺していた本物の野蛮人だった。この魔女狩りを語らずして、西洋文明は理解できないのである。
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魔女狩りの時代、それは悪夢の時代だった。少しでもよからぬ噂が立っただけで、魔女の烙印が押され、魔女裁判で裁かれる。裁判というと聞こえはいいが、そこは魔女を暴くための拷問の場でしかなかった。
裁判では、さまざまな拷問道具が用いられ、苦痛のために自白すれば、火あぶりの刑、自白しなければ、拷問死である。そのため魔女の疑いがかけられた人々は、ほとんど助かる道がなかった。
当時の民衆は、火あぶりなどの公開処刑が日常的におこなわれる世界に、慣らされていた。この事実を知っていれば、後に世界中で引きおこされた悪行も、おこるべくしておこったと素直に理解できるのではないだろうか。
魔女狩りでもっとも重要なことは、この常軌を逸した行動が、一時的ごく一部の限られた地域でおきた現象ではなく、全ヨーロッパで約四百年間に渡っておこなわれていたことである。
魔女狩りが体系化されたのは、一五世紀頃で、一六世紀から一七世紀にかけてがもっともひどく、国によっては一八世紀まで続いた。かりに一七世紀としても江戸時代の前期から中期である。他の文明を野蛮視したヨーロッパでも、それをはるかに超える野蛮な行為を正当化していた。
西洋文明には、このような排他性が潜んでいたことを単なる過去の出来事として見過すわけにはいかないのである。なぜなら魔女狩りの悪夢が、決して過ぎ去った昔話しでは終わらなかったからだ。
一九五〇年代、アメリカ全土で吹き荒れたジョセフ=マッカーシーの赤狩りは魔女狩りの再来そのものだった。
マッカーシーは、選挙のための売名行為と政敵追い落としのため、つまり自分の利益のために反共主義を利用した。この主張は当時の国策とも一致したため、政府も味方につけ恐ろしいまでに猛威を振るった。
赤狩りにおける人々の裁かれ方も、やはりまともではなかった。共産主義者という疑いをかけられただけで、おしまいだったからだ。非米活動委員会が設置され、密告が強制された。何も知らなくてもいわれるままに協力しないと、まったく無関係な人間でも罪に問われた。人々が苦労して手に入れた仕事や生活が、ある日突然奪われ、絶望により自殺したり、刑務所に入れられ処刑者まで出た。
人々は友人どころか自分の家族でさえ信用できなくなり、いつもだれかに陥れられることに怯えていた。魔女狩りとまったく同じ恐怖が、現代でもくり返されていたのだ。
魔女狩りの本質は、自分たちとは違う異質のもの、理解できないもの、都合の悪いものを排除する思想であり、異端や異宗教への排他的な思想が、そのまま実行に移されたものだった。
一方、赤狩りも、事前に流されていた反共主義の情報操作により、異文化を排除しようとする社会の性質を一部の人間が巧みに利用したものだった。赤狩りとはいっても、反共が真の目的ではなかったのである。
労働者のストライキや黒人の公民権運動、さらには核兵器反対運動など、一部の支配者層にとって都合の悪い人間をすべて共産主義者と決めつけ、連邦政府批判を一切許さなかったことを考えれば、魔女狩りとまったく変わらなかったことがわかるだろう。
残念ながら、赤狩りの悪夢も、昔話しにはできそうにない。なぜなら、いまのアメリカにも、マッカーシーに良く似た人間がいるからだ。たとえば、日本叩きで一世を風靡したリチャード=ゲッパートもそのひとりである。彼もまた自分の利益のために、選挙に勝つために日本叩き(日本狩り)をして成り上がった人物である。
反共主義者にしても、反日強行派にしても、目的はみな同じである。再選の望みがなくなったマッカーシーは、のるかそるかの大博打を打った。それとまったく同じで、ウソでもいいから人々の不満をそらす敵を作り、それを叩いて英雄になり、選挙で勝とうとしているに過ぎない。
日本叩きも、やはり第二次大戦前からのプロパガンダで、アメリカ人の中に強い反日感情が残っていることを一部の人間が利用しているのだった。
だが、表に出る人間は、所詮他人に操られた小物でしかない。どうして日本が叩かれ、悪者にされなければならないのか。何も理由がなくて、叩かれるはずがない。その理由は、後で詳しく述べたい。
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西洋文明の常識 森川 明氏著
本論文は以前ホームページ上で公開されていました。
大幅に加筆されたものが工学社によって出版されています。
西洋文明の常識
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