立禅で「気を下ろす」ことが出来るようになると重心の安定度は格段に高くなる。
これは、打撃系格闘技の人達の組み技対策として活用すると大変有意義だろう。相手が組み付いてきたり、タックルしてきた時にそれを対処する為の技術以前の問題が大きく改善されることは間違いないだろう。
さて、このまま立禅を続けていくと、ある段階から
身体が膨張する様な感覚になることがある。これは体験した人でないとわからない感覚であり、どのように表現してよいか難しいのだが、身体全体が膨張する様な・・・としか言い様がない。
部分的には円環の様に構えている両腕の内側に何とも言えない圧力を感じるようになる。意拳では意念(イメージ)を用いてこの感覚を引き出していく。
例えば、空気の一杯入った薄い風船を両腕で抱え、割らないように、腕から離れないようにそーっとその位置に保つ様に想像する。
次にその風船をイメージのうえで軽く(割らないように)圧縮する様にする。すると、両腕の内側に何とも言えない軽い圧力を感じ取れるようになる。
これは、磁石の同極を近付けていくと反発しあう様な感覚とも似ている。
現実にはそこには存在しないものをイメージすることで、つまり実際には抵抗負荷は無いのだが、そのように想像することでこの特殊な感覚を引き出していくことが可能となる。そういった意味ではこの意念を用いる方法は初期段階においてある意味、近道と言える。
最初に腕の内側に圧力を感じるのは、手の甲側よりも手の平側が感覚器官として発達しているからだと考えられる。
ある段階に入ったら、この様な意念を用いなくとも、この感覚を引き出せるようになる。
これは、「この感じ」というものをつかんでいる人達のみ共有できる感覚である。
さて、両腕の内側に感じている軽い圧力を、今度は腕の外側にも感じ取れるように取り組んでみる。その場合も、例えば空気の抵抗などのイメージを用いて構わない。
イメージを用いなくてもこの感じが出ればよい。
次に、両腕の上側、その次には下側とする。
その様にして今度は下肢に同様の感覚を感覚を波及させていく。
この様にして、やがて全身に膨張するような感覚が行き届く。
この感覚を分解すると、内側、外側、つまり前後左右の四面に力を得るとされる。
これに上下が備われば六面に力を得るとされ、これを
「六面力」と称する。
既に「気を下に降ろす」ことが出来る人は上下のうちの下に引かれる力は得ているということになる。
この状態で推手等を行なうと、接触している腕が力を込めているわけでもないのに非常に重厚となり、多少のことでは上体の体勢が崩されなくなり、ガードの腕も簡単には払われなくなる。
更にパンチに応用することが出来れば、見た目はスローでも非常に重い打撃となる。
この独特の感覚を「気」の感覚と捉える人もいるかも知れないが、日常生活や通常のスポーツトレーニングでは得られない、心身のリラクセーションに基づいた、
深層筋群が表在筋よりも優先的に機能している状態であろうと考えられる。
手足の動きとしては伸ばす、曲げるといった以外に捻る、つまり回旋するという動きがある。
曲げ伸ばしに回旋(内旋、外旋)が加わると螺旋となり、ここで動き自体は初めて三次元的なものとなる。
上腕を回旋させるローテーターカフ等のインナーマッスル(深層筋)は意識的にそれらを緊張させようとしても、大きい筋肉のようにそれを感覚することはきわめて困難であるが、これが先程の六面力としての感覚になっているのであろうと考えている。
又、このローテーターカフ筋は上腕骨を肩関節にしっかりと固定する役割も持っており、それが推手の際の腕の重さとなっているのであろうし、ストロークの短いパンチでも重い打撃になるのだろう。
人を飛ばす場合も、下半身の力を上半身に伝えるというのではなく、上半身は関節を安定させたままで下半身や背の瞬間的な力が解放されていると考えられる。
この「六面力」を獲得するまでに早い人で一年くらいはかかる。
次に、六面力の要といわれる上下(に引き合う)の力が現れるのであるが、それは次回コメントすることにしたい。
この段階に入って、立禅によって自身の内功が大きく変革したと感じる人も多いと思うが、実際にこれらが組み手などの模擬実践訓練でそれほど役に立つかと言えば、決してそうとは言えない。
本当の大きな変化はまだまだ先の話である。
立禅の練習風景
空手拳法成道会
http://www.joudou.jp/

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