●奴隷貿易で儲けた大英帝国
コロンブスが西インド諸島へたどり着くとアメリカ文明へ、バスコ=ダ=ガマがインドへ達するとアジア文明へと、これまで手の届かなかった西洋文明の魔の手が、世界中に向けられることになった。
アメリカ文明の惨状は、既に述べたが、ヨーロッパより強かったアジアには、そう簡単にかなうはずもなかった。その後、西洋文明の産業発展を支えたのが、奴隷制度である。そしてそれを陰から支えていたのが、悪名高い「奴隷貿易」だった。
イギリスが現在の地位を築いたのは、ひとえに奴隷貿易のお陰である。海賊と奴隷貿易は、イギリスの代名詞といっていいくらいである。それにも関わらず、「イギリスが奴隷貿易でボロ儲けしていた」事実が、まるで大したことがないかのように語られている。まったく奇妙な話しだが、事実は事実としてみていきたい。
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まず、奴隷貿易を本格的にはじめたのが、スペインとポルトガルだった。アメリカ大陸をブラジルとそれ以外に分け合っていた両国は、インディオ(アメリカ原住民)をかり集め、サトウキビの栽培とそれを精製して砂糖を作る強制労働をさせていた。
スペインとポルトガルは、モラルの片鱗さえ見せず、多くの人々を虐殺したり奴隷状態にして徹底的に搾取した。インディオは、まるで消耗品のように扱われ、過酷な労働と白人が持ち込んだ新しい病気によって、最低でも数百万人は死んでいった。
当初の砂糖産業は、植民地ですべて「自給」できたので、信じられないくらいボロ儲けできた。ところがインディオの酷使で原住民の数が激減し、「労働力」が不足したため、足りなくなった分をアフリカから調達する本格的な奴隷貿易がはじまった。すべては、金儲けのためである。
イギリスは、一七世紀中頃から、この砂糖産業に加わった。イギリス本国と西インド諸島と西アフリカを結ぶ第一次三角貿易(奴隷貿易)である。アフリカから西インドへは、「黒人奴隷」を送り、西インドからイギリスへは「砂糖」をイギリスからアフリカへは「ラム酒」を送った。
もちろん三角貿易は、砂糖に限らずいくつもの種類が生まれたが、基本パターンは、タダで働く「奴隷労働力」をよそから輸入して、やはり地価がタダである「植民地」で「産物」を栽培(または採掘)させ、これもまた現地の「資源」で「製品」にして輸出することには変わりなかった。
考えてみて欲しいが、砂糖、タバコ、コーヒー、香辛料、金、銀など、とにかく高く売れそうな産物を強制的に作らせ、それを船で運ぶだけで大儲けできたのである。金儲けの観点から考えれば、笑いが止まらないくらいおいしい商売だったことがわかるだろう。
もちろん、このような卑劣極まりない悪行を、すべての人々が黙って見ていたわけではない。クエーカー派(新教)などの非イギリス国教派は、人道主義の立場から奴隷貿易の廃止を訴え、一八〇七年に奴隷貿易廃止法を成立させ、一八三八年には、奴隷制度自体を止めさせた。
クエーカー派はその他にも、インディアンとの友好を訴えたり、日本の原爆少女の治療を引き受けたりもした。欧米諸国は都合が悪くなると、すぐにこのような人々を担ぎ出すが、モラルで金儲けを否定する人間など、当時はほとんどいなかった。
奴隷貿易は、イギリスを筆頭に多くの国が関与した文明全体の犯罪だったが、後に条約が交わされ、禁止されることが決まった。しかし、法律では禁止したといっても、これまでの悪行を改心するほど善人ならはじめからやることもなかった。現実には、一九世紀後半まで延々と続いたのである。
奴隷貿易を禁止したら、どうなるだろうか。奴隷が新しく入ってこなくなるのだから、当然奴隷の値段は高騰する。となると、もし密貿易をすれば、禁止される以前より大儲けできる。
これは、アメリカで禁酒法が施行された一九二〇年代とまったく同じである。
アル=カポネなどのギャングが、酒の密売で肥え太ったように、奴隷商人は奴隷の密売で大儲けした。
奴隷貿易のお陰で、イギリスは巨万の富を手にした。何か大きなことをするには、いつもお金が必要である。イギリスが産業革命をなし得たのも、奴隷貿易で蓄えたばく大な資本があったお陰だった。
では、どうしてイギリスは、産業革命をやろうとしたのだろうか。そのわけは手ひどい搾取を受けた植民地の中に答えが見える。なぜか、突然理由もなくはじまってしまう、産業革命が生まれた理由について見ていくことにしよう。
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西洋文明の常識 森川 明氏著
本論文は以前ホームページ上で公開されていました。
大幅に加筆されたものが工学社によって出版されています。
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