●搾取を隠す巧みなトリック
民主主義は、民衆が政治を動かす制度である。すべての責任は民衆にあるわけだが、いくら民衆が賢くても、正しい情報が知らされていなければ、誤った判断をしてしまうだろう。
民主主義は、誤った情報が流されるだけで、国が誤った方向へ進む。つまり情報を操作できるものが、すべてを支配できるのだ。
たとえば、アメリカ人の核兵器に対する意識が、日本人とは大きくかけ離れているのも情報操作の賜物である。かつて高名な科学者が放射能は危険ではないと断言していたように、基本となる情報が誤っていれば、簡単な判断さえできなくなる。
驚いたことに、某有名アクションスターが出た、一九九四年制作の映画でも、いまだに核兵器が破壊力の大きな爆弾といった程度に扱われていた。まるで少し離れていれば、核爆発がおきても大丈夫としか受けとれない映像を見ると、ひと昔前の内容に逆戻りしてしまったかのようである。
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現代のような情報化社会では、情報が津波のように押し寄せてくるため、ある程度の選別は必要だろう。しかし、重要な真実を隠したり、世論の支持を取りつけるために情報操作をすることは、国民に正確な判断をさせないことであり、あってはならないことだ。
湾岸戦争で報道規制がされたのも、真実が流されると、それまでの情報操作がばれてしまうからだった。ウソで塗り固めた戦争の真実が暴露されると、折角企画した戦争ができなくなってしまうからだ。では、どうして面倒な情報操作をしてまで、民衆にウソをつく必要があったのだろうか。
それは、単にいまの政治が民主主義だからだ。それだけである。その民衆は、人から何かを押しつけられたり、指図されることを極端に嫌う。常に自発的な行動でないと、納得しない。そこで民衆が自分が判断したと思わせるために、巧妙な情報操作が必要になった。
つまり情報操作は、西洋文明にとって、必要だから生まれた結果といえる。
長年の搾取のせいで、恐ろしく強い自主性を持ってしまった民衆を支配するには力で押さえ込む支配、つまり旧ソ連のような徹底した武断政治しかない。そこで文明の主流派は、自由や平等の看板を掲げることで、従来の武断政治ではないことを強調した。
民主主義の基本になった多数決も、やはり民衆を力だけで支配できなくなった新しい支配者層が受け入れた妥協の産物だった。だから、基本的には民主主義だが、原爆のような支配者層のビジネスが関わると、民主主義でなくなってしまう。
欧米の民主主義国家におかしな二面性があるのは、そのせいだった。ビジネスのために作られた情報まで、一字一句真に受ける必要はないだろう。
近年、アメリカで、O・J・シンプソン事件が、注目の的になった。事件は黒人有名人と白人女性の離婚問題、銃による殺人、警官の腐敗、根深い人種差別弁護士と陪審制の問題などバラエティーに富んでいる。これに麻薬がからんでいたら、アメリカを蝕んでいる悪の大半が、勢揃いしたことになっていただろう。
大騒動になった原因は、マスコミが必要以上に騒ぎ立て、弁護側が人種差別を全面に打ち出したせいだ。裁判での不利を人種カードで逃れようとしたため、白人層の反感を買い、単なる殺人事件の枠を越えたものになってしまった。
国内にも植民地を抱えるのが、西洋文明である。搾取される中心は、黒人層であり、黒人でも文明の恩恵にあずかれるのは、ごく一部のエリートというのが現実である。シンプソンはそのひとりであり、スポーツ選手として人々のあこがれの的だった。
それに加え、アメリカでは、いまでも白人警官による暴行事件や不法逮捕が後を絶たない。そのせいで、人種カードを使うのもあながち不当とはいえないところが、問題を複雑にしている。
とはいえ、人々の不満を誘う本質的な原因は、社会がもたらす貧困、すなわち搾取の体質にある。搾取は人種差別とも密接なつながりがあるため、確かに重要だが、すべての問題が人種問題にすりかえられ、人種対立にさせられてしまうのは、それらが意図的に作られていたせいだった。
すべては、差別からはじまっていたのである。
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西洋文明の常識 森川 明氏著
本論文は以前ホームページ上で公開されていました。
大幅に加筆されたものが工学社によって出版されています。
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