米国経済の国際的機能 から続きます。
■ 米国経済にとっての「ドル安」の意義
このところ「ドル安」の動きが強まっている。
「ドル安」は、一般的に、米国の国際競争力を高め、貿易収支の赤字減少をもたらし、それを通じて経常収支の赤字を減少させると考えられている。
ブッシュ政権も、「ドル安」傾向を放置し、米国の産業基盤を強化するものと歓迎の姿勢を示している。
大きな国際的経済変動がないなかで起きている今回の「ドル安」傾向が、何らかの目的で進んでいることは間違いないが、米国企業の国際競争力を高め米国の産業基盤を強化する目的で進められているとは考えられない。
71年の兌換停止を契機にした「ドル安」傾向でも、政治的な力まで行使して進められた85年の「プラザ合意」後の「ドル安」傾向でも、米国企業の国際競争力が高まることはなかったし、米国の産業基盤も強化されなかったからである。
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71年の「ドル安」は、米国の国際競争力を高める意図として進められたと考えている。
しかし、日本及び西ドイツとの国際競争力格差は縮まるどころか広がっていった。
85年の「ドル安」は、ドル資産ベース経済主体の対外投資効率を高めるとともに、米国(政府及び経済主体)の対外債務を軽減するために実施されたと考えている。
米ドルが日本円に対して40%減価すれば、日本に対するドル建て債務を40%切り捨てたのと同じ効果が得られる。
1億ドルの対米債権を保有している経済主体は、1ドル=100円であれば、日本円評価で100億円の債権を持っていることになるが、40%の「ドル安」である1ドル=60円になれば、60億円の債権価値しかないことになる。
しかし、この「作戦」は、既存債務に対しては効果があるが、新規債務や債務の減少にはつながらないものである。
なぜなら、産業基盤そのものが空洞化している米国が国際競争力を回復する度合いは低い一方で、輸入物価が上昇する影響度のほうが高く、貿易収支の赤字も拡大し、財政赤字も増大するからである。
(米国市場をあてにしている企業は、「ドル安」になったからといっても販売量を減らしたくないので、ドル安比率と同じ比率でドル建て価格を上げないので、インフレと貿易赤字拡大はそこそこ抑制される)
これは、「プラザ合意」後の貿易収支の赤字拡大と財政赤字の増大で実証されている。
今回の「ドル安」がどのような意図で進められているか今のところ不明だが、米国経済主体の対外投資効率のサポートや“既存債務の切り捨て”の可能性があると考えている。
6兆ドル(720兆円)の政府債務のうち50%の3兆ドル(360兆円)が対外債務だとして、20%の「ドル安」になれば、6千億ドル(72兆円)の債務切り捨てになる。
「プラザ合意」後の推移で、「ドル安」効果が過去の債務に対してしか働かず、さらに債務が拡大していった歴史的現実を知っているはずだから、“債務切り捨て”が目的だとすれば、政府債務の上限に到達しながら上限の引き上げが議会に承認されないという状況で採った窮余の策なのかもしれない。
米国政権は、ある時期から、「債務国家」としての道を邁進する決意を固めたと思っている。
81年に誕生したレーガン政権が採った“ドル高政策”は、金融資本的収穫をサポートし、米国が「債務国家」として生きていく決意の現れだと考えている。
ペーパーマネーでしかないドルの価値をできるだけ高くすることで、金融資本を中心とした米国経済主体の対外投資を有利にすると共に、輸入物価を低く抑える条件を手に入れた。
「ドル高」とレーガン政権が採った経済政策がシンクロして進むことで、対外直接投資(製造拠点の外国への移転を含む)や対外証券投資が膨らみ、貿易収支赤字も増大していった。
(それまで米国内で生産されていたものがメキシコなどで生産されるようになれば、その分だけでも輸入が増加する)
個別産業資本の論理として、土地も労働力も安い国に製造拠点を移し、輸入条件が良くなった自国市場に輸出するというのは理に叶っている。
ドルベース経済主体は、欧州やアジアの企業を相対的に少ない金額で買収することができる。株式などの証券投資も世界各地で有利に行える。
そして、85年に「プラザ合意」が実施された。(各国が「ドル売り自国通貨買い」の介入を行った)
「ドル安」になることで、外国で所有している資産評価はドル建てで上昇することになる。
40%の「ドル安」であれば、100億円=1億ドルの資産が、100億円=1億4千万ドルとして評価されるようになる。
そこで生産される製品も、100万円=1万ドルの手取りであったものが、100万円=1万4千ドルの手取りになる。
(無競争に近いことで値上げしても確実に同じ量を米国に輸出できるという条件だが)
株式投資の場合は、100億円で買った株が120億円に値を上げていれば、1億ドルの投資が2億ドルになって戻ってくることになる。
(日本円ベースでは20%の利益だが、ドルベースでは100%の利益になる)
為替投機であれば、1日で大きな利益を手に入れることができる。
一日で為替レートが5%変動すれば、年率1,825%の利益を上げることができる。
このように、「ドル高」と「ドル安」が予めわかっていれば、その変動を利用するだけで、ドルベースの資産を大きくできるのである。
「バブル崩壊過程」の93年から95年にかけて起きた「超円高・ドル安」の背景も窺い知ることができるだろう。
今回の「ドル安」の動きは、果たして何が目的なのであろうか。
