その1からの続きです
● 公的年金制度の破綻は日本経済の破綻
公的年金問題は、“高齢化社会”という人口構成変動に起因するのではなく、労働成果財を生産する資本の活動力そのものの問題だから、公的年金制度の破綻は、日本という国民経済そのものの破綻を意味する。
穏やかに言えば、公的年金制度の給付条件切り下げは、国民経済すなわち経済主体の活動力低落をもたらす。
日本には、“高齢化問題”だけではなく、人口の減少という問題も間近に控えている。
出生率の低下により、日本の人口は、2010年前には減少し始めると予測されている。
これは、一人当たりの生活費(消費額)が年間100万円だとすると、10万人減少することで需要が1千億円減少する可能性を示唆している。
幸いなことに存在しない国民の生活を国家が保障する必要はないから、政府支出でこの需要減少を補填することはない。
1千億円の需要減少は、それに相当する輸出増加がない限り、1千億円の供給減少に至る。
人口減少は、資本化される通貨が減少することであるとともに、資本は増加を続けなければならないという“資本の論理”に反する経済状況がだらだらと持続することを意味する。
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だからといって、この問題は、日本も欧米諸国が採っているような移民政策を採用し、人口を増やしていけば乗り切れるというわけではない。
通貨を大量に持っている移民のみで人口が増えるのであれば、居座り続ける外国人観光客が増えたという話になるから国民経済の需要は増加するが、日本で就業しなければすぐに通貨が底を突くという人たちの移住で人口が増えるのであれば、就業機会を与えない限り、政府が社会保障を通じて面倒を見なければならなくなる。
就業したくないと考えられている職種があるとしても、完全失業率が5.4%(350万人の失業者)に達し、潜在失業率は10%とも言われている日本が、政治(人道)的配慮ではなく、経済的思惑で移民を受け入れる必要はない。
3Kなどと言われ就業したくないと思われている職種は、外国人に依存するのではなく、必要な数が就業したくなる水準まで給与額を引き上げるべきである。
日本は、近代産業が達成した飛躍的「労働価値」上昇の成果を近代産業が独り占めにするのではなく、通貨政策と政治的政策を通じて広く国民に分配することで、購買力平価ベースは一般先進国並みであるとしても、一人当たりで3万8千ドルという世界最高水準の所得水準を達成した。
政治的政策の代表が“米価政策”である。これにより、農家と都市勤労者の所得格差を縮めるのみならず、化学工業や農機具メーカーなどの資本増加を実現した。
好まれない職種は、外国人の不法就労ではなく、所得分配政策による賃金水準を引き上げることで解決すべきである。
公的年金問題に戻ると、現在の年金支給額は年間35兆円ほどである。
これからは受給者が増加することから一人当たりの給付額が減少するにしても、支給年金総額そのものは増加していく。
そして、現在の統治者の志向を考えれば、それに対応して、年金負担者(経済主体)の保険料負担率が上昇するため、彼らの可処分所得や利益が減少していくはずである。
「就業者総実収入+年金受給者総実収入」が減少していけば、人口減少と同じように、それを補うほどの輸出増加がない限り、国民経済の総需要は減少していくことになる。
例えば、就業者実収入総和:220兆円と年金給付額総和:35兆円を加算した255兆円が、就業者実収入総和:190兆円と年金給付額総和:55兆円で245兆円になれば、国民経済の総需要は10兆円の減少になる。
説明するまでもないだろうが、ケインズも語っているように、10兆円の需要が減少した状況をそのまま放置すれば、近いうちに供給も10兆円減少することになる。
セイのように、供給が10兆円減少すれば、需要も10兆円減少すると言い換えても基本は同じである。
これは、需要と供給は、一方の減少によりスパイラル的に減少していくことを意味し、事象的には失業者や未就業者が増加していく。
このような経済事象は、国内需要の減少に相当する輸出(国外需要)の増加が実現されたときのみ防止できる。
余剰通貨という資本化されずに眠っている通貨がないという前提であれば、このような需要の減少を補えるのは政府部門だけで、しかも、中央銀行からの直接借り入れで政府支出を増加させなければならないというとんでもない結論に到達する。
しかし、これは、価値が付与されない通貨の増加を意味し、禁断の借り入れにいったん手を染めると財政秩序は弛緩してしまうものだから、インフレ率の高騰を招くことになる。
