立禅において養成される能力では構造能力がその基盤になると考えられる。
上半身は肩が前に落ちて、肩甲骨の機能が発揮できる状態だが、頭はその頂点を糸で吊るされている様な状態となる。
その状態が更に進むと腰は下から上に巻きあがった様な、いわゆる吊り腰という形状に発展する。
進化の過程で動物の前足が人間の手に変わった。
物をつかむという行動が物を操るという行為に発展して、その積み重ねによって人間があらゆる文明を創造してこれたのは、動物としての前足を「手」に変えることができたからである。
二足歩行になった人間は、前足で地面をおさえ、自身の骨格を支え続ける必要はなくなったが、その前足としての強さは、自身の骨格の中に眠っている。
立禅は進化の過程でしまいこんでしまった動物としての機能上の強さを人体に復元させるような訓練法であると考える。
四足歩行の動物においては、胸郭が縦長で、肩甲骨は胸郭の横に付いている構造となっており、前足で自身の身体を支え続けやすい形状となっている。
人間の場合は胸郭が横長で、肩甲骨は背中に付いていて、腕を自在に動かすことができる構造となっている。
日常生活では前足、つまり腕で自身の身体を支える必要がなくなった。
動物ならば、四足で走ったり歩いたりを何分でも続けることができるが、人間が四つん這いで動き回るとすぐに肩や腕が疲れてしまい、とても動物のように長時間、動き続けることはできない。
それほど、動物の前足は骨格を支えるという点では元々大変に強靭であると考えられるが、元々は動物であった人間の骨格にはその強靭さがあまり発揮されることなく眠っているものと考える。
打つ、叩くといった行為、その能力の高さが要求される武術、格闘技においては、身体の前側にかかってくる負荷に対する抵抗力、支持力が要求される。
ストレートパンチ、直突きにおいては突き出した拳が衝突した物体をいかに激しく損傷させるかが問題となり、それがパンチ力として評価される。
そのために筋トレやウェイトで、腕を突き出す力の強さを増大しようとし、大きな負荷に対抗できるようになるためにトレーニングをするのだが、骨格の支持力という点においては、動物の前足の機能には劣るものと考える。
動物はそれほど太くもない前足で自身の身体を支え続けることができるのだから、それは、その形状そのものにその強さがあると考えてよい。
猫や熊の上半身は二本足で立ち上がった姿を見ると、肩が横に張っているような状態ではなく、むしろ肩がないと言った方がよいくらいだ。
さて、そのように動物が立ち上がった時の姿勢を観察してみると、人間で言うところの腰の辺りは、人間のように後ろ側に反った形状ではなく、真っ直ぐに近い形状である。
脊柱全体の形で見た場合、前足で身体の前側を支えるためには腰の形もこのような形状である方がより強靭であると考えられる。
骨格が連結している構造体としての強靭さを持ち合わせることが必要であり、そのような強い構造を養成していくことが立禅の大きな目的のひとつであると考える。
二足歩行に進化した人間は手で物を持つ、運ぶ、かつぐといった他の動物にはできない運搬能力を手に入れた。
それをより効率的に行なうために、脊柱の形状も動物本来の形から、生理湾曲を有した形状に変化していったのではないだろうか?
人間の脊柱に適度なカーブがあるのは、重たい頭を骨格の一番上で支えるためとも言われるし、走ったり、激しく動いたりする際に地面から伝わって来るその衝撃から脳を保護するためにスプリング状の形状になっていったとも言われている。
いずれにしても、身体の前側に対しての支持力という点では動物的な構造の方が適しており、肩は下に落ちて、腰は反り腰に対して吊り腰といわれる状態が理想となる。
この吊り腰と言われる腰椎から骨盤にかけての形状は恥骨をロールアップ、つまり、巻き上げたような状態であり、その獲得には訓練が必要であり、その訓練法が意拳、太氣拳では立禅になる。
一見すると、静止しているだけにしか見えないが、その中では全身を弛緩させることによって伸筋の活動を優先的に引き出し、肩は下垂、腰は巻き上げられ、動物に近い骨格構造を構築させ、それを日常化するための強化が行なわれている。
言わば、背骨を真っ直ぐにして力が漏れることなく発揮できる状態を養成しているとも言える。
これは、人間の身体の中に眠っている動物としての強靭な骨格構造を復元させる試みであり、武術、格闘技に限らず、あらゆるスポーツ、運動から、音楽、絵画などの芸術活動、又、日常生活を送る上での健康管理でも有益になるものと考えられる。
稀に、元々、そのような骨格構造を持ち合わせている人がいて、ボクシング等では大変な強打者として成功している場合もある。
そのような選手が裸になった場合、腹筋が縦長ではなく横長であることが確認でき、腰が元々強い吊り腰構造であることが推測される。
反対に言えば、立禅によって動物のように強靭な骨格構造をモノにすることができたら、彼等に匹敵するか、それ以上の打撃力を獲得することも可能であると考えている。
太氣拳成道会
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