前回の書き込み
(“【世界経済のゆくえ】「近代経済システム」における利潤と経済成長の源泉”)で“対外的通貨価値”の変動に関する抽象的な論理を書いたが、現実の「ドル安・円高」傾向などとの関係で不分明なところもあったと思われるので、【世界経済の認識基礎】という共通タイトルに変更し、国民経済間の相対的通貨価値=為替レートの変動に絞って説明を加えたい。
[対外通貨価値に関する基本]
● 対外的通貨価値は、基本的に、頻繁にかつ大量に取り引きされる国際商品の生産性によって規定される。
(原油・鉱物資源・近代工業の生産財・繊維製品から家電や自動車までの耐久個人消費財の生産性が対外的通貨価値の主要規定要因)
● これは、対外的通貨価値が輸出入の主要対象品目になっている財の“労働価値”によって規定されていることを意味する。
(“労働価値”は、平均的品質の自動車1台を生産するために要する平均労働量と考えて欲しい)
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【世界経済の認識基礎】
対外的通貨価値の変動 《「円高」をどう考えるか》 投稿者 あっしら 日時 2002 年 6 月 25 日
● 「円高」傾向は、日本の主要輸出企業が競争関係にある外国企業との比較で生産性を上昇させていることの現れである。
● 現実の世界経済では、国際基軸通貨である米ドルが国際商品の価格基準になっており、各国の通貨は米ドルを基軸として価値変動が捉えられる。
(“鏡”が米ドルなので、米ドル自身がどのような通貨価値を持っているかは見えにくい)
● 現実の為替レート変動は、「経常収支」(貿易収支・サービス収支・金融収益収支の合計)の影響を受けるのみならず、国際性を有する通貨が“商品”になっている現状から、外国為替取引における需給関係が“対外的通貨価値”を変動させる大きな要因になっている。
● 各国の通貨発券銀行である中央銀行は、自国経済主体がスムーズな国際取引が行われるよう、米国を中心に国際通貨国の国債(広義)・外貨預金・金といったかたちで“外貨準備”を行っている。
このような基本を前提に説明を続けていきたい。
■ 「ドル安・円高」は日本企業の輸出競争力を低下させなかった
「円高」とは、米ドルが基軸(鏡)になるが英国ポンドやドイツマルク(ユーロ)などの諸国際通貨に対して日本円が価値を上昇させることである。
米ドルがユーロに対しても日本円に対しても価値を下げているときは、「円高」ではなく「ドル安」と表現されるべきである。
戦後に固定為替レート1ドル=360円が決められるとき(それ以前は産業別に為替レートが異なっていた。円だから360という半分冗談のような理由で円安気味の固定レートが設定された)からと言うこともできるが、71年の“ニクソンショック”、85年の「プラザ合意」、94年前後の「超円高」、そして、昨今のドル安(円高)傾向に対する政府(経済界)やメディアの反応を受け止める限り、「円高」は、日本経済にとって好ましからざる経済事象と考えられていると言えるだろう。
確かに、繊維製品や洋食器を生産している企業などは、「円高・ドル安」によって、輸出量を減少させたり利益を減少させるなど大きな打撃を受ける。
(1000円の商品を10ドルで輸出していたものが、円高・ドル安になれば、ドル表示で12ドルといった値上げをして輸出しないと円ベースで1000円という売上高を確保できない。コストは円ベースなので、ドル建て価格を円高変動分値上げできなければ、採算割れになったりする。同じ品質の商品を輸出している国の通貨価値が変動しないままであれば、12ドルに値上げすることで輸出できる量が減少することになる)
しかし、「円高」は、個々の経済主体ではなく国民経済レベルで考えれば、打撃と言えない経済事象である。
「円高」が国民経済レベルで打撃になるのは、政府が「円高」の本質を理解せず、「円高」を活用しないで誤った経済政策を採ったときである。
言葉(論理)で説明してもわかりにくいので、統計データで歴史的経緯を確認してもらいたい。
《日本の輸出入と為替レート》
1958年(昭和33年)から2000年(平成12年)の輸出入と為替レートを中心とした経済統計データである。
統計データを見るにあたっては、大きな時代区分として、「高度成長期」(〜70年)・「世界経済変動期」(71年〜80年)・「成熟経済期」(81年〜91年)・「長期不況期」(92年〜)ということを念頭においてもらうといいだろう。
