「EU ASEAN、インド、韓国とのFTA交渉へ」
農業問題
4月23日のEU一般理事会(全加盟国の外相で構成される決定機関)会合が、EUと東南アジア諸国連合(ASEAN)、インド、韓国との自由貿易協定(FTA)交渉に関する欧州委員会の交渉指令案を承認した。
GENERAL AFFAIRS AND EXTERNAL RELATIONS Council meeting (provisional version) - Luxembourg, 23 April 2007
これを受け、欧州委員会はこれら地域・国とのFTA締結公式交渉に乗り出すことになる。EUは、世界最大の経済圏の一つをなすEUと、これらの有力途上国・新興国とのFTAは多角的貿易体制に与える打撃が大きすぎることから、これまで慎重な態度を棄てないできた。
ところが、長期的・普遍的利益などまったく顧慮することなく、専ら自国の目先の利益に目を奪われたブッシュ米政府と盧武鉉韓国政府がFTAに合意した。ここにきて、遂に”武士は食わねど高楊枝”などと澄ましていることができなくなったということだろう。
EUのこの動きは、既に高まっている日本も含む世界中の国々のFTA熱をさらに高めるだろう。無分別な韓米政府のために、戦後営々として築き上げられてきた多角的貿易体制は未曾有の危機に直面することになった。差別待遇で域外国・地域の参入を妨害する関税同盟や自由貿易圏は世界平和の最大の敵となり、第二次大戦にまでつながった。
このような反省の上に築かれてきたのが、無差別・最恵国待遇を基本原則とするGATT、WTOによる戦後多角的貿易体制だ。それは、経済的にも最大限の効率の実現に寄与する(FTAは、域外の最も効率的な生産者を貿易から締め出す効果=貿易転換効果を不可避的に伴う)。
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EU ASEAN、インド、韓国とのFTA交渉へ 多角的貿易体制を省みる余裕なし
農業情報研究所(WAPIC)07.4.25
21世紀始めの若き政治指導者たちは、そして経済学者たちも、マスコミも、こんなことはすっかり忘れてしまったか、知りさえしないようだ。今や、このような世界の平和と経済発展を支える最大の支柱が倒潰寸前の事態に追い込まれている。
ただ、EU閣僚たちの名誉のために言っておけば、かれらは、日本の政治・経済指導者やマスコミとは異なり、多角的貿易体制の重要性は十分に認識している。
理事会会合報告は、まず第一に、「理事会は、多角的貿易体制が貿易障壁の最も効率的な除去を提供する一方で、途上国の世界貿易体制への組み込みを改善することを考えれば、貿易政策分野においてEUが最優先すべきは、依然としてドーハ・ラウンドの成功であると再確認する」と述べる。
それにもかかわらず、「多角的貿易交渉優先を尊重するにもかかわらず、ASEAN、インド、韓国とのFTAは、世界の競争者が相対するこれらの重要市場でのヨーロッパ産業の対外競争力と市場アクセス条件を改善するために迅速に進められるべきである」と言う。
まさに”背に腹はかえられない”、”武士は食わねど高楊枝”とはいかないということだ。
だが、韓国、米国、EU、そして日本のFTA推進論者も、FTAを締結したところで、またFTA叢生で地域分断が進むほどに、目先の利益さえ得られないこともあり得ることは知っておいたほうがよい。
WTOの2003年世界貿易報告は、FTAの中心目的は、加盟国原産の商品に関税特恵、あるいは無税扱いを与えることにより、加盟国の貿易を増大させることにあるが、これが現実に達成されているかどうかについては疑問があると述べた。それによると、多くのFTAについて、加盟国間の貿易が拡大したとか、域外よりも急速に拡大したという経験的証拠はない。
その理由としては、@先進国の場合には、多くの品目の最恵国待遇関税が既にゼロになっている、A原産地規則の要件を満たすためのコストが特恵により与えられる利益よりも大きく、貿易業者が特恵待遇の享受を断念する場合もある、B高レベルの保護を受けている最もセインシティブな部門[言うまでもなく農業分野が中心]は自由化の例外とされる場合が多い、といったことがあげられる(WTO世界貿易報告、地域貿易協定に懸念,03.8.22)。
原産地基規則は地域貿易協定にはつき物だ。その内容次第では、例えば今まで中国から調達していた安価な原材料や部品を高価な自国産品に切り替えねば協定の恩恵には与れないといった非効率が生じる。一国がいくつものFTAを結べば、相手国ごとに異なる原産地規則を満たすために、ビジネス・コストはとんでもなく膨らむ。
その上、今までの多角的交渉で先進国の多くの工業品の関税は非常な低レベルになっているから、その関税が撤廃されても、特に先進国-途上国協定で途上国側が得る関税特恵は薄められる。そして、なお関税レベルが比較的高く、特に高率関税が残る農産品目については、関税撤廃の例外扱いとされることが多いから、これから得られる利益も限られるだろう。
米州開発銀行(IDB)の地域貿易協定の包括的研究1)(2002年)も、過去10年、地域貿易協定の貿易パターン・世界の福祉・多角的貿易制度に対する影響に関する大量の研究が現れたが、経験的証拠は限られており、「我々は、特恵貿易協定に基づく貿易障壁の変化の重要度とその結果としての二国間貿易量の変化についてはほとんど何もわかっていない」と述べている。
1)Beyond Borders:The New Regionarism in Laten America,IDB,2002,pp.67-68.
