私事ながら、立禅の内容が止まることなく変化し続けており、それが、打撃にも、揺り(試力)、練り、さらには日常生活の所作や歩き方にまで現れてきていることは以前にも書き込んだとおりである。
数年前までは、よく書籍やビデオ、DVDなどの映像で紹介されている意拳の試力を数種類通り、見よう見まねで取り組んでいた。
空気の抵抗感などは感じ取れていたが、実際、本当に攻防の役に立つのかどうかまではわからなかった。
現在、その動きこそが推手のなかで活用できるできるものなのだということが理解できるようになっており、これらの鍛錬が血の通ったものとなっていると感じている。
動き始めても立禅の状態がキープされている様に、キープできる様にするのがこの訓練の目的であると考える。
攻撃にせよ、防御にせよ、相手とぶつかり合った瞬間、こちらの身体がゆるむことなく強固な状態であるために、動作中のどこでも骨格の支持力が発揮されていることを点検しながら取り組む。
その様にすると、動作中、空間上にある点と点とを結んだ線がフォームとして、形として形成されるが、この点の数が無数に増えていく。
具体的には、上下の力、横を支える力、下に下ろす力、上にすくう力、螺旋、などが確認され、結果として腕、足は三角形の形状を保ち、腕の運動の経路は肩関節の前にある、などを確認するためにゆっくりと動き続ける。
確認できる点の位置を数センチ単位から、1センチ単位へ、さらにミリ単位、1ミリ単位、1ミリ単位以下へとイメージ上、細分化することで運動の精度が上がっていく。
どのような体勢でも力の漏れがないことを点検して、動作中は数種類もの力が内在していることをも点検するので、身体内部のインナーマッスルを主とした骨格支持筋は常に優位的に活動するので、希薄であった身体内部はより濃縮された中身のつまった様な状態となる。
どの部分かは分からないが、脳の特定の部位は休むことなく活動し続けることになる。
脳は必要に応じて機能する部位があり、思考系、感情系、伝達系、理解系、運動系、聴覚系、視覚系、記憶系に分類され、いずれも右脳、左脳にまたがっていて、右脳はイメージ脳と言われ、左脳は言語脳と言われている。
例えば、人の顔を覚える時は眉毛の形や目や口の形ははっきりと覚えていなくても、その人の顔というのはイメージできる。これは非言語脳である右脳を使っているということである。
眉毛が下がっている、目は垂れ目で・・・などの明確な形状認識は言語脳である左脳によるものである。
試力で行われる運動は日常生活で用いられる運動とも、通常のスポーツでトレーニングされる運動能力とも異なるものである。
試力の際、脳のどの部位、領域が活動しているのだろうか?
運動系であることは間違いないが、それ以外のいくつかの部位も同時に活発に活動していると考えられる。
運動系と言うと、スポーツ等のダイナミックな筋肉活動をイメージしやすいが、以外と裁縫職人などの指先の細やかな作業が要求される職種の人たちの運動系領域の脳も発達しているらしい。
思考系領域は創造力や集中力を強くしたりする機能がある。
理解系領域は情報を理解するときに働くと言われている。
したがって、試力を行なっている時、脳内では運動系以外にいくつもの領域が連携してこの作業を行なっていると考えられるし、そのようなネットワークを強化してしているとも考えられる。
これまでにない運動を自身の身体に認識させる試みとも言えるので、恐らくであるが、脳の運動系にはかなり負荷がかかるであろうし、右脳でとらえているイメージで運動して、左脳で言語化して点検し、その内容を右脳でイメージ化して運動して、又、左脳で言語化して点検して・・・、の脳内活動が実に活発に繰り返されているのではないだろうか。
であるから、試力の動作中、脳の必要な活動部位の血流量は増大して、脳中枢を鍛えるトレーニングになっていると考えられる。
そのようにして鍛えられた脳の特定部位はその枝ぶりが発達して、それ以外の脳の部位との連携も密接となる。
つまり、脳が強化される。
動きに再現性が現れ、試力ではゆっくりと動いているところを実際には高速で動いたとしても、その内容のロス・パーセンテージを低く抑えた動作が可能となる。
脳を酷使するので中枢系の疲労が強い時にこの訓練に取り組んでも効果が薄いと言われるが、反対に疲れている時にこの訓練に取り組むと、頭がすっきりして疲労感が解消されることもある。
これは、脳のある部位が疲れて萎縮している時は、脳の他の部位を使うことで、疲れている部位が活性化して回復するという特性によるものと考えられる。
いずれにしても、脳がその運動状態を学習できたら、それ自体は衰えることがないので筋力の低下等とは別に、試力で養成された動きそのものは歳をとっても変わらないのかも知れない。
脳を強化する高度な中枢系トレーニングとして試力をとらえてみると、それもまた面白く、取り組み甲斐のある訓練と思えてくる。
太氣拳成道会
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