肝入ハ、當時、特ニ村民ヲ集メテ五倫五常ノ道ヲ説キ聞カスベクナリ居リシガ如クナレドモ、其ノ方法ハ、本村等ニアリテハ、余リヨク行ハレ居ラザリシガ如シ。然レドモ、毎年二回位ハ、村民ヲ自宅又ハ最寄リニ集メテ訓戒ヲ施シタルカノ形跡アリ。當時ハ、肝入ノ権力、実ニ素晴ラシキモノニテ、到底今日ノ村長ノ及ブ所ニアラズ。故ニ一度召集ヲ発スレバ、大半集合シ来リシハ、美風ト云フベシ。
サレバ、其ノ肝入ノ人格如何ニヨリ、講義ノ巧拙ニヨリテハ、其ノ効果モ又從ッテ大ナルモノアリシナリ。當時、講釋ノ一例ヲ示スタメ、或ル肝入ノ手控ヘトシタルモノヲ掲ゲ参考ニ供スベシ。
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御誓文御定三箇條之和解
一、人たるもの五倫の道を正しくすべき事
此の御趣意は、
すべて人に生れたる者は貴きも賤しきも五倫の道とて天地の開け初めしより五ツの本筋の道自然そなわりて有り。是をよく守を正くぞと云ひをくための条々なり。
一、親子の中には天地に備りたるしたしみのあるものなり。常に此のしたしみをうしなはぬやうに子は親に孝行を盡し親は子をいつくしむべきなり、とあり。
一、主人と家来との間には自然に程よく義理筋合のあるものなり。
その筋合を取違はぬやうに家来は主人に忠義を盡し、主人は家来になさけを懸け無理非道のなきよういたすべきなり、という。
一、夫婦の中には親しみ和ぶ中にもおのづとわかぢのあるべきことなり。
いかにといえば夫婦となれば情欲におぼれ親兄弟よりも正しくなりて親兄弟にいはれぬ事も妻にはもらす事もあればしたしみになれで、遂に一家の内に住べき物おさまらぬように成者あり是をよくよく心に懸けてわかじの不失様にすべしとあり。
一、先に生まれたる兄を長と云後に生まれたる弟を幼と云其の長幼の後先のついでを失わずに長は弟をよくよく取回し弟はよくしたしみて兄に從ひ互になかよくすべしとあり。
一、鰥寡孤獨廃疾の者を憫むべきこと
この御趣意は
老年にて妻のなきものを鰥と云、老年にて夫のなきものを寡と云、幼くして父母のなきものを孤と云年寄りて子供のなきものを獨と云、又病気にてからだの役にたたぬ様になりたるもの足ない、手折れ、或はめくら、かたわの類すべて体の不都合なるものを廃疾と云、此の五つの者は天下の困窮者にて父母、妻子、誰へも世話を頼る所もなし。誠にもこき物なれば、一つ心を深く不便をくわへ物をあたえる様にすべしとあり。
一、人を殺し家を焼き財宝を盗む等の悪行あるまじき事
この御趣意は
人をむざと殺したり、人の家に火を付けたり又は人家に押入りて金銀財宝を盗取る様なあしき業はいたしまじき。只々それぞれの本業励みて善事を行うべしとあり。
右條々、戸毎末々迄、遵奉候様説諭せしむべきもの也。此ノ外、藩ヨリ新ニ御布令ノ出ヅル時ハ戸毎人民ヲ集メテ講釈シ聞カセシモノナリ

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