成道会実践空手道で重視している身体操作のひとつに重心移動がある。
鍛えられた筋力を用いた打撃の威力は言うまでも無いが、自身の体重を利用した打撃の瞬間的な威力はそれを上回ることが多々ある。
地球上に存在する物質は全て「
重力」の支配を受けている。
重力とは地球の中心に引かれる力、すなわち引力であり、これは地球上のどこにいてもその支配から逃れることは出来ない。
例えば、10kg程度の重さの鉄球を1mくらいの高さから落下させてみる。
するとそれは、堅い材木で出来た床板を破損させるほどのエネルギーとなる。足指にでも落としたら骨にヒビが入ったり、折れるかもしれない。
ただ落下させるだけで、それ程の速度と威力が生まれる。
この当たり前の物理現象を打撃する際のエネルギーに利用してしまう。
重力に対抗することよりも、重力を味方にすることを選択する。
50〜60kgの物質が落下する時のスピードは大変なものである。
手元にある適当なもので試してみればすぐにわかる。
体重が60sある人は、60sの物質が落下する大きなエネルギーが最初から備わっているわけで、そいつを打撃の威力に転化する。
さてその際、
重力の働くラインは常に地面に対して垂直である。
身体のどこかに余分な力が入ってしまうと、落下しようとしている現象に対して身体のどこかでブレーキをかけてしまい垂直落下のスピードが減速され、せっかく発生するはずの大きなエネルギーを減殺してしまう。
垂直落下のスピードを減速させないためには、身体には余分な力みが一切入っていないことが求められる。いわゆる「
脱力」である。
力を込めた状態、つまり力んだ状態というのは、実感を伴い、身体で理解しやすい。
反対に
脱力した常態、緩んだ状態というのは実感が伴いにくいので、理解しにくい部分がある。
実際には完全に脱力するとその場に立っていることすらできるわけがない。
姿勢を支持するための筋肉が適度に緊張しているのでその姿勢を保てるのであるが、これは緊張の中に弛緩があり、弛緩の中に緊張があり、とも言える。ただ、この場合、知覚しやすい力を込めた状態よりも、知覚しにくい力を抜いた状態を先に身体で理解してしまうことが優先される。
つまり、
脱力した状態を先に知る必要がある。
その上で脱力を優先した動きづくりが必要になるのだが、これが簡単なようで難しい。個人差もある。
いわゆる「
意」の部分の関わりも大きくなる。
よく「肩に力が入ってるぞ!」等と言われるが、肩周辺がガチガチに力んで動きが固くなってしまっている時がある。
これは、より早いパンチを打とうと意識したり、より強いパンチを打とうとしたりすると生じやすい。
つまり本人の
意による影響は肩周辺に生じやすいと言える。
そこで調子のよくない時は、意が現れやすい肩周辺を自己観察するとよい。
「飯を食うときに箸を動かすように打て」とは、余計な意を用いずにより自然に打て、ということである。
その様にして、威力と速度ある打撃を自然に打ち出すためには必然的に重力を利用せざる得なくなる。
ある程度、脱力できたら、次に
重心を垂直に落下させるコツをつかむ。
次に、
重心を前後、左右と瞬時に移動させるコツをつかむ。
ボクシングで言うところのシフトウェイトである。
その際、膝の辺りで重心を捉えてしまうと、太ももの前側に緊張が生じ、動きにロックがかかってしまうので、
股関節で重心を捉える必要がある。これにて、太ももの後ろ側、すなわち人体中で最大のバネの役割を持つハムストリングが機能するようになる。
パンチでこのコツをつかむと、自身の体重を利用した打撃が可能となり、自分の体重×落下速度、これに加えて打ち込む角度が加わり、筋力に頼らずともその人なりの強力な打撃を手にすることができる。
一般的なパンチでは、
ストレートは後→前に、
フックは右⇔左に、
股関節での重心移動が利用される。
応用できる様になると、アッパーや蹴りでも重心の前後移動を転換して下から上方向へ、ナナメ方向へといった打撃の威力にすることが可能となる。
筋力による打撃はズシンと重たい。対して重心の瞬間的な移動による打撃はシャープでキレがある。
生涯武道を目標とする成道会では、これを優先的に体得することを求める。
その理由は加齢による筋力の衰えを補って余りあるからである。
さらに立禅による姿勢の変化によって動きの性質が変化するというのは、力の伝達形態が変わる、ということであるが、その前段階で身に付けておいても何ら支障がないと思われる。
内勁が開発され武術としての動きが備わってくると、重心移動、重力の利用は、あって当たり前のごく自然なものとなる。実際に獲得できるものはそれ以上である。
アスリーティックな筋力重視の身体動作から、より武術的な動きへと変換していく上でも内勁の開発の妨げにはならない。
会員各位、参考にされたし。
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(ニュートラルポジション⇔右シフト⇔左シフト)

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(組み手立ちによる左右重心移動・ニュートラル⇔右シフト⇔左シフト)
重心移動によるパンチ、右ストレート→左フック・(田中旭臣・初段)
参考文献
「からだには希望がある」(高岡英夫著/総合法令出版)
「ワールドクラスになるためのサッカートレーニング」(高岡英夫・松井浩著/メディアファクトリー)
「スーパーボディを読む」(伊藤昇著/マガジンハウス)
「新トレーニング革命」(小山裕史著/講談社)
「野球トレーニング革命」(小山裕史著/ベースボール・マガジン社)
空手拳法成道会
http://www.joudou.jp/

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