男は椅子に座りたかった。足は疲れていた。
だから座りたかった。
椅子が目の前に一脚。
「ボス、座ります?」
「うん」
座るボス。
眺める男。
下剋上―そんな言葉が頭をよぎる。
駄目だ駄目だと首をふる。
「お茶買ってきて」と、ボス。
「……いやです」とつぶやく男。
「ん?なんて?」と、ボス。
聞こえてなかったようだ。
「すぐに!」と、男。
入り口を出たところにある自動販売機。見ると横にはベンチ。衝動。座りたい。
ゆっくりと座る男。
店内を眺める。
からまれているボス。
からまれているボスと目が合う男。
泣くボス
じっとみる男
泣くボス
ボスの好きなコーラを開ける男
泣くボス
飲む男
泣くボス
鋭い角度で丸いところに投げ捨てる男
「ボス!」
シャツが破れてる
身ぐるみはがされてる
怪我はないようだ
嵐はもう過ぎ去っていた
「……なんで来んかったん?」と二重のボス
「座りたかったんです」と男
「コーラ飲んでたやんか。ボスめっちゃしばかれたりしてん」と免許持ってないボス
「知ってます!ボス!」と男
「めっちゃ目合ってたやんか。ボス泣いててん」とめっちゃ背低いボス
「知ってます!ボス!」と男
「ボスってもう呼ばんといて」とまあまあ大きい出来もんが左目の横にあるボス
立ち上がり出口へ向かうボス
そこへ座ってしまう男
歩くボス
眺める男
歩くボス
眺める男
知らなかったがよく見ると破れた裾から右足のふくらはぎのところにアザがあるボス
なんだかすっごい可哀想な気持ちになる男
歩くボス
今はボスやけどちっちゃいときちょっといじめられたりしたんかなあ
歩くボス
今日も行ってきます!って奥さんにいうてでてきたんやろなあ
歩くボス
こんなことなるって全く考えてなかったやろなあ
歩くボス
ちょっと自動ドアでミスるボス
眺める男
男は黙ってボスに一礼する
深く深く
そして男は座りなおす

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