●多数決が作り出した湾岸戦争
民主主義は、多数決である。それを当然のように思っている人も多いが、その多数決がどれだけ多くの間違いを生んできたかは、歴史が証明している。アドルフ=ヒットラーが率いたナチスドイツでさえ、当時もっとも民主的といわれたワイマール憲法下で台頭した政党だったからだ。
ナチス(国家社会主義ドイツ労働者党)が、政権を握るまでの一連の活動には、非合法のものも多かったが、少なくとも民衆に支持された合法的な政党だったことは間違いなかった。おまけに、ナチスを生み出し台頭させた主犯が、フランスとイギリスの民主主義国家だったというオチまでついている。
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ナチスは民主主義が生み出した悪夢であり、民主主義こそ一番と語る人々にとって、目の上のコブといった存在である。だからナチスを例外視することで、必死になって真実をごまかそうとしている。
ナチスと民主主義を切り放してしまったら、その時点で、民主主義の本質が闇へ消える。従って、ナチスを生んだ多数決を追及していけば、民主主義の常識も見えてくるだろう。
一九九一年、イラクのクェート侵攻で勃発した湾岸戦争は、多数決を見極める格好の材料になった。あの戦争は、民主的な国際連合の多数決によって下された合法な制裁だった。しかし、なぜかイラクだけが責められ、イラクに関わった国は何ひとつ問われなかった。本当にイラクだけが悪者だったのだろうか。
湾岸戦争を語るなら、その前に中東(西アジア)で紛争が多発する原因についてふれておきたい。
中東は長い間、オスマン=トルコ帝国の支配下にあった。とはいうものの異民族、異宗教への寛容政策により、一定の共存関係が保たれていた。
第一次大戦中、イギリスはトルコに支配されていたアラブ勢力を味方につけるため、アラブの独立を認めるフサイン−マクマホン協定を結びアラブの協力を得た。アラビアのローレンスが暗躍していたのがこの時代であり、イギリスのスパイだった彼は、フサインの息子ファイサルを利用して戦ったのである。
ところがその翌年、イギリスは中東をフランスと分割するサイクス−ピコ協定を結んだ。さらに翌年には、ユダヤ財閥の協力も得るためバルフォア宣言を結び、ユダヤ人のパレスチナ建国を認めた。これはイギリスが頻繁に使っていた典型的な二重(多重)外交政策である。
第一次大戦が終わり、枢軸国側についたトルコが負けると、先のアラブとの契約は反古にされ、イギリスとフランスによって“イラク”とシリアに分割された。
これが中東問題を生み出したそもそものきっかけである。
イラクがクウェートに侵攻すると、あたかも善人のふりをして仲裁に入ったフランスは、中東紛争の発端を作り出した当事者だった。おまけに死の商人である軍需産業が多量の武器を売りつけていたため、直接的に関与もしていた。
イラクの武器は、自国で生産したものではない。欧米の軍需産業が、とくにフランスが売ったから、軍事大国になった。武器を売りたいだけ売ってボロ儲けしておいて、それをすべてサダム=フセインのせいにするのだから平和の使者が聞いてあきれる。それにも関わらず、戦争のきっかけを作った張本人が、調停者として高く評価されるのだった。
湾岸戦争で掲げられた民主国家と独裁国家の対決でさえ、まやかしに過ぎなかった。もし本当にそうなら、ぜひ民主主義で筋を通して欲しいところだったが現実にはどこにも民主主義は見られなかったからだ。
多国籍軍の主力となったアメリカでは、多くの人々がこの戦争に反対したが、でっち上げの偽情報を流すことで世論の流れを変え、強引に参戦した。多数決はいいことだと主張する民主主義国のリーダーが、ことある毎に多数決を操作したり無視するのが実態だった。
イラクを非難するのはいい。だが、西洋文明も自国の利権のために、よその国を軍事占領したり、傀儡政権を立てて支配してきた。別に過去の話しをしているわけではない。現在でも「国益のためなら武力行使も辞さない」と明言している。自分たちはやってもいいが、イラクはダメというのは、どういうなの理屈なのだろうか。
フセインの行為は、確かに正当化できるものではない。しかし、フセインの責任を問うのであれば、欧米の責任も問われて当然だろう。西洋文明がやったことが正しければ、フセインがやったことも正しいのだ。西洋文明のプロパガンダに惑わされず、おかしいことはおかしいというべきである。
欧米と同様にイラクが力で訴えたのは、いうまでもなく武器を持っていたからだ。ではどうしてイラクに、武器を売ったのだろうか。自国の利権まで侵害するような独裁者に中東最強の軍隊を持たせたのだから、当然そのわけを知らなければなるまい。
西洋文明の目的は、みな金儲けである。欧米の軍需産業もまったく同じで儲かりさえすれば、敵味方に関係なく売りまくる金の亡者である。つまり死の商人が世界に暗躍しているから、イラクのような国が生まれてしまうのだ。
死の商人が国内にはびこると、アメリカのようになる。だれもが簡単に銃を手に入れられることで、得をするのはだれなのだろうか。そこら中で銃犯罪が多発していても、銃を野放しにしているのだから自業自得である。
世の中には、色々な人間がいる。見方を変えれば、銃犯罪や紛争が増えることは悪いことではないことに気づくだろう。治安が悪くなれば、さらに銃や高価な武器が売れるのだから、ある人間にとってはいいことなのだ。
もし、世界中の紛争を本気で止めさせる気があるのなら“簡単”である。ただ、武器を売らなければいいからだ。それがわかっていても、武器を輸出禁止にしないのは、そうされると困る人間がいるからだ。
確かにフセインは悪人だが、どう考えても彼だけの問題ではない。それでも非難されるのは、フセインだけなのだ。
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西洋文明の常識 森川 明氏著
本論文は以前ホームページ上で公開されていました。
大幅に加筆されたものが工学社によって出版されています。
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