我が国では、従来の企業誘致政策に見られたような外来型・他力本願型の地域開発の限界と弊害が認識されるようになり、それに代わる政策として、地域住民自らが主体的に地域形成、産業形成に取り組むことによって地域発展を目指すという「内発的発展」が地域振興の有力な手法として浮上してきました。しかし、こうした傾向は我が国独自のものではなく、諸外国においても同様に進行しつつある現象形態です。例えば、かつて我が国の全国総合開発計画の策定にあたっては、先進国たる欧米各国の様々な開発手法が取り入れられてきましたが、1970年代以降は、それらの国々でも企業誘致を主体とする地域開発が行き詰まりを見せ、その打開策が見出せないことから、逆に我が国の地域活性化策の展開に注目しているほどです。
このように、世界的にも経済成長のみを追求した開発がもたらす様々な構造的問題、すなわち環境破壊や資源問題、途上国の貧困と飢餓、そして地域間格差に伴う社会的問題等に対する反省から、いわゆる近代化論に立脚した従来の開発パターンと袂を分かち、自助努力による発展を目指そうという動きが台頭しつつあるのです。そして、こうした実践運動の展開の諸事例に基づいて「もう一つの発展」のあり方、理論を形成していこうという試みが、ここで述べる内発的発展論なのです。
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内発的発展は、目標において人類共通のものです。しかし、その目標を達成する手段は、それぞれの社会の現実に立脚したものであり、当然、多様性に富んだものとなるでしょう。すなわち、「そこへ至る経緯と、目標を実現する社会の姿と、人々の暮らしの流儀とは、それぞれの地域の人々および集団が、固有の自然生態系に適合し、文化遺産(伝統)に基づいて、外来の知識・技術・制度などを照合しつつ、自律的に創出する」のです。
このように、内発的発展の手法においては、「伝統の再創造」という要素が重視されます。言い換えれば、内発的発展の指向する「問題解決」の糸口は、地域住民の積み重ねてきた文化遺産(伝統)を現在に作り替えて使うことに見出せるのではないでしょうか。これについて、鶴見氏は、「伝統」を次の3つの型に区分して説明しています。
@意識構造の型(世代から世代へと継承されてきた、考え、信仰、価値観など)
A社会関係の型(家族、村落、都市、村と町との関係の構造など)
B技術の型(衣・食・住に必要なものを生産する技術)
すなわち、これらの「伝統」をそのまま用いるのではなく、古いものを新しい環境に照らし合わせてつくりかえ、それによって多様な発展の経路を切り拓いていくことこそ、ここでいう「伝統の再創造」といえるでしょう。
地域産業の機能低下という問題を解決する手段として、地域の産業構造の根底に存在する様々な伝統の要素に着目し、それに新しい知識や技術を主体的に導入することによって、それらを現代的ニーズに合わせた形態に作り替え、なおかつそれを活用することで「機能の再生」を図ろうとするものです。また、この地域産業における伝統の要素とは、例えば、自然生態系との共生といった価値観(意識構造の型)であったり、伝統的な村落の相互依存関係(社会関係の型)であったり、既存の地域産業における伝統的な生産技術(技術の型)という場合もあります。清成忠男氏は、このような産業再編の過程を「地域資源活用型産業の現代的な形態での再生」という表現で捉えており、その具体的な展開方法として次の5つを挙げています。
@移入代替(他地域から移入している財で、地域の資源を活用して生産できるものは域内生産に切り換えていく)
A移出代替(素材のまま移出している財は、可能な限り加工度を高めてから移出する)
B移出財の再移入の阻止(域外に移出した財が付加価値をつけて再移入されることを防ぐため、域内循環システムを形成する)
C既存産業の活性化(もともと地元に存在していた産業を、既に蓄積されている技術や技能を利用する「中間技術」を活用し、現代のニーズに合わせて、再組織化する)
D新産業の創出(地元の資源や労働力を生かして、新しい産業を起こす)
以上の5つが、地域資源活用型産業を現代的な形態で再生するための具体的な展開手法ですが、西川潤氏は、これに流通の側面から、さらにもう1段階付加しています。
E新しい内外の流通ネットワークの形成(直販、生産者・消費者提携、地域・団体間販売等)
これら諸点を総括すれば、「伝統の再創造」とは、地域の資源・伝統の現代的再生による「地域内産業連関の高度化」ということができるでしょう。そして、まさにこの要素こそが、後述する内発的産業形成の方法論的側面の中核を構成するものとなるのです。
これまでに挙げた「内発性」にしろ、「伝統の再創造」にしろ、それを担う主体を離れては考えられません。したがって、内発的発展の過程においては、先に見た地域の伝統の中に「困難な問題を解く鍵」を発見し、旧いものを新しい環境に照らし合わせて作り替える「キーパースン」の役割が決定的に重要といえます。このキーパースンは「発想的キーパースン」と「実践的キーパースン」とに分類することができ、このキーパースンが「地域の小伝統の中に、現在人類が直面している困難な問題を解く鍵を発見し、旧いものを新しい環境に照らし合わせてつくりかえ、そうすることによって、多様な発展の経路をきり拓く」とし、何よりもその主体は「地域の小さき民」であることを強調しているのです。
