統合失調症検査技術の開発に成功――早期診断をサポート
JST(理事長 北澤 宏一)はこのほど、独創的シーズ展開事業・委託開発の開発課題「
統合失調症の検査キット」の開発結果を成功と認定しました。
独創的シーズ展開事業・委託開発では、大学や公的研究機関などの研究成果で、特に開発リスクの高いものについて企業に開発費を支出して開発を委託し、実用化を図っています。(詳細情報
http://www.jst.go.jp/itaku/)
本開発課題は、平成15年3月から平成20年3月にかけて株式会社エスアールエル(代表取締役社長 小川 眞史 本社・東京都立川市曙町2丁目41番19号、資本金112億7100万円)に委託して、企業化開発(開発費約3億3100万円)を進めていたものです。
本新技術は、新潟大学教授 那波 宏之の研究成果をもとに、DNAマイクロアレイ注1)を用いて患者の血液から抽出した遺伝子を測定し、分類予測モデルで発現量の変動を解析することによって統合失調症の診断をサポートする手法です。統合失調症の治療では早期治療が重要とされていますが、生物学的マーカー注2)を用いた客観的な検査法がないため、早期診断を支援する方法が望まれていました。
本開発では、DNAマイクロアレイを用いた約5万5000遺伝子の分析結果から統合失調症に関連して変動する10種類程度の遺伝子を抽出し、分類予測に優れたニューラルネットワーク注3)というアルゴリズムを活用した分類予測モデルを構築しました。専門医による統合失調症の早期診断を支援する技術として活用され、早期治療の実現によって患者の重症化回避や治癒率向上に貢献することが期待されます。
本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。
(背景) 統合失調症の診断を支援する技術が望まれていました。
統合失調症は人口の約0.8%が発症している疾患で、慢性化すると通常の社会生活が営めなくなる場合があります。心理症候学的基準によって複数の病型に分類されますが、最終的な診断では専門医の経験に依存するところが大きいのが現状です。一方、統合失調症の治療では、早期治療の重要性が指摘されています。症状が慢性化する前に治療を行うため、生物学的マーカーを用いた客観的な検査法のような早期診断をサポートする方法が望まれていました。
(内容) 統合失調症と関連のある遺伝子の発現レベルを測定します。
本新技術では、まず患者から血液を採取します。ここからmRNA注4)を抽出し、DNAマイクロアレイで統合失調症に関連した遺伝子の発現レベルを測定します(図1)。約5万5000遺伝子を解析したところ、統合失調症に関連して変動する10種類程度の生物学的マーカーと考えられる遺伝子が特定されました。これらの遺伝子の発現量の変動をニューラルネットワークというアルゴリズムで分析、構築した分類予測モデルは、統合失調症患者群の判別において真陽性率、真陰性率のいずれも高く、専門医による統合失調症診断を支援する技術として活用することができます。
(効果) 統合失調症の早期治療を実現する技術として期待されます。
本開発で確立した生物学的マーカーは、統合失調症患者の診断における客観的な指標として利用することができます。専門医による統合失調症の早期診断を支援する技術として活用され、早期治療の実現によって患者の重症化回避や治癒率向上に貢献することが期待されます。
統合失調症検査技術の開発に成功――早期診断をサポート 科学技術振興機構報 第531号
GIGAZINE 血液から抽出した遺伝子を測定して「統合失調症」かどうか早期診断する技術を開発
統合失調症 wikipedia
☆統合失調症は、各種の悪性腫瘍、HIVウイルス感染症などと並び、人類の克服すべき難病としての、大きな課題の一つであった。特に昨今の遺伝技術の進歩によって、ゲノム情報の解読と、それによる診断・治療は医学、分子生物学、脳生理学の最も熱いトピックの一つとして、世界中で研究競争が繰り広げられてきた。しかし、様々な遺伝子のサブタイプの発表や遺伝的病系分類の推測や発表は数多く発表されているが、実際の臨床検査技術としての応用は、まだ先の技術であるという印象が強かった。
今回の発表である検査キットの実用性が確かであるなら、統合失調症を取り巻く、治療的、文化的、社会的な環境は大きなブレイクスルーを迎えることになるだろう。
今回の技術は、約5万5000遺伝子という多くの遺伝子サンプルの分析結果から、統合失調症に関連して変動する10種類程度の遺伝子を抽出し、分類予測に優れたニューラルネットワークというアルゴリズムを活用した分類予測モデルを構築したということだ。コンピューティング技術の進歩がもたらした、統計解析技術の進歩が、統合失調症のゲノムパターンを発見した訳だ。
今までは統合失調症は発症初期、もしくは発症した段階で、臨床家の経験に多くを依存した形で診断が行われてきた。この技術では採血による検査キットで診断が可能。遺伝子のタイプによる病型分類も今後進んでゆくことが考えられるし、診断即それに効果的な薬物の選定に至るプロセスも考えられてゆくだろう。
統合失調症に罹患した患者、家族にとっては治療技術が進歩し、予後が改善することは計り知れない恩恵がもたらされることになる。そのことについては異論を持たないし、私自身も検査キットを利用することだろう。一つの大きな問題は統合失調症が遺伝的に決定されているか否かという問題で、例えば定期検診の採血に、この検査項目が入っていることで、人生の将来までの統合失調症発症のリスクが査定され、就職や人生の決定に支障を生じてしまう可能性があるということだ。
統合失調症は遺伝的な負因があっても、挙児が発祥しないなどの事実から、一卵性双生児による研究などによって、遺伝的負因に環境因が加わって発症する多因子疾患であるということが判っている。検査結果の濫用はリスクのある患者の社会的差別や、職業選択の自由を奪う可能性を内在している。
統合失調症のという、人間精神最大の狂気の中に潜む、多くの心理的可能性について、古来多くの思想家、神秘家が言及してきた。こころの闇に光をサーチライトのように投げ込むこの技術に、言いようのない不満と寂しさをどこか感じる。とはいえ、光の明るさの分闇もまた広大であり、この世界は新たな神秘を我々に突きつけてくるだけなのであるが。