「円高」が日本企業の輸出競争力を低下させなかった理由:対外的通貨価値の変動 中」
世界経済を認識する基礎
■ 「円高」が日本企業の輸出競争力を低下させなかった理由
71年と85年という「ドル安変動」と94年前後の「円高変動」の経済状況的差異は、71年や85年は好況とは言わないまでもそこそこの経済成長を達成し、完全失業率も71年1.2%・85年2.6%であり、勤労者家計実収入の対前年比も71年10.3%・85年4.9%であったのに対し、94年は、完全失業率が2.9%で、勤労者家計実収入の対前年比もマイナス0.6%と58年以降初めてマイナスを記録している。
もう一つ、消費者物価指数の対前年比を見ると、71年6.5%・85年2.5%であるのに対し、94年は0.7%である。
「円高」になれば円ベースの輸入物価が下落するので、同一の生産条件で財が生産されていれば、消費者物価指数も下落するはずである。
しかし、71年や85年は、その後の年度も含めて消費者物価は上昇している。そして、94年の場合は、翌95年に、マイナス0.1%と58年以降初めて消費者物価が下落した。
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71年と85年の円高時期は、円高で原材料費などのコストが下がるという恩恵を受けながらも、輸出企業は、輸出競争力を維持するため、国内販売価格を引き上げた。
国内販売価格の引き上げが可能だったのは、勤労者家計の実収入増加に代表されるように、消費財に対する総需要が増大したからである。
71年以降であれば、食糧といった基礎的消費財はほぼ満たされている生活水準にあったから、収入(可処分所得)の増加は、利便的消費財・奢侈的消費財・快楽享受サービスもしくは貯蓄にまわったものと推測できる。
輸出企業は、国内市場で利益を確保し、輸出市場で生産量(生産性)を確保したとも言える。
これは、日本人は自分たちが造ったものを高く買い、外国人は日本人が造ったものを日本人より安く買うという構図である。これが、よく言われる“内外価格差”の一因でもある。
為替レートの変動により国際競争力が調整されるという「国際交易理論」は、そのような動きで対応した日本経済(企業)には通用しなかったのである。
そして、94年以降に本格化した「長期不況」と「デフレ不況」は、71年や85年に採った“内外差別価格政策”が採れないことにより生じ、それが長期化しているという見方もできる。
“内外差別価格政策”が採れないことから、輸出企業は、コストを削減して利益を確保するための手法として、生産拠点の海外移転推進策を採った。
さらに、国内流通業までが、不況下で価格下落圧力を受けて、販売商品の海外調達に走った。
これらの動きが失業者の増加を招いたことで、日本経済の総需要をさらに減少させ、それが物価下落圧力をさらに高め、またまた失業者を増加させるという悪循環を生み出したのである。
個別経済主体が“合理的”な行動をすることで、日本経済総体を悪化させ、“合理的”な行動をとった個別経済主体も悪化するという“総合の誤謬”の生きた標本をもたらしたのである。
輸出比率が100%に近い企業であれば“総合の誤謬”から自分だけ逃れることもできるが、国内市場の比率が高くなればなるほど、“総合の誤謬”にはまることになる。
71年や85年の「円高・ドル安」に対して“内外差別価格政策”が採れた要因は、実収入の増加だけではない。
71年はともかく85年という段階であれば、日本は、農産物を除き、世界一の“自由貿易”政策を採っていた。
(商取引慣行などの非貿易障壁を言い立てれば、米国は、農産物や軍事物資を政府が輸入を働きかけ、英語を使用し、電灯線電圧が違い、右側通行で....などと“泥試合”になる。歴史過程や価値観が異なるものの取引が貿易である)
輸出企業が“内外差別価格政策”が採れた最大の要因は、外国企業に競争者がいなかったことである。
家電や自動車をはじめ日本の輸出依存企業を脅かす競争企業が外国に存在していれば、日本市場を防衛するため、“内外差別価格政策”を採ることはできなかったはずである。
家電製品ではほぼ世界を制覇し、自動車についても、高級車のドイツ製や“特殊米国人好み”の米国製とは棲み分けをしている状況では、輸出製品(仕様は少し異なるが)を日本市場で少々高く販売しても、シェアが奪われるという心配はなかった。
それを示す別の“証拠”は、日本の主要輸出対象国である米国が、85年の「プラザ合意」で大きなドル安(対円で40%)が実現された後も貿易収支の赤字幅を拡大していったたことである。
これは、米国経済は、日本の輸出製品において、対日競争力を根源的に失っていることを示している。
生産していないものは輸出できないし、鉄鋼など軍需で維持されている中間財も輸出競争力に乏しい。軍需で成長してきたコンピュータ関連や航空機が民間需要でも競争力を維持しているだけといった状況に近いものになっていたのである。
7/2/23

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