巨匠クンデラの2001年の作品。
チェコスロバキアにソ連軍が侵攻した「プラハの春」をきっかけにフランスとデンマークに亡命した男女。かつて国を離れるときの空路で知り合っただけで別々の人生を歩んだ二人が、冷戦終結後、初めて帰国するというときにまた偶然にも出会います。
亡命先で築いた生活に満足していた彼らは、感動的な帰郷だと誰にも思われながら、本心では、そういう周囲の押しつけがましい、共感を装ったかのような無理解にうんざりし続けています。空港でプラハでの再会を約束した二人は自然、同じような立場の異性への期待を膨らませるわけですが・・・。
粗筋紹介するとそんな感じでしょうか。
ストーリー自体も魅力的ですが、容赦なくも洞察に満ちた心理描写が、自身亡命者でもあり、フランスに骨を埋めるつもりらしいクンデラならではの鋭いもので、非常に感銘を受けたのですが・・・・。
ネットで書評をちょっと検索してみると、彼の作品としては余り芳しい評判を得てはいないようですね。ちょっと意外心外。中編と言っていい短めの作品だし、まあ他に傑作がいくつもある人だから評価基準も厳しくなって当然というようなこともあるでしょうけれど。
私にとっては、重厚さや深さよりも、警句のように鋭いフレーズでいくつも印象に残るものがあったので気にしないでおこう。
こんどは彼の『カーテン』というのを読みはじめたところです。これは小説ではなくて小説論、ひいては人間論みたいな内容(らしい)です。
その昔映画がヒットしていたころ、余りまじめには読まなかった『存在の耐えられない軽さ』も再読してみよう。まずはうちにあるはずの本を見つけなきゃいけないんだけど。

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