米国はイランや北朝鮮を「ならず者国家」と呼び、「必要あれば何時でも侵略するぞ」と脅迫することによって、ますます彼らを核兵器保有への道に追い込んでいます。米国黙認のイスラエルによるレバノン爆撃・侵攻を見れば、ますますイランや北朝鮮は一刻も早く核を持たなければという思いを強くすることでしょう。なぜなら核不拡散条約(NPT)は、非核保有国には核エネルギーを平和的に利用する権利を明確に認めていますし、核保有国には核兵器を削減すること及び非核保有国を核で脅迫しないことを義務づけています。ところが米国はこのどれをも履行しようとしていないからです。このような危険な情勢にどうすれば歯止めをかけることができるか、それをチョムスキーは以下の論文で明快に説明しています。
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核兵器拡散の停止および核兵器廃絶への移行が現在ほど緊急に求められているときはありません。その失敗がおぞましい結果につながることは、ほとんど間違いありません。その失敗は、より高度な知能を試す最後の生物学実験となる恐れさえあります。しかし、それほど危機が迫っているとはいえ、危機を取り除くための手段は存在するのです。身近に迫った崩壊は、イランの核開発計画をめぐって切迫しているように思われます。
一九七九年以前、シャー[イラン国王]が権力の座にあったとき、ワシントンはこの核開発計画を強く支援していました。ところが今日の[イランに対する]標準的な要求は、イランは[石油が豊富にあるのだから]原子力を持つ必要がない。したがって追求しているのは秘密の核兵器開発計画に違いないというものです。「イランのような巨大産油国にとって原子力エネルギーは資源の浪費である」と、ヘンリー・キッシンジャーは昨年ワシントンポスト紙に書いています。
しかし三〇年前、キッシンジャーがジェラルド・フォード大統領の国務長官だったとき、「原子力の導入は、イランの経済成長の必要性および石油埋蔵量の自由な温存という二つを提供することになる。後者は輸出すなわち石油化学製品への転換のために必要だ」と考えていました。昨年、ワシントンポスト紙のダフナ・リンゼーはキッシンジャーになぜ意見を変えたのかと尋ねました。キッシンジャーはいつも通りの愛想良い率直さでこう答えました。「昔は同盟国だったからね」と。
リンゼーの記事によれば、一九七九年、フォード政権は「イランの大規模な核エネルギー産業建設計画を支持しただけでなく、数百万ドルという大金の絡む取引を完遂させるために努力したのです。それが完成していれば、大量のプルトニウムと濃縮ウラン(これらは核爆弾への二つの通路です)をテヘランが支配することになっていた」でしょう。ブッシュ政権の最高立案者たちは、この計画を今や非難していますが、当時は重要な国家安全保障のポストにあった人物たちでした。すなわち、ディック・チェイニー、ドナルド・ラムズフェルド、ポール・ウォルフォビッツです。
西側が喜んで歴史をゴミの山に捨てるとしても、イラン人がそれを望んでいないのは確かです。選挙で選ばれた政府を米英軍のクーデターが転覆し、シャーを政権につけて以来、米国が同盟国とともにイラン人を五〇年以上にわたって苦しめ続けてきたことをイラン人は知っています。シャーは圧政をしいてきましたが、民衆の反乱で一九七九年に追放されました。
レーガン政権は当時サダム・フセインのイラン侵略を支援しました。フセインに軍事その他の補助を供給し、フセインによる数十万人のイラン人虐殺(イランのクルド人も含めて)を助けたのです。その後、クリントン政権の厳しい経済制裁が続き、その後、ブッシュ政権によるイラン攻撃の脅迫が続きました。それ自体が重大な国連憲章違反です。
先月、ブッシュ政権は、欧州の同盟国がイランと直接的な話し合いをもつことに条件付きで同意しましたが、攻撃するぞという脅迫を撤回することは拒絶しました。それは事実上、いかなる交渉も無意味だということです。交渉に応じれば銃口に晒されるような事態に追い込まれるからです。最近の事態[イラク戦争など]の経過を見れば、ワシントンの意図にますます懐疑的にならざるを得ないわけです。
二〇〇三年五月、当時ブッシュ政権の国家安全保障会議の高官だったフリント・レベレット[Flynt Leverett]によれば、ムハンマド・ハタミ[Mohammad Khatami]革新政権は「米国とイラン双方の意見の違いを全て解消するための、包括的土台作りを目指した外交交渉の協議事項」を提案しました。
