●キリスト教徒の常識
新約聖書には、マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネという四つの福音書に、イエスの話しが記されている。四つの福音書には、基本的に同じ話しが書かれているが福音書ごとに内容が微妙に異なっていたり、ひとつの福音書にしか書かれていない話しもある。
そのため、解釈をする以前に「どの福音書から引用するか」で、聖書の内容自体が変わってしまう困った構成になっている。
ナザレという町に、ダビデの子孫であるヨセフと、婚約者のマリアがいた。マリアは、聖霊によって身ごもり、イエスをもうけた。
有名な処女懐胎の一節であるが、これは地中海沿岸をはじめ、世界各地にあった偉人を生む奇跡のひとつであり、当時としては決して珍しい話しではなかったらしい。
先の旧約聖書は、古代メソポタミア伝説を下地にして、ゾロアスター教の最後の審判や善悪の概念などの影響を受けている。一方、新約聖書も、さまざまな土着宗教や伝説などを取り込んだ箇所が見られる。
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イエスが幼少の頃の話しは、あまり詳しく記されていない。イエスは、若くして家を出ており、ユダヤ教の教団の一派に属していたという説もある。
ともかく、いきなり成人してあらわれたイエスは、ヨハネから洗礼を受けると荒野に出て、四十日間の断食修行をおこなった。修行の最中、悪魔があらわれてイエスをそそのかす場面は、ブッダが修行をして悟りを開いたときの話しとよく似ている。この修行から何らかの悟りを得たのだろうか。
それからイエスの布教活動がはじまった。イエスは布教の合間に、十二人の弟子を集め、各地で説法を説きながら病気をなおし奇跡をおこなった。イエスの教えの中でもっとも有名なのが、「貧しい人々は、幸いである」ではじまる「山上の垂訓」である。但し福音書によって内容が異なるため、ここでは割愛する。
イエスはその他にも、各地でたくさんの教えを説いているため、具体的な例には事欠かない。問題は、イエスの教えがとても難解なことだろう。イエスと人々の対話を読んでも解説(解釈)がないと何をいっているのかさっぱりわからないことが多い。
その当時の時代背景など、わかりにくい原因は多々考えられるが、聖書を読めばすべてが解決するほど単純ではないことを知っておく必要がある。
やがて、復活を預言したイエスは、タボル山へ登り、天の声を聞いた。そして山を下りエルサレムに滞在しているとき、「最後の晩餐」でユダの裏切りにあった。
最後の晩餐では、「パンは私の肉である、ぶどう酒は私の血である」と信徒たちに分け与えた。これが神との新たな契約(三度目の契約)である。最後の晩餐が、とくに重視されるわけは、神との契約を示す重要な場面だからだ。
また、“十三”という数字が、縁起が悪いといわれるのも、最後の晩餐に集まったときの人数が、イエスと十二人の使徒たち、つまり十三人だったことからきている。
最後の晩餐の後、イエスは不思議にも、死への恐怖をにじませている。はりつけのときも、まるで神を疑うかのような言葉を発している。色々な解釈はされているが、やはり福音書によって内容が異なるため、ここでは言及しないでおく。
イエスを逮捕したのは、当時ユダヤ人を支配していたローマ人だったが、処刑を求めたのはユダヤ人だった。イエスは各地を回り、さまざまな教えや奇跡をおこして人々に祝福を与えたが、それが逆に厳格なユダヤ教徒の怒りをかったのだろうか。ともかくこの処刑が、後々ユダヤ人が迫害される根元になっている。
はりつけがあった三日後、イエスは復活した。復活にこだわるわけは、イエスが神であることを証明する重要な出来事だったからだ。ただ残念なことに、復活したイエスを見ても、だれひとり本人だとは気づかなかった。それからしばらくして、イエスは天に帰っていった。
新約聖書には福音書のほかにも、使徒の手紙や布教の様子、そしてヨハネの黙示録などがある。ヨハネの黙示録は、もうすぐ世紀末なので、一度読んでおくとキリスト教徒の世紀末感がある程度理解できるだろう。但し、黙示録の内容は、超難解であり、昔からさまざまな解釈がされているため、ひとつの解釈に凝り固まらない方が賢明である。
二冊の聖書には、実に多くの話しが記されている。そしてそれらは、どれもほかに比べるものがないくらい重要である。聖書の一字一句が、人々の生活の拠り所になっていたからだ。いまでも聖書に出てくる人物や内容が、しばしば引用されるくらいである。
聖書も読まずに、西洋文明とは絶対につき合えないのである。
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西洋文明の常識 森川 明氏著
本論文は以前ホームページ上で公開されていました。
大幅に加筆されたものが工学社によって出版されています。
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