イタリア左派の再起は本物か?
中道右派ベルルスコーニ時代の終焉を思わせるような21世紀初頭の政治、社会経済の枠組みを決定すべき一連の政治戦の最後を飾るイタリア憲法改正を問う国民投票が6月25/26日に実施され中道左派が前政権右派が改正した憲法を61.3%の高率をもって葬った。
今回の国民投票の勝利は極めて大きな意味を持った政治戦だった。
それは4月の総選挙で予想外の接戦の末25000票の僅少さで左派が勝利、これを受けて右派は議院構成、大統領選、プロデイ政府の組閣そして5月の統一地方選を通じて執拗な巻き返しを計った。
国民投票に向けてのキャンペーンで、ベルルスコーニ前首相は「国民投票に"NO"を投票するイタリア人はイタリア人に値する資格を欠く。」
更に北部同盟の幹部は「"NO" に投票するイタリア人はバカだ!」との発言に市民から「これ以上イタリア人を侮辱する事は許せない。」と経済日刊紙が経営する "ラジオ24" 放送を通じで抗議していた。中道右派の憲法改正について支持 " SI" した州はロンバルデイアとヴェネトの2州だけ(但し、州都のミラノ市、ヴェネチア市は"NO"が勝利)で他の18州で選挙民は"NO" を投票して憲法改定を覆した。
イタリアには2種類の国民投票制度がある。
愚か者であった私は30年以上もこの国に住んでいながらイタリアに2種類の国民投票制度が有った事を今回始めて知った。
1. レフェレンドム・コツテイツチィオナーレ= REFERENDUM COSTITUZIONALE 憲法投票 憲法138条第2項による人民投票は、憲法改正について。1議院の5分1、50万の有権 者または5つの州議会から要求がある場合には人民投票が行われる。
有効投票の過半数によって改正が承認される(138条2項)。両院での2回目の議決が3分の2以上の多数で行われた場合には投票は行われない(138条3項)。
今回争点になった条項は全138条のうち前政権と上下両院議会で可決された憲法第2部に属する国家組織に係わる約50条項で2005年11月18日の官報269号で公布された。
* 首相の権限強化 首相の公選と閣僚の任免権と議会解散権
* 国家元首の権限はく奪、 首相任命、議会解散権、非選挙権を40歳に引き下げる。
* 州への分権化 医療・保健 学校教育、行政警察権
* 議会は下院に最終決定権と優先権を与え上院は州の聯合体にし議案審議のみ、両院の議員定数を半減
* 必要に応じて上下合同の議会を開催
周知のごとくイタリア憲法は1946年の制憲国民投票によってそれまでの王制から共和制に移行した。
言うまでもなくイタリアの憲法は2度とファシズム体制を作らないようにすべての国家機関でダブルチェックが出来るようなシステムと労働に基礎を置く人民主権と民主主義を謳っている。それが戦後60年も経つとあちこちで現状に合わない条項が出て近代化が利かない体質になっている。
現に当時の制憲政党は存在していない。今回前右派政権が数の力で憲法改定を強行した事に市民は"NO" と答えた。
従って、今の左派政権はイタリア人の大多数が納得出来る憲法に書き換えようと、対話のテーブルに着こうと呼びかけている。
否決した改訂案では同等で平等のサービスが受けられるイタリア人がサッカーチームのようなA級、B級に差別される。
統一イタリアが破壊される。と教会も反対した。
2. レフェレンドム・ポポラーレ= REFERENDUM POPOLARE 人民投票 Italia憲法75条による
1970年5月25日、法律352号で制定された。
条件は50万人の選挙権者または5つの州議会が請求する時には、法律または法的価値を持つ行為の全部または一部の廃止を決定するために人民投票を行う。
租税および予算、大赦および減刑、国際条約の承認および批准に関する法律については、投票は認められない。
下院の議員の選挙権を持つ18歳以上の市民は、すべて投票に参加する権利を有する。
投票の対象となる案件は、有権者の過半数が投票に参加し、有効投票の過半数に達した場合に(50%+ )、承認される。
従って、別名、法律廃止人民投票と呼ばれる。
普通私たちが国民投票制度と呼んでいる制度だ。
70年代は4回有り、始めての国民投票は74年の有名な離婚法であった。教会から始めて世俗の社会生活倫理を確立した。
80年代は 4回有り、妊娠中絶法、物価スカーラモービレ、 原子力発電所と研究禁止、
90年代は6回あり、99年4月18日の国民投票では比例選挙制の廃止と完全小選挙区制の導入。
3. 最近の国民投票率の動向をみる。
* 95年6月TVのコマーシャルについて 57.9 % 結果は有効
* 97年6月 ゴールデン・シュアの廃止 30,2 無効
* 99年4月下院議員25% の比例選出制度の廃止 49.6 無効
* 00年5月 司法官のキャリア分離 32.2 無効
* 03年6月 労働憲章18条 25.7 無効
* 05年6月 受胎、受精 25.9 無効
* 06年6月 今回の憲法問題 53.6 有効
以上見てきたように毎年の国民投票で市民は投票に行かなかった。
高い費用をかけて無駄使いだと批判の声が大きい。
今回は国民の意識が高かった。
にも拘らず約半数の選挙民は投票に行っていない。
民主主義の原点と言われる直接参加の現行の国民投票制度の善し悪しが問われている事も事実である。
4. プロデイ政権は3戦3連勝して中道右派の巻き返しを振り切ったが、お先は決して明るくない。
事実、上院では中道右派の一部の賛成票を得てアフガニスタンへの軍隊駐留を認める信任投票が行われ可決されそうだが、再建共産党と同党から分かれた PDCI 合計8議員は反対票を投じと言う。中道左派の全8会派を統括するには並大抵の努力では納まらない。
次の関門は金融・財政政策である。7月には80億ユーロの追加予算組み換えが待っている。
労働組合側は早くも「今回は金持ちと脱税者が払え!」と身銭を切る相談は乗れない、と政府を牽制。
プロデイ首相はUILの第14回全国大会に出席して脱税との戦いを宣言した。
首相によれば1000億ユーロの脱税が有り、国民総生産の7%に達している。
中道左派政権に対するイタリア人の期待は大きい。

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