■ 米国の国際収支と政府債務
米国の経済覇権が維持されるためには、経常赤字を増大させても輸入を継続し、なおかつ、米ドルの信認性を保持しなければならない。(財政赤字も輸入下支え効果がある)
2000年ベースの米国の国際収支は以下の通りである。
経常収支 経常収支内訳 資本収支
貿易サービス 所得
==========================================================
米国 −4,446 −3,757 −147 4,442
日本 1,168 690 576 −313
この年の米国経済の貿易依存度は、輸出依存度が10.5%で、輸入依存度が12.7%である。(日本は、輸出依存度:10.1%、輸入依存度:8.0%)
経常収支赤字の85%は貿易サービス収支の赤字で占められている。
所得収支の赤字は、米国債の対外利息支払い額(推定1,500億ドル)未満だから、民間経済主体は1,000億ドル(約12兆円)を超える黒字であると推測できる。
際だっているのは、経常収支の赤字額に匹敵する資本収支の圧倒的な黒字額である。
経常収支の赤字額と資本収支の黒字額がほぼ同額であるということは、米国国民経済の貯蓄率がほぼ0%であることを意味する。
このような国際収支状況から、米国は、資本収支の黒字額である4,400億ドル(約52兆円)のドル還流が維持されなければ、財政のみならず国民経済そのものが維持できないことがわかる。
米国債購入に向けられる還流資金は1,500億ドル(約18兆円)未満と推定されるので、3,000億ドル相当は、株式投資・債券投資・直接投資などのかたちで民間経済活動に流れ込んだはずである。
米国が基本的に「ドル高・高金利政策」を採る背景は、このような国際収支状況である。
「ドル安傾向」が続けば、対米金融投資はドル建てで少々の利回りがあっても、円ベースでは損失になる。
(10%の利回りでも、10%超の「円高」になれば、損をする)
他の先進諸国よりも金利が低ければ、国際資金はより金利が高い国に向け流れる。
もう一つ重要な問題は、株式市場の動向である。
対米株式投資は、外国経済主体が、米国経済主体と株式を媒介とした経済取引を行うことである。外国経済主体が株式を買えば、ドルが米国経済主体に移転し、外国経済主体が株式を売れば、ドルが外国経済主体に移転する。
株式は株式市場では価値があるが、株式そのもので経済活動を行うことはできない。
株式を売却したり、株式を担保に借り入れを行ったり、配当金を受け取ることで、経済活動にはじめて充当することができる。
93年から米国株式市場は値上がりを続け、ピークの99年には93年の3倍に達した。
この間に、「米国の繁栄」に乗っかって株式値上がり益を狙う外国経済主体の資金が大量に流入した。
これは、その過程で、米国経済主体が、株式をドルに転換したことを意味する。
「株価の値上がり状況」は、それが顕著であればあるほど、現金を株式に転換して将来の売却益を狙う行動を加速する。
そして、2000年3月にナスダックの「ITバブル」が崩壊し、2001年4月にはNY株式市場が値下げ基調に転じた。
米国の株式市場は値下げ基調に転じたというより、ナスダックでは崩壊(1/6以下)の様相を見せた。
「株価の値下がり状況」は、それが顕著であればあるほど、株式をできるだけ早く現金に転換して損失を少なくしようとする行動を促進する。
「株安」に「ドル安」に加われば、その行動に拍車をかけることになる。
最近の「株安」・「ドル安」・「低金利」という動きは、そろいも揃って、ドルが他の通貨に向けられる要因である。
そして、「株安」と「ドル安」は、相互連関的にその動きを加速する。
米国当局がこの動きを押しとどめて他の通貨資産をドルに向けさせたいと考えるのなら、「高金利」と「ドル高」の政策を採ることはできる。
FRBが政策金利を引き上げれば、株式にではなくとも債券に向けてドルがより還流するようになる。
ブッシュ政権が「ドル高」追求姿勢を見せれば、日本当局の口先介入とは違って、「ドル安」の流れは反転する可能性が高い。
貿易に伴う決済や証券投資の決済に伴うドル為替の売買額とは比較できないほどの資金が外国為替市場に注ぎ込まれているのだから、投機資金の思惑が短期的な為替レートの動向を左右する。
(長期的には、それぞれの通貨の国際的裏付けである国際商品の労働価値(生産性)の比較にふさわしいものに収斂する)
米国の政府債務は、6兆ドル(約720兆円)にまで積み上がっている。今年度の財政赤字は1,500億ドル(約18兆円)と予測されている。
6兆ドルという政府債務は、利払いだけで最低でも3,000億ドル(約36兆円)に達する。
そして、その半分である1,500億ドル(約18兆円)以上は外国経済主体に流出する。
「ドル安ユーロ高」傾向のなかで、それらが、ユーロよりも金利が低いドル金融商品にとどまる割合は極端に低いはずである。
これは、財政赤字を埋めるための新規発行国債や借換国債に向けられる資金が減少することを意味する。
ドルが還流するルートは、経常収支黒字国の中央銀行が新たに積み上げる外貨準備に絞り込まれていくことになる。それが、米国債の支えになる。
現在進んでいる経済事象は、93年から99年まで続いた経済事象の裏返しである。
7/9/1
W.ブッシュ政権の“覚悟” に続きます。

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