(余剰通貨が存在し、政府の中央銀行からの直接借り入れがそれと同等であれば、中央銀行からの借り入れを原因としたインフレは生じない。但し、余剰通貨が資本化されるとインフレが昂進することになる)
政府支出を増税で増加させたとしても、経済主体(現役世代)から通貨をより多く政府部門に納めさせることだから、通貨が向かう財の種類が変わるだけで、需要そのものが増加するわけではない。
徴税しなければ預金や債券に向けられる通貨も、正常なら迂回的であっても需要になるものである。
増税分をすべて支出に回したとしても、せいぜい、株式市場に留まるはずだった分がプラスになる程度である。
政府が支出増加を“正規”の借り入れに頼る場合でも、銀行や生保など余剰通貨を保有する経済主体が国債の引き受けをしなくても国内で運用できる経済状況にあり、国債発行でそれを横取りしたものであれば、国民経済の需要は、政府支出が増加したからと言っても増加するわけではない。
(80年代後半のようにバブル形成のために使われた通貨の徴税やそのために貸し出しされたものの横取りであれば有効だが、正常な国民経済であれば、他の経済主体が使うはずの通貨を政府が使うというだけであって総需要が増加するわけではない)
国内ではなく国外で運用している通貨を国債引き受けに転換させた場合は、国民経済の需要増加に資するが、国外で通貨を運用することが日本の輸出を支えているのなら、それが減少することで財の輸出(需要)が減少する可能性がある。
(他の国民経済の輸出が減るだけの場合もある)
国外で運用されている通貨が国外の株式市場で滞留しているものであれば、輸出(需要)減少に与える影響は軽微である。
こうやって考えていけば、近々国民経済で使われる予定のない通貨を政府が徴税するか借り入れしない限り、国民経済レベルの需要を確実に増加させることができないことがわかる。
近々国民経済で使われる予定のない通貨と問えば、大事にタンスにしまい込まれている通貨か、株式市場に滞留している(張り付いている)通貨か、外部国民経済に存在している通貨(非日本円)と言うことになる。
(輸出は、借り入れではなく、財取引による外部国民経済からの通貨流入である)
タンス預金がどれだけあるかわからないが、事情があるのなら、それが徴税されたり国債購入に向かうことはない。(捕捉対象にしない無記名の割引国債で誘うしかない)
また、日本が外国からの通貨流入を多く期待することはできない。
なぜなら、それなりの量の通貨を外国で運用できるのは、個々の経済主体は別として、国民経済レベルで見れば極めて限られた数しかなく、その代表が、これまでのそして現在の日本だからである。
(外国の公的部門は外貨蓄蔵手段として日本国債を購入する程度であり、日本の経常収支の大きさから見てその規模は知れている。日本以外の国民経済のほとんどが通貨不足である。だからこそ、日本国債の外国人保有率が5%程度なのである。もちろん、「国債サイクル」を確実なものにするという財務当局の意向が基本要因なのだが...)
欧米先進諸国は、経常収支が赤字もしくはすれすれで黒字という国民経済がほとんどである。
中国の外貨準備が増加し続けていると言っても、積極的に外資を誘致していることや厖大な失業者(8千万人とも言われる)がいることでわかるように、通貨に余裕があるわけではなく、根源的には通貨不足である。
(外貨準備は、国際収支でもいいが経常収支の黒字で貯まった外貨を米国債などに変えて蓄蔵しているだけで、それに対応する自国通貨は国民経済で既に支払われている)
このようなことから、対外投資の引き揚げによる輸出減少やハイパーインフレを起こさずに日本の需要不足を借り入れによる政府支出で補うためには、それこそ、アラブのオイルマネーに国債を持続的に購入してもらうか、国民が保有しているゴールドバーを外国で売却してもらって、それで得た通貨で超長期の国債を買ってもらうしかないことになる。
(国内で金を売却したのなら、ゴールドバーの保有者と預金等の保有者が入れ替わっただけになるので意味がない。株式を外国人投資家に売却するかたちでもいいが、度が過ぎると、経済主体の支配権を失いより酷い経済状況になる可能性もある)
ごちゃごちゃと書いてきたのは、公的年金問題(及び人口減少問題)が、年金支給条件の切り下げや年金保険料の単純な負担増という次元では対応できないことを明らかにしたかったからである。
(もう一つ、米国が如何に巧妙に自国経済の需要不足=供給不足を補ってきたかを説明したかったからでもある)
7/3/6
その3へ続きます

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