以前、著作権に関する朝日新聞の記事が間違っていることを書いた。CDを借りてきた本人が、友人のためにMDに録音する行為は著作権法上許されていないが、これを高らかに「OKだ!」と記事にしていた朝日新聞の記事についてである。
私はいわゆる著作権(財産権としての著作権)の保護には懐疑的であるが、現実に著作権法の運営において、このような行為は違法と解釈されている以上、読者に「OKだ!」と高らかに宣言する朝日新聞の非常識にもあきれ果てている。朝日の記事に触発されておおっぴらにコピー行為をしたものが告発されたらどうするのだろう。
繰り返すが、私はいわゆる著作権(財産権としての著作権)の過度な保護には懐疑的である。著作権法の目的があくまで文化の発展にある以上、あまりに強い保護、つまり著作者と著作者の権利を代理行使するものの経済的利益をあまりに強く保護してしまうと、かえって文化の発展を妨げるからである。現にそうなっているのではないかと思う。
もともと文化というものは模倣により発展するものだ。伝統的な技術、芸術的な所作、斬新な文体といったものもすべて模倣からスタートしている。私は以前、アニメ映画の世界ではかなり著名な画家の創作作業を見せていただいたことがあるが、創作の現場に立ち会ってみて実感したのは、絵筆の使い方一つにも伝承されるべき技術があるということだ。伝承とは言い換えれば模倣行為なのである。
著作権の過度な保護はこうした模倣行為を厳しく取り締まることとなる。つまり、後進の芸術家達の創作活動を著しく制約してしまう。
多くの作家を志したものたちは、自分の抱いたプロットがすでに他の作家達によって描かれていることに愕然とする。芸術家というのは、時に先人に刺激され、多くは先人に打ちのめされる。芸術家というのはそうしたものだ。自分の才能に酔いながら自分の無能さに絶望する。しかし、それでも創作をし続けたものが芸術家なのだ。出発点は常に模倣なのである。
私が著作権の過度な保護に反対するのは、もともとこのように著作権の保護が叫ばれるようになった背景に、商業的経済的利益の獲得という、およそ芸術活動とはほど遠い意図が透けて見えるからである。既に成熟した資本主義諸国が、自己の技術の優位性の確保のために特許権をはじめとする知的所有権保護の強化政策をとったアメリカの国策に追随したからに過ぎない。追随というよりも、それを強制されたと言うべきかもしれない。
ところで、アメリカの産業革命の人と呼ばれるサミュエル・スレーターをご存知だろうか。彼は当時、最も優れたイギリスの紡績技術を盗み出すために、アークライト式紡績機械の図面を丸暗記してアメリカに持ち帰り、紡績機械を作ることに成功して、その後の産業革命をアメリカにもたらした人物である。現在の日本の法律で言えば、不正競争防止法により完全な犯罪行為をした人物がアメリカ産業革命の父として称えられているのだ。もっとも振り返ってみれば、アメリカのみならず後進国はこうして先進国の技術を盗み発展してきたのである。種子島と呼ばれる火縄銃の自分のものとした日本もまた同じだった。後進国は皆リバースエンジニアリングによって先進国の知恵を盗見出したのである。
話を著作権に戻そう。アメリカがパンアメリカン体制と呼ばれる自分勝手な著作権保護体制を維持することをあきらめ、ベルヌ条約に加盟したのは、つい最近のことにすぎない。レーガン大統領によるプロパテント政策の一端として、アメリカは芸術にも触手を伸ばしたのである。明るくおおらかで楽しい国アメリカを象徴するディズニーの保護、世界の娯楽映画を制覇したハリウッド作品の保護、そしてなによりネット界の大顰蹙を買ったビルゲイツ「作成」のプログラムソフトを守ることにその狙いはあったのだ。そこには文化の発展への思いは何もない。ただの金の亡者の正当性を裏付ける財産権的側面の肥大した著作権があるばかりだ。
著作権は保護されるべきである。しかし、財産権的側面ばかりが肥大化した現在の著作権制度は、もうこれで十分だと私は思う。
今、アメリカの先導により、著作者の死後の著作権保護期間はずるずると引き伸ばされ50年であるのが、更に70年に延長すべきかどうかが日本で論議されている。EUやアメリカは既に延長を決めている。しかし、私はこの著作権の延長に大反対である。
本来、文化の発展を法目的とする著作権制度であることからすれば、著作権のうち、まず著作者の人格的権利を保護すべきである。この点、現行の著作権法は著作者人格権が事実上永遠に保護されている。永遠の保護であるからこれ以上の保護はない。となると、著作権延長の主眼はもっぱらお金儲けの期間を延長させようとする動きなのである。著作者が死んで、なおかつ50年も保護されているのにもかかわらず、尚20年もの間、金儲けをさせよという。私は資本家ではないから、文化の発展にどちらが正しい選択かのみを考える。だとすれば、50年でも長すぎる。欲をかくのもいい加減にしろと思う。
私は、青空文庫の活動を支援する。著作権の権利期間延長には大反対である。青空文庫では
反対運動の署名活動をしている。関心のある方は是非、署名して欲しい。

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