2008/12/25

初恋(’06)  日本

月曜夜放映の録画を見た塙幸成監督作品。原作は中原みすずの同名小説、日本犯罪史上最大のミステリー、と言われる’68年の3億円強奪事件の実行犯は、18才の女子高生だった、という設定、その視点から事件までの日々、実行、その後を描いたミステリー。

やはり実際の迷宮入り事件題材、そして宮崎あおいヒロイン、とのことで気になってはいた作品で、この機会に。この事件自体は、グリコ・森永事件と共に時効になった謎の大事件、という伝説、の感触、劇中もあった指名手配のモンタージュ写真の印象はおぼろげに残っている。

この主犯者である岸(小出恵介)が、’60年代の権力への抗いの空気の中、話を持ちかけたみすず(宮崎あおい)に、自分も権力を憎んでいる、石を投げても角材を振り回しても、権力は痛くも痒くもない、頭で勝負したい、等と語っていたのだけれど、

東大生で、溜まり場のジャズ喫茶Bで一人詩集を手にしているインテリ、父が政治家、という背景は伺えても、そこまでの大事件を起こすよう、駆り立てられるまでの経緯が、どうも唐突な感だった。事件後、共犯格のバイク屋の老人(藤村俊二)を亡き者にし、岸を世間から遠ざけたのは、政界の影のようだけれど、何かの手掛かりで嗅ぎつけたとしても、岸が大臣の息子だった、という理由だけで、事件を闇に葬ろうとしたのも、不可思議だった。

まだ納得出来たのは、現行犯を頼まれ、引き受けたヒロインみすずの心情。あえて描かなかったのか、父が死に、母が兄だけを連れて出て行き、身を寄せた叔父の家は一切登場せず、また学校の教室でもポツンと一人だけ。離れていた兄(宮崎将)が現れ、渡されていたマッチのジャズ喫茶Bを見かけ、仲間入りし、そこの若者以外とは、一切交わるシーンがなく、やさぐれた、違う世界に住む感の兄とも血の通った兄妹愛、という場面はほとんどなく、孤独な風情漂う少女。

彼女自身に、体制への反抗、大事件の意義、等の意識は皆無、無垢に見え、ただ普段自分を気にかけてくれる青年から、自分が必要とされている、という一点のみで、現行犯を引き受け、相手と共にする、ある種のお祭り的イベント、の感覚で、実行してしまう。

それゆえ罪悪感、というものも皆無で、事件後大学受験に合格、でも岸の世話したアパートで、戻らぬ岸を待つ孤独、岸の自分への想いが綴られたノートを目にして涙する、その大事件とは裏腹なピュアな”初恋”の切なさが残った物語。ラストのテーマ曲は元ちとせだった。この役のやや影ある宮崎あおいは、「害虫」での彼女が重なったりした。実兄でもある宮崎将は、余り馴染みなかったけれど「EURIKA(ユリイカ)」でも共演していたのだった。

実際、実行犯が無免許者、というのは有り得ても、女子高生、というのは、その声が、現金輸送車に乗っていた数人の内、誰かは若い女、と気付きそうではあるし、やはりファンタジー的仮想物語、とは思うけれど、

それが恋愛絡み、でなくても、ある人間、集団から自分の存在価値を認められる、という、他人からすれば単純な原点で、若者が世間でいう”犯行”に走るのは、感覚的に判る気がするし、この事件は、一切人を殺めなかったけれど、ふとオウム事件が過ぎったりもした。

昭和の時代を感じさせるモノクロ風景、人物写真、折に流れた「ブルー・シャトー」「スワンの涙」「白い色は恋人の色」等の曲、流行りだしたミニスカート、首都高開通、アポロの月面着陸、等のニュース、アームストロングの「この一歩は・・」のコメントに、みすずが部屋で寝そべって「月まで行っても、歩くのか・・」等と呟いたりしていたシーンもあったけれど、

溜まり場ジャズ喫茶Bの退廃的な何か閉塞感、ラストで語られた、それぞれの若者の、故郷で実家の商売を切り盛りしている、というユカ、以外は、皆夭逝、の末路。その一人から生まれた「3億円事件」、と思えば、これはタイトルからしても、この事件をモチーフにした純愛作品、のテイストかもしれないけれど、”時代”が生んだあの大事件、というコンセプトなら、やはりそこに密かに渦巻いていた個人レベルの憤り、がもっと描かれていれば、とは思った作品だった。(http://www.amazon.co.jp/%E5%88%9D%E6%81%8B-%E3%83%97%E3%83%AC%E3%http://www.hatsu-koi.jp/

クリックすると元のサイズで表示します
0



トラックバックURL

トラックバック一覧とは、この記事にリンクしている関連ページの一覧です。あなたの記事をここに掲載したいときは、「記事を投稿してこのページにお知らせする」ボタンを押して記事を投稿するか(AutoPageを持っている方のみ)、記事の投稿のときに上のトラックバックURLを送信して投稿してください。
→トラックバックのより詳しい説明へ



teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