「バブル崩壊」は、89年末から90年にかけて始まった。
輸出 輸入 差額 為替 成長率 CPI 家計 失業 出比 入比
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58年 1,036 1,092 -56 359.70 7.3 2.1 9.0 9.5
59年 1,244 1,296 -52 359.20 9.3 1.1 6.4 2.2 9.4 9.8
60年 1,460 1,617 -157 358,30 13.3 3.9 10.9 1.7 9.1 10.1
61年 1,525 2,092 -567 361.77 11.9 4.8 10.4 1.4 7.9 10.8
62年 1,770 2,029 -259 358.20 8.6 7.1 12.6 1.3 8.1 9.2
63年 1,963 2,425 -462 361.95 8.8 7.6 4.9 1.3 7.8 9.7
64年 2,402 2,858 -456 358.30 11.2 3.5 12.0 1.1 8.1 9.7
65年 3,043 2,941 102 360.90 5.7 6.4 9.1 1.2 9.3 8.9
66年 3,520 3,428 92 362.47 10.2 4.1 9.5 1.3 9.2 9.0
67年 3,759 4,199 -440 361.91 11.1 4.3 10.3 1.2 8.4 9.4
68年 4,670 4,675 -5 357.70 11.9 4.1 11.3 1.1 8.8 8.8
69年 5,756 5,408 348 357.80 12.0 4.6 11.5 1.1 9.2 8.7
70年 6,954 6,797 157 357.65 10.3 7.3 15.6 1.1 9.5 9.3
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71年 8,393 6,910 1,483 314.75 4.4 6.5 10.3 1.2 10.4 8.6
72年 8,806 7,229 1,577 301.10 8.4 4.7 11.3 1.4 9.5 7.8
73年 10,031 10,404 -373 280.00 8.0 11.7 19.7 1.3 8.9 9.2
74年 16,208 18,076 -1.868 300.91 -1.2 23.4 24.1 1.4 12.0 13.5
75年 16,545 17,170 -625 305.15 3.1 11.5 14.8 1.9 11.2 11.6
76年 19,935 19,229 706 293.00 4.0 9.6 9.4 2.0 11.6 11.5
77年 21,648 19,132 2,516 240.00 4.4 8.1 10.8 2.0 11.7 10.3
78年 20,556 16,728 3,828 195.10 5.3 4.3 6.5 2.2 10.0 8.2
79年 22,532 24,245 -1,713 239.90 5.5 3.7 7.0 2.1 10.2 10.9
80年 29,382 31,995 -2,613 203.60 2.8 7.8 7.3 2.0 12.1 13.1
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81年 33,469 31,464 2,005 220.25 2.8 4.8 5.0 2.2 12.8 12.1
82年 34,433 32,656 1,777 235.30 3.1 2.9 7.1 2.4 12.6 11.9
83年 34,909 30,015 4,894 232.00 2.3 1.8 3.2 2.6 12.2 10.5
84年 40,325 32,231 8,094 251.58 3.8 2.3 4.6 2.7 13.2 10.6
85年 41,956 31,085 10,871 200.60 4.4 2.0 4.9 2.6 12.9 9.5
86年 35,290 21,551 13,739 160.10 3.0 0.7 1.8 2.8 10.3 6.3
87年 33,315 21,737 11,578 122.00 4.5 0.0 1.7 2.8 9.4 6.1