欧州委員会も、FTA交渉開始にあたりどこの国もするように、FTA締結で大きな経済効果が見込めると言いふらす。
EUの輸出は、ASEANに対して24.2%、インドに対して56.8%、韓国に対して47.85%増え、これらを合せるとEUの輸出全体(2005年に1.3兆?)が3.23%増え、EUのGDPを0.13%増加させる。ASEAN、韓国、インドのEUへの輸出は、それぞれ18.5%、36%、18.7%増加する。そして、これら三つの協定は世界貿易の大きな純増をもたらし、貿易転換効果は最小限だと言う。さらに、これらの協定は、ビジネスサービスなどの現在はWTOの埒外の分野も取り上げるから、多角的貿易体制を適切に補完すると言う。
European Commission,European Commission welcomes adoption of negotiating mandates for new Free Trade Agreements with India, Korea and ASEAN,07.4.23
EUはWTOにおいてサービス分野の一層の自由化を途上国に迫っているが、インド等途上国の抵抗は激しい。二国間交渉でこれらの国のサービス市場をこじあければ、EUの利益は確かに大きいだろう。しかし、商品貿易の増大予測は、この種の予測の常として、宣伝文句以上のものではあり得ない。事前のこうした予測が本当に実現したと検証する研究は、世界中を見回しても、今のところ皆無だろう。
わが国政府、経済界は韓米FTA合意、さらにはEUのこの動きで、”貿易自由化”の世界的波に乗り遅れると焦りを強めているが、FTAの実際のメリットがどんなものか、冷静に考えるべきときだろう。
例えば、オーストリアストラリとのFTA。第一回交渉を終えた24日、外務省の大鷹正人経済連携課長は、「資源、エネルギー、食料の安定供給を念頭に包括的に交渉する」と語ったという(日経、4.25 朝刊)。しかし、オーストラリアは、もはや少なくとも「食料の安定供給」を保証できないことは明らかだ。食料輸入国に転落する恐れさえある(
豪首相 数週間中に大雨がなければ農地灌漑は禁止 豪州農業が破局的危機に直面,07.4.)。資源、エネルギーに関しても、FTA締結で中国やインとの資源獲得競争に勝てると考えるのも甘すぎる。
米韓FTA交渉妥結 フィナンシャル・タイムズ紙が”政治的愚行”と批判
農業情報研究所(WAPIC)07.4.4
米韓自由貿易協定締結交渉が妥結した。ともかく期限内(3月末、2日間延長)に妥結することが優先されたために、コメが協定対象外とされ、牛肉・繊維・自動車貿易や(韓国)サービス産業の自由化でも双方が大幅な妥協を強いられるなど、決して”ビッグ・ディール”とは言えない。それでも、94%の品目の関税は3年以内に撤廃することが合意されており、両国間貿易の一定の増加につながることは間違いないだろう*。
そのためか、戦後国際貿易体制の大原則(無差別原則)が地域ブロック間対立を防ぐために自由貿易協定(FTA)を”例外的”にしか認めていないことを忘れたか、知りもしない無見識のわが国の一部マスコミは、早速、”米韓FTA]「日本も積極策に転じる時だ”(読売)、”社説1 米韓FTA妥結、やればできる「日韓」も”(日経)など、流れに乗り遅れるなと大騒ぎしている。
しかし、同じく自由主義的とはいえ、フィナンシャル・タイムズ紙はさすがに見識が高い。4月3日付の同紙の社説は次のように言う。
「米国と韓国の消費者にとっての短期的利益は、数十年の間世界に役立ってきた国際貿易システムのとっての長期的コストと比較して慎重に評価されねばならない」。このような二国間協定に反対する経済的根拠は、それが高度に貿易歪曲的で、最も効率的な生産者からではなく、貿易障壁が最も低い国からの輸入をもたらすということにある。米韓FTAの場合には、米国と韓国は既に両国間主要貿易品目の高度に効率的な生産者だから、この弊害は限られているだろう。
しかし、交渉は政治的にはまさに愚行だ。もし韓国が米国農産物に一定の市場を開放できるのならば、他の誰に対しても開放できねばならないだろう。米国が自動車や薄型スクリーンテレビの韓国からの輸入を許そうとするのならば、他のどこからの輸入も許すことにもなるだろう。つまり、これらの協定は「多角的舞台装置」の上でひねり出されるべきものだった。「純粋に組織的な立場からすれば」、二国間貿易協定は、取り組むべき二国間関係が余りに多いという理由だけで、「ばかげている(absurd)」。今や、米国は中国や日本と協定を結ぶ必要がある。これらの国が相互に協定を結ばねばならず、EUとも協定を結ばねばならない。もし小国もかかわることになれば、将来、1万1000もの二国間協定が必要になる。
もう一つの懸念は、二国間協定では利益のつりあいがとれそうもないことだ。弱小国は不公正な二国間協定に抵抗できないだろう。
カラン・バティア米国通商代表部次席代表は、協定は米国通商政策への”カンフル注射”だと言ったが、これは、依然として有効な貿易協定を作り出し、執行する唯一の方法である多角的貿易システムを身動きできなくする”ひざうち”だ。
A tangled trade web,FT.com,4.3 または
One trade deal done,thousands to go:A shot in the kneecaps for workable trade agreements,Financial Times,4.3,p.12.
こんな見識を欠くわが国一部マスコミの主張は、特定産業が受けるにすぎない利益をあたかも一般的利益であるかのごとくに言いくるめるただの”イデオロギー”にすぎない。そのために、担い手農家への集中でオーストラリアのような大規模農業にも太刀打ちできるなどという誰が考えても荒唐無稽な”幻想”まで振りまかざるを得なくもなる。そんなことでは、東南アジア諸国、オーストラリアなどとの相次ぐ協定交渉に対する国民的合意が醸成されるはずもない。
*韓米合意の概要については、次を参照。
Summary of S. Korea-US free trade agreement,Yonhap,4.2
FTA交渉妥決、金鉉宗本部長が内容明らかに 聯合ニュース 4.2

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