2月11日チャンピ大統領は上下両院の議会を解散し、4月9日、10日の投票日が確定、イタリアは全面的な選挙戦に突入した。
この日の夜は82カ国が参加する第20回冬季オリンピック・トリノ大会開会日であった。イタリアで開催されるオリンピックは1960年ローマ大会以来40年ぶり、チャンピ大統領夫妻は開会式に出席したが政府を代表するベルルスコーニ首相が欠席する異常なセレモリーであった。
なにが何でも政権にしがみつく醜い首相
今回の総選挙は周知のように今後7年間イタリアの舵取りを決める総選挙後の大統領選挙、そして秋には憲法改正をめぐる国民投票に続くイタリア共和国の将来を決定する極めて重大な総選挙となる。現首相のベルルスコーニには一昨年の欧州議会選挙で敗北し昨年の全国州議会・知事選で大敗、実質的な統治権を失い政権をゆだねる市民感情との乖離は大きい。総選挙に勝ち抜く為に上下両院の多数を頼みに最後の仕上げとして昨年12月14日上院で選挙法を完全比例代表制に戻す法案を賛成160,反対119,棄権6をもって自派に有利な選挙法を改正した。 5年間の右派政権の失政は大きく反対に左派は有利に展開して少なくとも昨年秋までの予想では左派が大勝する予測がされていた。
ところが1月に入って左派支持者の数百万票が棄権に廻りそうな情勢で青から黄色信号に変わった。その理由は国営TV3局とベルルスコーニ自身が持つ民営TV3局を正に私物化したTVとラジオ出演による執拗な反響宣伝と攻撃が繰り返されている。イタリアにはパル・コンデイチョン法と呼ばれるマスメデイアにおける与野党に対する時間配分平等法が有るのだが全く法無視で毎日のようにテレビとラジオ放送に出演している。先のトリノでのオリンピック開会式にも出ずテレビ出演している。余りのひどさにTV監視委員会からTV4チャンネルに罰金刑まで言い渡されている。
事の始まりはDS 左翼民主主義者と日本の労働金庫+中央労災に相当するレガコープ連合参加の金融(保険と銀行)UNIPOLグループとの癒着の疑惑が表面化してDSの清潔な左派イメージを灰色に染めてしまった。ベルルスコーニ首相はジャーナリストとの恒例の年末記者会見ではじめた名指しの左翼指導者に対する攻撃理由は「イタリア生協活動の金融元が左派政党に不正融資がされている疑惑をミラノ地検が調査に乗り出した。」と生協連とDS議長と書記長を攻撃、その後、検察は「事実は有ったが違法ではない。」と表明した。今度は「検察が不正疑惑をもみ消し司法はアカだ」と言い出し、流石の連合与党内の各党指導者もベルルスコーニに対して政策で論議すべきでスキャンダル、個人攻撃は右派の勝利には結びつかない、と水を差された。それでも、ベルルスコーニは個人攻撃とアカ攻撃を辞めず、 DSから告訴されようとしている。こうしたベルルスコーニの常識を逸したような反共攻撃にもかかわらず2月初めの世論調査では中道左派が中道右派より約5ポイント上回っている。
イタリアの政党は旧イタリア共産党と旧キリ民党が中心
次の添付の表は La Repubblica 05年4月6日紙より作成
05年 州知事選 04年欧州議会選 01年国会選
Uniti nell'Ulivo統一オリーブ 33.7% 31,1% 32,2%
Verdi 緑の党 2,6 2,5 ==
Pdci 2,6 2,4 1,7
Di Pietro-IND. 1,4 2,1 3,9
Udeur 2,4 1,3 ==
Rif.イタリア共産再建党 5,5 6,1 5,0
諸 派 3,8 0,8 1,1
中道左派の合計 52,0 45,5 43,9
F.I. がんばれイタリア 18,6 21,0 29,4
A.N.国民同盟 10,5 11,5 12,0
Udc 5,7 5,9 3,2
Lega Nord 北部同盟 5,6 5,0 3,9
Nuovo PSI 新社会党 1,4 2,0 1,0
諸 派 3,0 0,7 1,5
中道右派の合計 44,8 46,1 51,0
メ モ
1, Uniti nell'Ulivo = Ds 旧イタリア共産党, Margherita 旧キリスト教民主党, Dini 元首相, Democratici , Sdi 旧社会党左派
2, 旧Italia共産党PCI から DS左翼民主主義者, PDCIイタリア共産主義とRIFONDAZUINE共産主義者再建党に分かれる。
3. 旧キリ民党からMargheritaキリ民党左派マルゲリータ, Democratici民主主義者、 UDEURキリ民党中道, Forza Itariaがんばれイタリア, UDC キリ民党右派に分かれる。
4. 旧社会党から SDIイタリア民主社会左派, NUOVO PSI 新社会党右派に分かれる。
5. 中道右派連合の中核は Forza Italia で旧キリ民党中道右派を中心に旧共和党、自由党、民主社会党など小党を結集した。
6. 左派が勝利した州名は Piemonte, Liguria, Emilia Romagna,
Toscana, Marche, Umbria, Abruzzo, Lazio, Campania, Puglia,
Calabria,得票総数は14.547.255票
7, 右派が勝利した州名は Lombardia, Veneto、
得票総数は12.119.015票
イタリア人が一番信頼している指導者はチャンピ大統領
有力週刊誌「エスプレッソ」グループが発表した世論調査(ウルビーノ大学政治社会研究所が年末に実施)結果、モ イタリア人と国家 メ によれば信頼を寄せている国家諸制度の信任は以下の順位である。2005年を前年と比較すると如何に中道右派の中央政府が不信任で有るか一目瞭然である。( )は2004年
2005年の信任度:
1. 大統領 05年 80.1 %, (68,8%)
2, 警察・軍隊 69,8 (72,7 )
3, 教会 61,3 (58,1 )
4..学校 59,8 (55,1 )
5.. EU 連合 52,4 (50,3 )
6, 市町村行政府 45,5 (38,5 )
7. 司法 43,0 (42,2 )
8. 国家 37,0 (32,1 )
9, 国会 上下両院 22,5 (不詳 )
10. 中央政府 18,0 (20,6 )
11, 諸政党 8,7 (10,1 )
大統領から順番に私の一言コメント
1. 一番の人気者チャンピ大統領の任期は今年5月13日まで。再選の声は左派、右派にも大きいが、チャンピは昨年暮れに尊厳なる任期を全うして終了したいと表明した。
2. 軍隊: イラクを始めアフガニスタン、旧ユーゴ等約9000人の軍隊を外国に派遣 し、その財源はガソリン税が中心。イラクからの撤退が始まる。
3 教会は偉大な前教皇の死から間もなく1年になる。教会行事に参加する市民は全体 の41%,青年層が増えている。
4, 学校制度は前の左派政権で新制度法が国会で可決されたが現政権になって引繰り 返してしまった為に混乱状態に有る。
国立、私立校との関係を始め高校の義務教育化。
5. EU は25カ国に拡大されたが東ヨーロツパの加盟に意見は分かれている。ユーロ 貨幣の導入発効について右派政権は懐疑的で初めの外務大臣を更迭し何らコント ロールをしなく物価は上がり続けた。
6. 市町村行政は右派政権早速以後、毎年の予算で市町村行政費を削減し市民への サービスは低下の一途をたどっている。
7. 司法への反共攻撃は既に述べた。検察官と裁判官は入職した時から分かれるよう になった。
8. ベルルスコーニは前回の選挙でテレビの前でイタリア国民との契約と称して公約 を行ったが、結果は履行されず国家のサービスが低下し、ストライキが多くなっ ている。
9. 国会は右派が多数決で都合の良い党利党略の憲法改正、法律の制定をしている。
10. 中央政府がこの5年間にやった事はベルルスコーニ自身を含めて自派の利得を最 優先して所得の格差は開き250万人は新しい貧困者を生み出した。
11. 諸政党は結果として市民の要求に応えず政治離れを起し、政治的に無関心者を多数作り出した。マスコミは政治問題をまるで「ショウ・劇場」のように演出してる。
市民の最大関心問題は経済
世論調査社EURISKOが昨年末実施し1月に発表した「2006年の展望」によれば2005年は前年より悪化したと答えた人は90%に達しアンノ・ネーロ(黒い年)であった。あなたにとって最大の問題は何ですか? 答えの第一位は「経済(景気動向、雇用、労働、給料等)」で 二位「移民者問題」以下を大きく引き離している。
イタリア中央銀行2002-2004年の国民経済状態の発表によれば持ち家率は68%でユーロパ内では一番高い。(レート:1ユーロ=140円)
一世帯当たりの年収入は正味29483ユーロで02年より名目で+6,8%,正味で+2%であったが給与所得者は逆に-2.1% 減少している。更に注目すべきは給与所得者と自営業者の格差が02年が9730ユーロだったのが04年には15482ユーロに拡大している。以下、カテゴリー別に見ると
* 現業工員 04年 24,080ユーロ対02年より - 0.8 %
* 事務員 33,692 - 0,2 %
* 年金者 22,994 - 0,1 %
* 自営業者 46,358 + 11,7 %
* 事業主・専門職 58,611 + 19,2 %
イタリア人にとって正義とは何か!?
イタリアはこの5年間の間に貧富の格差が拡がっている。上記のイタリア中央銀行の発表数字を見てもハッキリしている。特に年金生活者の年金月額が500ユーロ以下で生活している年金受給者が800万人も居る。一方で新成金と言われる社会層は10%に富が集まっている。経済犯罪は再び増えつつありパルマラット不正事件はその象徴であった。
上の政党表を見て判る事は護憲勢力は中道左派であり右派は改憲勢力である
2極構図となっている。予定されている憲法改正国民投票は一方的な右派の多数決で上下両院で可決されたが、一国の基幹法である憲法に野党が蚊帳の外に置かれた事は前代未聞である。かって制定された現憲法制定諸党であったキリ民、共産党、社会党、共和党等は現在は存在していない。
イタリア人にとって正義とは何んなのかを問いたい。イタリア左翼が総結集して戦うイタリア中道右派政権の大黒柱であり少なくとも未だ係争中の灰色の首相がイタリア人の長者番付け第一位の金持ちで反共をテコに民主主義と自由主義者を自称して権力欲に燃えるベルルスコーニを越えられるかどうかが見物である。世論調査結果を見てもイタリアの諸政党、中央政府、に対して市民が政治不信に陥っているかを良く示している。イタリアでは政治資金規制とモラルが曖昧になっているからだ。一方で国家予算の中には各政党に配分される政党活動資金が交付されている。青年の大きな問題は雇用と社会悪に引き込まれる危険性を秘めているからだ。雇用は確かに増えつつある。しかし、内容はプレカリオと呼ばれる臨時契約雇用である。つまり、不安定なのだ。選挙民は今、左派政権誕生に向けてイタリアは大きくカーブを切っている。
正にイタリア左翼の総結集であり大きな試練を迎える正念の場に差しかかっている。それは、選挙民は右派、左派に関係なく、かってのような政治イデオロギーでなく、誰が富のパイを厚く大きくし、誰がそのパイを社会的に公平な配分をしてくれるかの政権に掛かっている。
完。

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