88年 33,929 24,006 9,923 125.90 6.5 0.7 4.5 2.5 8.9 6.3
89年 37,823 28,979 8,844 143.40 5.3 2.4 3.0 2.3 9.2 7.1
90年 41,457 33,855 7,602 135.40 5.3 3.1 5.2 2.1 9.4 7.7
91年 42,360 31,900 10,460 125.25 3.1 3.2 5.2 2.1 9.0 6.8
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92年 43,012 29,527 13,485 124.65 0.9 1.7 2.7 2.2 8.9 6.1
93年 40,202 26,826 13,376 111.89 0.4 1.3 1.2 2.5 8.3 5.5
94年 40,498 28,104 12,394 99.83 1.0 0.7 -0.6 2.9 8.2 5.7
95年 41,531 31,549 9,982 102.91 2.5 -0.1 0.6 3.2 8.3 6.3
96年 44,731 37,993 6,738 115.98 3.4 0.1 1.5 3.4 8.8 7.4
97年 50,938 40,936 10,002 120.92 0.3 1.8 2.7 3.4 9.8 7.8
98年 50,654 36,654 14,000 115.20 -0.8 0.6 -1.1 4.1 9.8 7.1
99年 47,548 35,268 12,250 102.08 0.8 -0.3 -2.4 4.7 9.3 6.9
00年 51,654 40,938 10,716 114.90 1.7 -0.7 -2.4 4.7 10.1 8.0
※ 「輸出」・「輸入」・「差額」の単位は10億円。「為替レート」は対米ドル表示で円単位。その他の項目の単位は%。
「差額」は貿易収支に相当するもので−は赤字。「成長率」はGDPの実質経済成長率。「CPI」は消費物価指数の対前年比。「家計」は勤労者家計の実収入の対前年比。「失業率」は完全失業率。「出比」及び「入比」は名目GDPに対する輸出及び輸入の比率。
上記データを見ると、71年の“ニクソンショック”と85年の「プラザ合意」という大きな「ドル安(円高)」に見舞われても、円表示ベースの輸出は減少せず(円高になれば同じドル建て価格で輸出すると手取りの円額は多くなる)、貿易黒字も、減少するどころか大きく増大していることがわかる。
71年は、対前年比で対ドル価値が12%上昇した。
輸出額は20.7%増加し、輸入額は1.7%増加している。
貿易収支の黒字は、前年の9倍以上となり初めて1兆円の大台を超えた。
但し、GDPは、実質で4.4%と前年の10.3%に比較して大きく下落した。“第一次・第二次石油ショック”が大きな影響を与えているが、71年以降、貿易収支の黒字は1兆円台のベースになったとも言える推移である。
85年は、対前年比の対ドル価値が20%上昇した。
輸出額は4.0%増加し、輸入額は3.6%減少している。
貿易収支の黒字は、対前年比で34.3%増大している。
GDPは、実質で4.4%と前年の3.8%に比較してわずだが上昇した。
貿易収支の黒字は、85年から現在に至るまで、10兆円前後をベースとして推移している。
どちらも「円高」という経済事象ではなく「ドル安」であった。
そして、そのような変動が起きても、貿易収支の黒字幅は大きく拡大している。
71年と85年の「ドル安(円高)」で見られる違いは、71年はドル表示ベースでも輸出が増加しているが、85年はドル表示ベースでは輸出が減少しているということである。
93年から95年は、日本円がどの国際通貨に対しても価値を上昇させるという「円高期」であった。
さすがに、この時期は、円表示ベースの輸出額を減少させ、貿易収支の黒字も減少させている。
その要因が、“貿易摩擦”を受けて80年代後半から顕著になった生産拠点の海外移転を加速させたためなのか、為替レートが持っている国際競争力調整機能によるものかどうかは即断できない。
このように、統計データを見る限り、「円高・ドル安」が日本経済(企業)の輸出競争力を低下させるとは判断できないのである。
7/2/23

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