かさぶたがめくれたのは夏だった。
「盆と正月は帰ってこいよ。そういうもんなんだから。」
受話器の向こうで父の声が聞こえる気がする。
庭は、春で、揺れているのは草だった。
「お前みたいなやつがそんなこと出来るはずないだろ。勝手にしろ。」
険しい剣幕で、父が私に怒鳴る。
私は、それでもいい、と小さく呟き、背中を向け居間を出た。
襖の間仕切りのところで足の小指を切った。
そのまま父とは話していない。
そのまま私はここへ来た。ただあの時、うっ、と洩らした私の背中で、父が、あっ、と言ったのをはっきり覚えている。
手を伸ばし座りながらも体を曲げていたのだろう。
父はそんな人だ。頑固で恥ずかしがりで、すごく優しい人だ。そして、演歌だ。全身全力、演歌だ。人間くさい親父だと想う。
「お父さんに代わるわね。」
長い間。そんなに長くないはずなのに。受話器を握り返し、ない、つばを飲む。足の小指のかさぶたに手をやると、少し剥がれている。無意識にめくっていた。「もしもし、盆は返ってくるのか?」
「考えてるところ」
「そうか。なるたけ、帰ってくるんだな。御先祖様が帰ってくるんだから。」
「わかった」
電話が切れる。綺麗になった小指を見る。かさぶたはどこかへいってた。親が親なら、私も私。そんなことに気付く。
立ち上がりカレンダーを見る。私は、日を、数えた。