そこで特に注目したいのが、「漂泊者」あるいは「一時漂泊者」の役割です。前項でも触れたように、内発的発展における手法の中核をなすのが「伝統の再創造」ですが、これを推進していくためには、「外来の知識・技術・制度などを照合」することが極めて重要となります。「漂泊者」は「定住者」に、そうした異質な情報、価値、思想等を伝播し、また定住者は、定住地を離れて「一時漂泊者」となることによって、異質な文化に出会い、それを再び定住地に伝達する役割を果たします。そのような定住者と漂泊者と一時漂泊者との相互作用は、伝統の再創造プロセスの推進力であり、同時にそれは「内発性」の契機としても不可欠な要素なのではないでしょうか。
そのような認識に立つならば、内発的発展過程における外部の人材の導入、あるいは外部の知識・技術・情報等との接触が、具体的にどのような形で行われ、どのような機能を果たすかが、重要な着眼点の1つとなってくるでしょう。
内発的発展論では、「地域」を分析の単位としています。なぜなら、先述したように内発的発展の主体は、問題に直面した「地域の人々および集団」であり、その問題解決の手法は「それぞれの地域固有の自然生態系に適合し、地域の文化遺産(伝統)に基づいて、外来の知識・技術・制度などを照合しつつ、自律的に創出」することにあるからです。
ただこの「地域」の単位は一義的なものではなく、「自然生態系」の要素に着目したエコロジカルユニットとしての「地域」や、「地域住民の自律性」の観点から、村落共同体(コミュニティ)を単位としてとらえた「地域」など様々な捉え方があります。
このように、「地域」の概念を固定化するのではなく、様々な要素に基づいた各種レベルの地域が重層的に存在すると考えなければなりません。そうした多様な「地域」の概念を明確化していくことこそ、地域振興の理念を形成する上での重要なポイントとなるでしょう。
以上の4つが、内発的発展における主要なキーファクターと言えますが、これらを踏まえた上で、当該発展理論を定式化するならば、以下の3点にまとめることができるでしょう。
第一に、内発的発展における地域とは、自然環境や自然資源、生活環境、生産環境、産業構造等の要素を元に、それらが重層的なまとまりを見せる区域を一つのベースとして捉え、その環境・生態系の保全及び社会の維持可能な発展を政策の枠組みとしつつ、人権の擁護、人間の発達、生活の質的向上を図る総合的な地域発展を目標とする。
第二に、地域にある資源、技術、産業、人材、文化、ネットワークなどのハードとソフトの資源を見直し、これを活用、あるいは現在の環境に照らし合わせて新たなものに作り替えて活用する。また、地域経済振興においては、複合経済と多種の職業構成を重視し、域内産業連関を拡充する発展方式を基本とする。ただし、地域経済は閉鎖体系ではないため、いわゆる「地域主義」に閉じこもるのではなく、経済力の集中・集積する都市との連携、流通やその活用を図り、場合によっては必要な規制と誘導を行う。国家の支援措置については、地域の自律的意思により活用を図る。
第三に、地域の自律的な意思に基づく政策形成を行う。住民参加、分権と住民自治の徹底による地方自治の確立を重視する。同時に、地域の実態にあった事業実施主体の形成を図る。また、地域が閉鎖的になるのではなく、積極的に外部の人材の導入、あるいは外部の知識・技術・情報等との接触を図ることで、多様な発展経路を模索する。
このことからもわかるように、内発的発展とは、先の一村一品運動や地域特産品開発などに見られた「狭義」の「限定された」内発的発展ではなく、「地域自体が発展・展開していくような発展政策」をその内容としているのです。そしてそのためには、もう一度地域を見つめ直し、現存する地域資源等をどう活用すればよいのかといった明確なグランドデザインを地域住民が主体的に創出、さらにはそこに掲げた目標に向かって鋭意努力することが必要となります。また、地域産業開発にあたっては、特定の業種に限定せず、複雑な産業分野にわたるようにして、付加価値があらゆる段階で地元に帰着するような地域産業連関を形成することが重要となるでしょう。しかもそれは環境保全をも考慮した「持続可能な開発」でなければなりません。
また、この過程で重要となってくるのが「地域グランドデザイン」の描き方です。地域が経済的に自立するためには、当該地域の産業活動によって、住民の生活を賄うに足る付加価値(=所得)が創出されることが前提条件となりますが、内発的産業形成においても、当該地域の資源・伝統を活用し、産業構造の再編・強化を図ることで、その産み出す付加価値を増大させることに主眼が置かれています。
しかし、過疎地域のように運営資金や人材等において制約条件が他地域よりも厳しい地域においては、新たに起こすことのできる事業の規模には自ずと限界があることもまた事実です。それゆえ、内発的産業形成の過程においては、そうした中核となる事業の成果、すなわち単独事業のみの付加価値産出量を重視するのではなく、むしろ当該事業を契機として、地域内産業に様々な連関効果をもたらし、地域産業構造全体の付加価値産出量が増大することを目標としなければなりません。
したがって、立地条件に恵まれない農山村においては特に、地域内産業循環のあらゆる段階で付加価値が生み出されるような産業構造を構築していく必要があります。その意味からも、より「完成度の高いグランドデザイン」が必要となってくるでしょう。内発的発展のためには先の一村一品運動のような単品としての事業ではなく、1つの事業(中核事業)から他の事業へと発展・展開するような事業の連関性が必要であり、そのためには、地域発展のためのしっかりとしたグランドデザイン、すなわち当該地域の将来像が明確にされ、その実現過程の中に全体計画を頂点とする個別事業計画とその実践手法が明確に位置付けられていることが重要なのです。
参考 地域活性化入門 過疎問題総合研究所

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