週末は東京へ。製薬会社が主催するシンポジウムへ参加した。
統合失調症の治療薬 として現在主流になりつつある、非定型抗精神病薬の最新トレンドについてのシンポジウムで、特に日本発の非定型抗精神病薬の成果と使用法についてが議題の中心であった。この十年、リスペリドン(リスパダール)の国内での発売以来、統合失調症の治療は飛躍的な進歩を遂げた。それは従来の定型薬といわれる薬剤の副作用の発現を抑え、同時に定型薬では過鎮静によって低下しがちであった認知機能自体も改善させる薬理作用を持つからだ。
リスペリドンの発売以来、定型薬(第一世代)にかわる、様々な非定型(第二世代)抗精神病薬が国内発売されてきた。各種の薬剤がそれぞれに特徴的なプロフィールを持ち、脳内の様々なレセプターに作用する。PETやSPECTなどの脳内イメージング技術の進歩と、分子生物学的なラボ技術の進歩の結果、神経活性を持つレセプターレベルの同定や活性測定が可能となった。第二世代抗精神病薬はこの各種レセプターをどう標的にするか、というデザインによって創薬されている。
例えば代表的な神経伝達物質として
ドーパミン があるが、この受容体にはD1、D2、D3、D4と呼ばれる
サブタイプ がある。また従来気分変動に影響が大きいとされた
セロトニン には5-HT1A、5-HT2A、5-HT2C、etcなどの受容体の
サブタイプ がある。現在は統合失調症の精神薬理的理解では、これらの神経伝達物質の調節障害によって様々な症状、幻覚、妄想、意識変容、知覚変容、気分障害、意欲障害などが起こると考えられている。
これらの理解は日本の製薬会社の各種プロモーションでもロジックとして盛んに用いられ、国内の精神薬理業界でも様々な細い議論が繰り返されており、この当日の講演でも国内の研究者による同様の発表が行われていた。
当日のシンポジウムの目玉は、第二世代抗精神病薬の代表的薬剤である
クロザピン の開発者である、
Herbert Y.Meltzer,MD による講演であった。クロザピンとは、第二世代抗精神病薬のなかでも最も効果が高いとされる薬であるが、同時に顆粒球減少症といわれる重篤な副作用を起こす可能性のある薬で、この副作用の為に欧米ではもっともメインストリームな薬であるにもかかわらず、国内では未だ認可のされていない薬である。実は第二世代抗精神病薬とはこの薬によってパラダイムが開かれ、この薬理プロファイルを参考にデザインされているといっていい。
ここまで書き連ねてきて、普段から精神薬理になじみの薄い方には殆ど理解ししづらい内容であると思うが、それは我々としても同じことで、これらのプロファイルが何を意味するのか、という思想がこれらの分析からでは見えてこないことを原因としている。そして結果としてこのMeltzer氏の講演は大変面白いものであった。
それは統合失調症と、サイケデリック・ドラッグによる意識変容モデルを、基本的に同じものと捉えようという思想であった。
従来から、統合失調症の疑似モデルとしてメタンフェタミン作用モデルというのがあった。これはメタンフェタミンの興奮作用、妄想惹起作用などが統合失調症の急性期症状と似通っているところから採用されていた。このメタンフェタミンがドーパミンを脳内で過剰放出させることから、統合失調症のドーパミン仮説が生まれた。これが第一世代の抗精神病薬のデザイニングになった。
次にドーパミン・セロトニン仮説というものが提唱されはじめる。これは単純にドーパミンをブロックするだけでは各種の症状を説明することができず、脳内の活性イメージをSPECTなどの画像診断で測定してみてもセロトニンレベルのアンバランスが生じていることが明らかになったからである。ドーパミンD1、D2、セロトニン5-HT1A、5-HT2Aなどの過剰放出や、枯渇などの様々なバランスの組み合わせによって症状が生じていると理解する。これが現在の日本の創薬のトレンドとなっているのであるが、これらはMeltzer氏によると、
LSD 、
メスカリン 、
シロシビン の活性作用と同様だと理解するということだ。そして実際の臨床研究においてもこれらのサイケデリックスを健康な成人に投与して、サイケデリックスの効果に拮抗することを調べるということだ。
そして次のモデルとして提唱されたのが
DMT 、
ケタミン モデルととでもいうべきモデルで、ケタミンとDMTの意識変容作用に拮抗する抗精神病薬の可能性についてである。これが第三世代の抗精神病薬のパラダイムになるという提唱だ。実際に臨床実験でDMTを被験者に投与し、従来の第2世代抗精神病薬を用いても効果が今ひとつだということだ。統合失調症の患者の種類として、アンフェタミンタイプ、LSDタイプ
DMTタイプが存在しており、DMTタイプについてはまだ有効な治療薬は出現していない。DMTトリップの特徴である超越体験と神経伝達物質の
グルタミン酸NMDA受容体 が今後の治療タクティクスに有効だと考えられている。その他にもケタミンの作用によってカタレプシー様(緊張病状態、激しい内的緊張により固まってしまい、外部と疎通がとれなくなっている状態)の状態に被験者が陥り、この症状に対するレセプターが同定できない、との話があったが、ケタミンで固まってしまっているのは、その状態の中で内的トリップ世界の激しさに圧倒されているからで、決して動けないわけはないのだが、その辺りの観察による臨床症状と患者の内的体験のギャップも想像できて面白く感じた。
文化人類学や認知科学の分野でも近年DMTに対する関心が高まっている中で、精神医学においてもDMTが最新のトレンドになっていることを実感するとともに、ドラッグの作用を一つの型としてダイレクトに統合失調症を理解しようとする姿勢に、西洋のドラッグカルチャーに対する寛容さおおらかさと、意識変容に対する精神科医の本音を感じた。今や統合失調症の治療薬とサイケデリックスは表裏の関係として決して互いを切り離せない存在になりつつある。
Meltzer氏の統合失調症の新しい病系分類
1)アンフェタミンモデル(第一世代抗精神病薬)
↓
2)LSD、メスカリン、シロシビンモデル(第二世代抗精神病薬)
↓
3)DMT、ケタミンモデル(第三世代抗精神病薬?)
Ayahuasca
DMTトリップ。凄い作り込み。
日本未公開の"Renegade"から。監督はドーベルマンのヤン・クーネン。
映画『Renegade』に見るシャーマンのドラッグ儀式
前半部グロ注意。
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