限りなくノンフィクションのような短編集。
もちろん、それは一部の作品であって、純粋な創作と言っていい部分のほうが多いのでしょうが、戦争を体験した世代にあって、頼るべき家族を失うという最も過酷な形でその辛酸を舐めた人の思いの飢えが吐露されているようで、心を打たれました。
作品の傾向について同工異曲と自嘲気味の解題が添えられていますが、どちらかと言えば乾いた簡潔な筆致で苦い体験を綴る中にも、一貫して感じられる郷愁のようなものに惹かれました。
『三丁目の夕日』に代表される日本の成長期の裏にはこんな時代もあったんだよなあ、と。
そう言えば、私が子供の頃、昭和50年代頃には、もちろん昔話としてではあれ、確かにそういう苦難の時代があった、という記憶がまだ世の中にリアルに息づいていたような気がします。家や小学校の図書館とかで戦中戦後のエピソードを描いた本もおっかなびっくりでけっこう読んだと思うんだけど、今の子供はむしろ外国の紛争・戦争のニュースなんかのほうに、自分の身に同じことが降りかかっていたかもしれない、という意味でのリアリティを感じるのかもしれませんね。
若い人にも読んで欲しいです。

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