イタリアに貿易会社を興して27年 (2)
先ず、売手のメーカー探しからスタート、取り扱い商品に皮革製品とアパレルを選んだ。当社が選んだ商品群を生産してる工場の規模は10-20人のアルテジャーノと呼ばれる伝統的な手仕事の職人オーナー工場が中心である。そして彼らが、イタリア経済の多くを担っている。
私のように後発者の新たな日本市場への参入は殊の外厳しく、結局は知人の紹介による日本社会のコネに頼る事になった。紹介を受けた取引先から信用を得るために、誠実、安全、迅速な対応と経済効率性、商品クレームに対する解決方針を掲げてビジネスを展開した。一社が成功すると次々に新しい取引先が紹介され年平均10社に増え営業が成り立つ迄には5年間掛かった。
モノの見方がイタリアと日本では逆立ちしている。男言葉と女言葉がある日本語、イタリア語にはそれが全くなく男女共、言葉の表現は共通である。従って聞き方によってはきつく、高圧的に聞こえ腹が立つ事もある。美しイタリア娘が発する言葉は汚さと生意気ささえ感じる事もある。当のイタリア人達はごく当たり前に話しているのであるが、それを受ける日本人は戸惑ってしまう。提出書類の返事の仕方が違う。日本では設問に対して○又はXで答える。この国では正しい答えにX印だけを付ける。商店で買い物をした時の釣り銭計算は引き算が日本、イタリアでは逆に足し算に成るのだ。このように逆立ちした物の考え方はイタリアの商習慣と日本の其れとの間には幾つかの基本的で微妙なニアンスの違いを生み、争いの基となる。
日本ではお客さんは神様であり、お客は常に正しい。お客は上位にあり売り手は下位にあるように想える。この考え方は江戸時代の士農工商の名残か?
一方、イタリは売り手と買い手は平等である。いやむしろ売り手の方が強いかもしれない。日本ではサンプルについては材品質、仕上げ、形、色等が生産する商品のサンプルに体現していなければ意味がない。ところが此の国のサンプルは、生産する商品は大体こんなイメージである、と説明される。ここからクレームが発生する。イタリアの法律に従えばクレームは商品を受取ってから8日以内に申し立てないと無効になってしまう。しかし日本からのクレームは半年も過ぎてから申し立てるケースが多く交渉が難航する。
商品価格の決め方の逆立ちはその違いを象徴的に表している。イタリアの商品価格の決め方はちょうど家を建てる時の様に下からレンガの積み上げ方式である。最後に適性利益として製造業では30-35% を上積みして最終の売値単価を決める。それに対して、日本では先ず商品の小売り価格を決めて下請け業者には「この金額でやれ」と価格を押下げる方式となる。
イタリアでは昼食、夕食等会食は最大な接待方法である。会食中に政治経済文化社会問題や趣味、スポーツ等多種が話題に昇る。この会食の時、必ずと言っていいぐらいイタリア側から質問されるのは、日本の政治、経済景気の現状と見通しだ。政治、経済話題について日本国内では皆無に近いと日本のバイヤー達は異口同音に答えて居る。こうした会食の話題に慣れていない日本人はややもすると会食を敬遠しがちとなる。いずれにしてもイタリア人の接待は其処まで。夕食後私も疲れているから宿に帰って休みたいと思いながら二次会、ナイトクラブへ同行、断ると付合いが悪いと言われビジネスに大いに影響する。日本人だけで寛ぎ、ホステスを呼び酒が廻ってくると、一夜の伽を要求し伽料の交渉もさせられる。これもビジネスの内と、怒りを抑えて我慢する。昼間メーカーで散々商品単価を値切り倒しておきながら伽料の高さは問題にしない。
(以下続く)

0