その中には、「大量破壊兵器、イスラエル=パレスチナ紛争の二国家間解決、レバノンにおけるヒズボラ組織の未来、国連の核安全対策機関との協力関係」が含まれていた、とファイナンシャルタイムズ紙は先月報告しました。ブッシュ政権はこれを否定し、この情報を提供したスイスの外交官を譴責しました。
一年後、欧州連合とイランは約束を取り交わしました。イランが一時的にウラン濃縮を中断し、その代わりに米国とイスラエルがイランを攻撃しないという保証を欧州が与える、というものでした。しかし米国の圧力の下、欧州は姿勢を後退させ、その結果イランはウラン濃縮を再開しました。
イランの核計画は、知られている限りでは、核非拡散条約第四条で許されている権利の範囲内です。核非拡散条約は非核国家に原子力エネルギーの燃料[プルトニウムなど]をつくる権利を与えています。ブッシュ政権は、第四条が厳しく強化されるべきだと主張していますが、意味をなさないと私は思います。<註>NPTとは
http://www.jaea.go.jp/jnc/kaihatu/hukaku/database/5/1/1-j.html
核非拡散条約NPTが一九七〇年に実施されたときには、エネルギー燃料生産と核兵器燃料生産との間にはかなりの断絶がありましたが、技術の向上でその断絶は狭くなりました。とは言え、核保有宣言国と非核保有国との間で最初に取り決められたNPT条約を踏まえると、第四条を改訂するにしても、核の非軍事的利用が妨げられることがあってはなりません。
二〇〇三年、この目的のための妥当な提案が、国際原子力機関(IAEA: International Atomic Energy Agency)の事務局長、モハメド・エルバラダイ(Mohammd ElBaradei)によって提出されました。すなわち、武器として使用可能な核物質の生産と処理のすべては国際的統制下に置かれる、ただし「合法的な使用を望むものには供給を保証される」というものです。エルバラダイの提案によれば、核物質禁止条約(Fissban: resolution for a fissle material cutoff treaty)のための一九九三年国連決議を十分に実行するためには、それが第一段階であるべきだ、と言うのです。
エルバラダイの提案は、私の知る限り、今までのところある一国だけが受諾しています。それはイランです。二月に、イランの核交渉責任者アリ・ラリジャニ (Ali Larijani) と面会しておこなわれました。ブッシュ政権はFissbanの検証可能性を拒絶し、孤立しています。二〇〇四年一一月、国連軍縮委員会は、検証可能なFissban のを可決しました。票決は一四七対一(米国)、棄権二(イスラエルと英国)でした。昨年、正式な国連総会での票決は、一七九対二で、イスラエルと英国が再び棄権でした。米国に味方したのはパラオだけでした。
これらの危機を緩和し、おそらくは終了する方法はいくつかあります。第一は、米国とイスラエルによるイランへの脅威をなくすことです。それが実質的にはイランに抑止力としての核兵器開発を促すことになっているからです。それは非常に確実なことです。第二の段階は、エルバラダイの提案のように、あるいはそれと類似の、検証可能なFissban条約を米国が受諾し、世界の残りの国々が手をつなぐということです。
第三の段階は、NPT条約の第六条に従うということでしょう。第六条は、核保有国が核兵器廃絶への「誠実な」努力をする義務、拘束力のある法的義務がある、とするもので、これは国際司法裁判所が決定したものでもあります。核保有国のどの国もその義務に従ってはいませんが、米国はそれに違反している中でも、はるかに先頭を行っています。
これらの方向へ規則正しく向かえば、来るべきイランとの危機を緩和することになるでしょう。とりわけ、モハメド・エルバラダイのことばに注意を向けることが重要です。「この状況には軍事的解決はあり得ない。そんなことは考えられない。唯一の永続性的解決は、交渉による解決だ」。そしてそれは実現可能なのです。
出典:
核兵器問題の解決は近い、世論の包囲さえあれば
Solution in Sight
ノーム・チョムスキー、June 23, 2006
Khaleej Times(ドバイ、UAEアラブ首長国連邦)、
翻訳:寺島隆吉+寺島美紀子、公開060722
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