20世紀末はベルリンの壁崩壊を象徴とするソ連、東欧諸
国の崩壊で冷戦の終結と東西ドイツの統合で幕を閉じた。
21世紀は世界一の軍備力を背景にしたアメリカに有利な
グロバール化の始まりであり、アメリカの覇権主義であり、
世界の憲兵として人権、民主主義の一方的な押し付けは間
違ったイラク戦争を引き起こし中東紛争とテロリズムの拡
大で世界平和を脅かしている。更に、地球規模での石油、
食糧、水資源を求めての覇権争いが激化し私たちが住む地
球は人的自然環境の破壊が進行して南北の貧富の格差がま
すます拡大しているようである。
イタリアも90年代に入って旧政治体制が一挙に崩れ去り
大政党であったキリスト教民主党と共産党さらに汚職腐敗で
社会党は消滅した。それまで政府が安定しなかったが小選挙
区制の導入によってイタリア政治の二極化をもたす大きな変
化が有った。EUの誕生とユーロ通貨体制に煽られてか、これ
までの不公平な社会システムの格付けとコネ社会からやっと
脱皮しつつ在る様だ。あの商工会議所のR.E.C.試験も廃止さ
れた。食品以外の小規模の小売店は許可なしに自由に営業
出来るようになった。営業時間も今では休日も法律上は自
由に閉開店が出来るようになった。
そして今、当社も世代交代期を迎えている。ヨハネス・
パオロ2世教皇が就任した同じ年に生まれた一人娘が成
長して私の後を継ぐという。父親として大変嬉しい事である
が、96年から始まった経営不振は98年、ついに対好調期の
77%まで売り上げは落ち込んだ。以後なべ底の如く緩やか
な快復基調には有るが戻る事はあるまい。
ここ10カ年の間に倒産した取引先は15社に達し、かっての
主力商品であった皮革製品は全滅し、片肺営業を余儀なく
され、やっと呼吸してる状態だ。此の原因の殆どは日本経
済の未曾有な大不況によるもので、消費税が導入され其れ
が5%に増税された時期と合致する。
人口13億人の中国の存在は怖い。世界の製造工場と言
われ、人経費は欧州の10分の1だと言う。当社が扱ってきた
皮革製品、家具、インテリア、アパレル等何一つとっても当
社の取引先は中国にシフトしている。イタリアは勿論の事ド
イツに於ても中国物産が市場を席巻して生産者から仕事を奪
い、失業者の増大は外国人を排し、結果として貿易不均衡、
摩擦を生んでいる。
いつだったか、朝日新聞の電子版を読んでいたら日本の老
舗企業の社歴年数は20年以上だと言う。この基準に当ては
めると当社も老舗企業の仲間入りをした。一企業が20年以
上の活動生命を持続する事は大変まれだそうだ。移り変わり
の激しい現代に有って裏返せばそれだけ信用が増したのか?
これからは、娘の若い力に経営を委ねることに成るが、果た
して此の未曾有の不況から抜け出して再構築が出来るの
か、と大きな疑問と不安を抱いている。
私は娘に「この危機を乗り越えるには売上金額を増やす
か、新しいバイヤーを見つけるしかない」と主張し、娘は
「お父さんの時代はもう終わった。今はインターネットの
時代よ。仲介業の貿易はもう必要ないの。売り手も買い手
も仲介者が居なくても充分に流通する」と言って議論がか
み合わない。むしろ、冷水を浴びせられるおもいである。
私は娘に続ける「大企業でも、当社の様なちっぽけな企業
でも事業経営者は孤独で常に真剣勝負だ。なぜなら、事業
に対して決定判断を誤れば企業に大損害を与える。
その結果はバランス・シートの上に冷たい数字で表記され
るだけだ。だから、何時も経営者はバランス・シートを常
に頭に置いて仕事をしなければ成らない」。
翻って私の人生を見返した時、一番大切な実りある大半を
本人の意思に関係なく貿易業者として捧げた。美辞麗句的に
言えば「私は貿易を通じて日本とイタリアの文化の橋渡しを
して来たんだ」と、自負している。私はこの未曾有な不確実
性の時代をどのように生き、どのような営業活動をしなけれ
ばならないかを問われている。そしてこれから先、私は「日
本人とは何か?」を考え、イタリア人が一番楽しみにしている
人生のテルツア・エタを考えながら、立ち止まり、考えなが
ら生きていくのである。
完。

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