●資本主義と社会主義のウソ
さて、大航海時代から世界進出を果たした文明は、力こそ正義だと主張し、他の文明を徹底的に略奪し、破壊していった。よその文明から奪った富を元手にさらに略奪をくり返し、急速に豊かになっていった。
しかし第二次大戦は、ようやく確立したヨーロッパの世界支配に、大きな変化をもたらすことになった。ヨーロッパ諸国は、第一次大戦とその後におきた世界大恐慌のダメージから立ち直る前に新たな戦争に突入したため、二度も主戦場になったヨーロッパ経済は極度に疲弊したからだ。戦争が終わったとき、昔のような武力に頼る支配は、事実上不可能になっていた。
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植民地経済に支えられ、豊かさを保っていたヨーロッパの戦勝国は、敗戦国の植民地で潤うどころか、自国の植民地の大半を手放すしかなかった。無理して独立を阻もうとした国は、ことごとく失敗した。二つの大戦の主役であるヨーロッパに、勝者はいなかった。真の勝者は、貿易で漁夫の利を得たアメリカであり、アメリカのひとり勝ちで終わった戦争だった。
ヨーロッパの衰退と共に世界の武力支配が弱まると、植民地は続々と独立していった。とはいえ、国内経済は依然として握られていた。植民地時代に資本主義経済に組み込まれていたため、政治的には独立しても、経済的に独立することは不可能だったからだ。これが先に述べた経済中心の間接支配である。
一方、帝国主義の論理をそのまま継承したのが、アメリカとソ連である。第二次大戦後、アメリカと組んだイギリスは、ソ連と妥協することを拒み、資本主義と社会主義の対立を強化させる道を選んだ。ひとつ問題が解決するとかならず新たな問題が作られる。外敵を作ることでまとまってきた文明には、敵の存在が不可欠だったからだ。
悪の権化にされてしまったソ連(現ロシア)だが、この国は西洋文明でも特殊な部類に入る。ロシアは一五世紀まで、モンゴルの支配下にあったため、ヨーロッパでもなければアジアでもない、とりわけ異質な国だった。
そのような理由から、独立後は西ヨーロッパの制度や文化を取り入れ、急速な文明化をおこなった。ところが第一次大戦中、社会主義革命がおきると、ソビエト連邦が作られ、政治や経済だけでなくキリスト教まで捨てて、無神教国家になってしまった。ロシアはまたしても、西洋文明の主流から大きくはずれてしまったのである。
西洋文明では、異端国家は阻害され、叩かれる運命にある。何度も干渉戦争を受けたがそれに屈しなかったため、その強さが後に冷戦で利用された。だからこそ、冷戦が終わるとおかしな現象がおきたのである。
社会主義の本家だったソ連が経済崩壊すると、一転して資本主義と民主主義を受け入れ出した。この点は西側から高く評価されているが、ちょっと待って欲しい。いくら国家経済が破綻したからといって、あれほど敵対してきた西側の制度をすべて受け入れてしまうとは、いくら何でも節操がなさ過ぎではないか。
冷戦の実態は、政治では主導権争いをしていたものの、経済では裏でつながっていたのだ。旧社会主義国の金融が、西ヨーロッパと直結していたことは周知の事実である。冷戦とは、一種の貿易規制のようなもので、資本主義国と社会主義国が完全に分離していたわけではなかった。
政治ではなく、経済で妥協したのも、すべてが金儲けを基準にしているからだ。国家を無視した愚かな軍拡競争に走ったあげ句、東側が先に経済破綻してしまったため、今度は正反対の金策に走り出した。
このような金儲けの亡者に、いつも振り回されるのが、真面目で、純朴な人間である。本気で社会主義体制を支持してきた人々は、いつも時代の遺物として、取り残される運命にあるからだ。
いま旧社会主義国で暮らす人々は、かつての指導者が浪費した借金返済のために、国内の資源は外国のために使われ、インフレと物資不足で苦しんでいる。社会主義の理想を信じた民衆は、革命のために多くの血を流した。その見返りが、貧困だったのである。
世界の大国といわれたロシアは、いまや世界最大の債務国である。ロシア政権が西側に守られているのも、これまでの借金をチャラにさせないためであるのは間違いない。かつての革命で、多くの投資が無駄になった経験があるだけに、同じ過ちをくり返すことはないだろう。
どうやら、旧社会主義国の現状を他人事だと思っている人々が多いようだ。念のためにつけ加えるが、資本主義国も安泰ではない。資本主義で儲からなくなれば、資本主義も捨てられてしまうだろう。
現に、昔のように儲からなくなったヨーロッパは、EU(欧州連合)を、アメリカは、NAFTA(北米自由貿易協定)を作って、自国主導のブロック経済で優位に立とうとしている。体面上は、自由貿易を拡大していくためのブロック化だと偽っているが、自分の市場を囲い込んでいるのは明白である。
これまで世界は、欧米に有利なルールに一方的に従わされてきた。ところが日本を筆頭に、東アジア全体が台頭し形勢が不利になってきたため、またルールを変えることで蹴落とそうとしている。
東アジアは、弱者というどん底から、資本主義のルールを守って苦労してはい上がってきたというのに、何の努力もしてこなかった欧米が、また自分が有利になるようにルールを作り変えている。
NAFTAが発足したのも、東アジアの貿易額が、アメリカのシェアに肉薄したことにある。そこで東アジアを自分の市場から閉め出すために、ブロック経済を作った。そのくせAPEC(アジア太平洋経済協力会議)に参加して、東アジア市場での権利も手にしている。
一方、ヨーロッパは、ASEM(アジア欧州首脳会議)を利用して、東アジアの発展を押さえ込もうとしている。今後も東アジアの足を引っ張り、搾取するためにあらゆる策を持ち出してくるだろう。
資本主義は、あくまで西洋文明のためにある。だから、自分が作ったルールでうまくいかなくなれば、何の躊躇もなくそれを捨ててしまうのだ。いくら無節操だと思っても、それが西洋文明の主義主張である。もし時代遅れの人間になりたくなければ、欧米のやり口を良く見つめるべきだろう。
文明はシステムなど見かけを変えても、本質はそう簡単に変わるものではない。
だから歴史をさかのぼる必要がある。歴史を学べば、その文明がどのような性質を持っているかがわかる。そうすれば、次にどう出てくるのかまで読めるのである。
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西洋文明の常識 森川 明氏著
本論文は以前ホームページ上で公開されていました。
大幅に加筆されたものが工学社によって出版されています。
西洋文明の常識
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