座禅や立禅では何故、気分が安定して心地よくなるのか?
これは一定時間、同じ姿勢を維持し続けることで姿勢を支えるため以外の余分なエネルギーの消耗を抑えようとする機能が働き始め、必要箇所以外の余計な筋肉の緊張は取り除かれる事から始まる。
必要とされる箇所以外の筋肉は適当に弛緩し毛細組織レベルでの血流は促進される。更に、肩や肋骨周辺の筋緊張が緩和されるに従いそれまでの胸式呼吸が
腹式呼吸へと変わってくる。
2月6日付けの読売新聞のコラムに「東邦大医学部の有田秀穂教授(統合生理学)の研究では、一定のリズムで腹式呼吸を続けると、気分を安定させる脳内物質のセロトニンの分泌が増えることが明らかになった。」とある。
そのメカニズムはまだ解明されていないとは言え、鍵は呼吸にあるというのは間違いないだろう。
この心地よい状態を維持しながら、徐々に
身体全体の重みを感じ取るようにしていく。これはユックリと息を吐く時に感じやすい。やがて息を吸っている時でも変わらずに全身で重みを感じることができる様になるが、これは自然と腹式呼吸が安定してできるようになってきている事を示すと同時に、上体の余分な力が抜けてきていることも示している。
次に全身で感じている
重み、ズッシリ感を身体の最下部に持っていく。これもユックリと息を吐く時がとらえやすい。やがて床や地面と接している足により近い箇所により重みを感じ取るようになる。この段階では、下半身の余分な筋肉の緊張もより多く取り除かれてきていると考えられる。
この状態で立っている所を胸元などを押されたりしても、少々の力ではぐらつかなくなる。
例えば推手組み手などで、簡単に崩されたり、吹っ飛ばされていたのが、反対に多少のことでは崩されることがなくなってくる。
パンチなどの打撃には安定感が備わってくる。
これはよく言われる「気沈丹田」と同様の状態で
「上虚下実」とも言い、成道会では
「気を降ろす」とも表現している。
これは禅定やリラクセーションのひとつの目安にもなるが、組み手などで相手と対峙している時もこの状態がのぞましい。
「リラックス=腹式呼吸=身体の重みを最下部に置く」と仮定すれば、組み手の際や仕事等であせったり、あわてたりといった好ましくない状況を自身でチェックして修正するのにこれは役立つことが多い。
大事な時には「気を降ろす」ようにすれば、自分自身の心身を極力安定させた本来のチカラを発揮しやすい状態へとリセットすることができる訳である。
長年、ウェイトトレーニングをガッチリやってきた人はなかなかこの状態に進むことができないことが多い。
これは過度な筋肉の緊張を要求されるトレーニングを繰り返すうちに、筋肉が弛緩した状態を自分の身体で知覚することができ難くなってしまっているという点と、肋骨や肩周辺の筋肉を必要以上に硬化させてしまい、前述の胸式呼吸から腹式呼吸への転換がスムーズに行なわれにくくなっていること等が考えられる。
太気拳のみならず内家拳の各派が必要以上の筋力鍛錬を否定する理由は、このような所にあるのであろう。
又、呼吸が重要であるということを述べたが、意図的に腹式を行なう必要等はないと考える。
ヨガや気功では横隔膜を大きく動かす鍛錬をよく見るが、正しい方法でやらないとかえって横隔膜を傷付け内臓の位置関係に支障を来たし、健康を害することもあり得る。
太気拳では特別な呼吸法などは無く自然呼吸のみである。
打撃系格闘技の経験者で、立禅に取り組み始めてやがてこの段階に入って来るとこれまでの技に何らかの変化が現れてきたことを感じる人もいるかも知れないが、本当の大きな変化はまだまだ先の話である。
次回はこの次の段階、六面力の獲得について述べたいと思う。
半禅(技撃禅)の練習風景
空手拳法成道会
http://www.joudou.jp/

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