救命困難の判断が、死亡宣告・臓器摘出を正当化しない
自分の子供が「脳死」になった時に、臓器を提供しますか
2001年6月7日に小児脳死判定基準の見直し論に関連して毎日新聞の取材を受けた日本救急医学会理事長の島崎 修次氏は「判定基準に当てはまる例を10万例調べて回復しなくても、10万1例目に回復する可能性があるかもしれないが、その考え方は世界的に採用されていない」とコメントしています。
島崎理事長の言うとおりに、現代の医療では救命できる可能性がほとんどないと仮定しても、それは即座に、死亡宣告することや臓器を切り取ることまでを正当化できません。
すべて臓器摘出前に筋弛緩剤を投与し、一部の患者にはガス麻酔がかけられているように、臓器を切り取る時に痛みを感じさせる、切り取られるのを意識される可能性があるからです。
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引き続き
「脳死」・臓器移植を問う市民れんぞく講座からお送りします。
「脳死」・臓器移植の推進に世論への影響力が大きいのが、臓器移植しか救命方法がないと言われた子供達を、前面に出すことです。
しかし特に肝臓の病気で多いようですが、そんなお子さんが亡くなられる時に、「脳死」状態を経由して死亡した、という論文も見かけます。
「自分の子供を生き延びさせるために他人の臓器が必要だ」、と普段から活動されていても、自分の子供が「脳死」状態になった時に、治療打ち切り、あるいは他の子供のために臓器摘出を依頼された時に、抵抗なく了承できる親がいるのでしょうか。
昨年10月12日と19日にNHK衛星第一放送で、"臓器移植法〜5年目の見直し"インターネット・ディベートが放送されて以降、「脳死」状態と宣告された子供を持つ親だけでなく、植物状態の家族がある人々の間にも、非常な不安が広がっています。
「うちの子供に脳死が宣告されて、治療を打ち切られるんじゃないか、臓器を盗られるんじゃないか、退院を強要されるんじゃないか」と関西市民の会に相談された親御さんもおられます。
「脳死」と判定された小児も、一時的な回復例があります。さきほどの1988年の第1回脳死・脳蘇生研究会(救急医学Vol.12 No.9 S471〜S485によると、藤田学園保健衛生大学脳神経外科の石山 憲雄氏ほかは、「4歳男児はanoxia(低酸素症)により深昏睡で来院。脳波、ABSRは完全に消失するも1ヶ月後に一時的ながら自発呼吸を認めた。この症例は178日生存した」と報告しています。
広島大学の黒木 一彦氏らも1995年の第23回日本救急医学会で、生後3ヶ月の男児を脳死判定後、8病日目に脳血流の再開だけでなく聴性脳幹反応の出現を認めたことを発表しました。
1999年の第35回日本新生児学会総会では、奈良県立奈良病院の坂上 哲也氏らが、脳死判定後13日後に脳波と痛み刺激に対する反応が出現、17日後に脳幹部の血流再開を確認した新生児例を報告していています。
痛み刺激に反応するわが子から、臓器を切り盗ることを承諾する親がいますか。
他人の臓器をもらうことばかり考えるのではなく、臓器を盗られる側、治療を打ち切られる側のことも考えてもらいたいのです。
マスメディアが海外で移植を希望している小児患者が報道すると、「日本でも小児からの臓器摘出ができれば」という世論が形成されがちですが、脳死判定後の脳機能回復や長期生存例は、「小児からの臓器摘出は行なわない」としている日本の判断の倫理性、先進性を示しています。
家族が臓器提供を断ったから生きているTさん
さきほどの日本救急医学会理事長のように、「脳死と判定されて回復した患者はいないじゃないか」という人は多いのですが、家族が臓器提供を断ったおかげで今も元気に生きている人がいます。
関西地方は2002年11月25日(月)にテレビ朝日のテレメンタリー2002「私は別人〜見えざる障害、高次脳障害と闘う」で、また11月27日(水)にニュースゆう でも放送されたTさんは、大阪府下にお住まいでの方です。
月刊総合ケア2002年8月号の「全臓器提供」より奇跡的に生還した女性 で、やまぐちクリニックの山口 研一郎院長が詳しく報告されています。
Tさんは24歳になったばかりの1991年12月、交通事故で頭部を強打し昏睡状態になり、ハワイのマウイ記念病院へ搬送されました。
事故後3日目、両親に医師は治療費が最低でも1日約30万円になることを伝え、「現在、臓器不全で移植を待っている人が数多くおり、Tさん1人で20名の患者が助かる」とつけ加えて臓器提供を要請しました。
これからが両親の素晴らしいところですが、「20名の人の命を助けられるのなら、娘一人の命が助からないはずはない」と確信し、臓器提供を拒否し、医師に治療の継続を要求されました。
現在、Tさんは高次脳機能障害はあるものの、ちょっと見た目は普通の健康な人と変わらない元気な様子で、福祉施設で働いておられます。
毎日新聞社発行のJAMA<日本語版>2002年3月号は、米国で臓器提供を要請された420例について「臓器提供に関する家族の同意に影響を与える因子」を掲載しました。
このなかで、「臓器提供に費用はかからないことを保証」されたのは420例のうち157例で、このうち149例=94.9%が臓器提供を承諾しました。
同論文のなかでは、この質問が最も臓器提供承諾率が高く、経済的要因による臓器提供の多さが窺われますが、Tさんもまさに治療費を理由に臓器提供を要請されたのです。この現実を、医療費が高いアメリカのことだから、と言って済ますことはできません。
「脳死」で保険・治療打ち切り、臓器提供強要が目的
国立循環器病センターの北村 惣一郎総長は、「脳死者への医療保険費は年間200〜300億円になる。一人として社会に戻るもののない、実りなき医療費の使用だ。脳死判定を保険医療として認め、脳死≠ニ判定されれば、それ以後の医療にこそ選択性を認め、実りある移植医療には『保険』をみとめていくべきだ。脳死を『死』と一律に解釈すべきである」と文芸春秋日本の論点2003で述べました。
ほとんどの施設では治療を尽くした後に脳死判定を行ないますから、脳死判定を考慮する段階では、少数の例外はあるがほとんどは救命が困難、死が避けられないのは確かかもしれません。
しかし、その時点が即座に、治療打ち切り、臓器摘出獲得を容認する状態なのか、正当化されるのか、再検討すべきと思います。
6/5/8
9/4/22
続く

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