橋下知事が公立小中学校における無料補習授業案を公開した。小学生、中学生に各週2回の無料講習をするのだという。
以前、IT講習というのを覚えている方はいるだろうか。あるいは、特許流通アドバイザーやらなにやらの無料のアドバイザーが全国に配置されて、中小企業に無料相談をしているのをご存知だろうか。
国民にITの接し方を教えるのだということで、鳴り物入りで始まったIT講習だったが、その結果はどうだったのか?
パソコン関連の小さな教室は当時たくさん存在した。パソコンのトラブルの多くは、町の電気屋では対応できず、そうした小さなパソコン専門の教室は地域で重宝されていた。ところが、無料のIT講習が始まってから、こうした町のパソコン教室は激減したものだ。IT講習の実態は、大手の富士通などが独占してこれを引き受け、人材を町の小さなパソコン教室から引き寄せて指導したというものだった。後は惨憺たる状況だった。IT講習は間違いなく民業圧迫となった。ひとり、富士通が大笑いしたのである。
また、これは国の施策なのだが、特許流通アドバイザーなるものは、アメリカのプロパテント政策を模した小泉が、知的財産戦略会議なるものを立ち上げた際に全国に配置した中小企業向けのアドバイザーである。同時に、特許流通の専門家を育てようと特許流通実務者講習なるものが天下り団体発明協会に丸投げされる形で始まっている。この施策は当初から破綻しているのだが、現在も行われている。特許流通の専門家をいくら育成しても、政府の金で育成する側にある発明協会だけが潤うだけで、そこで育成された特許流通の専門家たちは一向に潤うことはない。当たり前の話である。他方で無料の特許流通の専門家を配置しているのだから、有料の特許流通事業など成り立つはずもない。これもまた民業圧迫の例である。
中小企業に対するさまざまな施策も、これを利用する中小企業に妙な甘えを生んでいる。あらゆることが無料だと勘違いさせている。結果、中小企業の事業を助けることを業とする中小企業診断士や社労士、行政書士などは必要以上に過酷な業務展開を強いられている。そのことは、自らの力で起業しようとする活力をかえってスポイルする結果となる。なぜなら、起業のエネルギーはどのような起業においても必要であり、必然的に起業についてまわる負担もまた起業する本人が必死の覚悟で負うべきだからだ。甘えは成長を削ぐ。
また、橋下知事は、先の大阪弁護士会訪問において、これまで弁護士の費用を府が負担していた無料法律相談会について、弁護士費用を無料とするように訴えた。これもまた美談であるかのように報道されているが、どうなのだろう?ただでさえ、『知識』の伝授は金がかからないと考えるのが人の常である。こう考える傾向は低所得者層になればなるほど強い。しかも相談内容は一定期間放置されていたものが多いため複雑なものが多いことが予想される。弁護士が弁護士業のイメージアップとして行う無料相談ならばよい。なぜ府の施策に協力する弁護士が無料でこれに応じなければならないのか、私には理解できない。こんなことは橋下知事も重々理解しているはずだろう。
本来、民の立場で行うべき業は、公的な機関が無料で行うべきではない。行ってもろくなことはないのだ。永遠に行政が面倒を見てくれるのであればよいが、実際にはそうはいかない。行政が民を圧迫し、民が立ち行かなくなってからでは遅い。業として成り立っている分野にボランティアを売りにして乗り込んでいくべきでは、ない。
教育は違う、ということであれば、まず他にすべきことがある。月に一回、市教研なる名目で半日与えている中学教員の公休日制度を廃止すべきである。既得権益として組合が手放そうとしないのだろうし、普通の政治家は強大な教職員組合の得票を気にしてこれに手をつけることはできない。橋下知事なら名目だけのこの制度を廃止できるのではないかと期待している。

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