●資本主義の弱者は悲惨である
資本主義の強者は、昔から常に批判されてきた。資本主義が発展する段階で、かならずその国の弱者を搾取したからだ。西洋文明では、かつて自国の民衆を飢餓に陥れ、子供すら半奴隷状態にして酷使したほどだ。
それが時代と共に減っていくのは、国内の搾取で財力をつけた資本家が、搾取の比重を海外へと移していくからだ。それであたかも搾取の問題が解決して、なくなってしまったかのように思えるのである。
資本主義は、かならず弱者を生む。絶対に、弱者がなくなることはない。国家でも民衆でも、弱者であれば、みな搾取にさらされる運命にある。その中でも、ごく一般的な例として、いまの発展途上国がどのような搾取にさらされているのか、その現状を見ていくことにしよう。
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ここにA国という、発展途上国があったとする。もちろんA国は、日本のような産業発展を遂げたいと思っている。しかし、A国には、産業と呼べるものが何もなかった。そこでそれほどお金がかからない農業からはじめることにした。
試行錯誤をくり返し、農産物を作ったまではよかったが、輸出をする段階になって困った問題が発生した。ものには何でも相場というものがあるが、農産物の国際価格が非常に安かったからだ。
このからくりを解くためには、欧米先進国が、工業だけでなく農業でも大国であることを知る必要がある。
一般に先進国の産業は、機械化で人件費を削減して、徹底的に合理化しているため、元々生産性が高い。そのうえ各国政府が補助金を出して、安くして輸出しているのだから、鬼に金棒である。輸出品に補助金を出すのなら、完全にダンピングのはずだが、弱小国が文句をいっても聞いてくれる国はない。
もし輸出ができないのであれば、自給に回す手もあるが、発展途上国が作る農産物は、単価は高いが価格変動も激しい商品作物(サトウキビ、ゴム、コーヒーなど)である場合が多い。植民地時代のプランテーションのなごりだが、食糧の自給を放棄した上でひとつの商品作物だけを作らせるため、一度相場の暴落や天候不順があると、すぐに飢饉に見舞われ、大きなダメージを受けるのである。
世界的に見ても、いまや農業では儲からなくなっているため、農産物を自給していた国や輸出していた国でさえ、自給を捨てて高値のつく商品作物に頼ったり工業化の道を歩んでいる。皮肉なことに、世界の人口は急増しているのに、肥沃な農地は減少する危機に見舞われていた。
結局、先のA国は、農産物を売って儲けるどころか、かかった費用より安く買い叩かれてしまった。援助に頼らず、何とか自立を試みたA国だったが、努力の甲斐も空しく借金だけが残った。もちろん、お金を貸してくれたのは先進国である。
工業の場合も、農業と同じかもっと深刻だろう。ハイテク関連の技術格差は、開く一方であり、とてもゼロから追いつける状況にない。先進国の競争相手が減った軽工業でも、一歩も二歩も先んじた他の発展途上国があり、安くて、品質の高い製品で競い合っている市場で太刀打ちできるはずもない。
八方ふさがりの中で、唯一残された道が、自国の資源を売って儲けることである。豊富な資源を持った国なら、いずれは自立して、発展できそうに思える。
だが、発展途上国には、自国で資源を採掘したり、輸出するための技術もお金もない。
そこで仕方なく外国資本(外国企業)に任せるわけだが、それを引き受けるのは大抵、自国を植民地にして搾取していた旧宗主国である。そのため折角独立したのに、昔と同じような搾取にさらされてしまうのだ。
さらに発展途上国には、それまでした借金という大きな足かせがある。借りたお金は返さなければならないが、元々お金がない国が借金したのだから、できることは限られている。たとえば、自国で使うための資源を売ったり、少ない国家財政をさらに切り詰めることである。公務員の給料未払いがいい例だが、そうすれば行政全般が混乱し、民衆の生活がますます苦しくなるのはいうまでもないだろう。
当然、人々の怒りは政府に向けられ、暴動や内乱が頻発するようになる。内乱で政治が不安定になると、それでなくても良くない経済がさらに悪化し、経済の悪化が政治をさらに不安定にする。これが世界各地でおきている現象である。発展途上国が経済発展するなど、夢のまた夢である。いくら経済的な自立を望んでも、ほとんどの国は、発展どころか借金を雪だるま式に増やしてしまい、巨額な負債を抱え込んでしまう。
目には見えなくても、弱者はみな搾取の対象、すなわち植民地状態だった。残念ながら第二次大戦後の植民地独立でも、状況はほとんど変わらなかったのである。
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西洋文明の常識 森川 明氏著
本論文は以前ホームページ上で公開されていました。
大幅に加筆されたものが工学社によって出版されています。
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